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@IT > SPSS製品 導入事例探求 第22回 富士火災海上保険編 |
富士火災海上保険株式会社(以下、富士火災)は、1918年(大正7年)設立、大阪に本社を置く損害保険会社である。従来、取り扱っている保険商品は代理店(保険販売専業、自動車整備業、カーディーラー、不動産業者等)を通じた「チャネル販売」が主流であったが、近年はコールセンターやダイレクトメール等の「通信販売テクニック」をチャネル支援に活用しているそうだ。 同社は2002年のオリックスならびにAIGによる資本参加を契機に、通信販売テクニックの導入に取り組んできた。その一方で、こうした取り組みを支える「分析インフラ」の拡充にも力を注いでいる。 今回は、同社における「Clementine」を核とする分析インフラの概要とその活用方法について、富士火災海上保険会社 セールス&マーケティングスタッフ 中谷 謙一氏に話を伺った。
中谷氏は、もともとAIUでデータベースマーケティング部長を務めていたが、AIUが持つダイレクト販売のノウハウを移植するため、2002年に同社へ着任、データベースマーケティング室を開設した。同年11月からは、コールセンターを活用する「リードジェネレーション・プログラム(見込み客の発掘プログラム)」のテストマーケティングを開始した。従来、同社は保険商品の開発に専念し、マーケティング・販売は代理店に任せていたのだが、中谷氏が導入した「リードジェネレーション・プログラム」により、初めてデータベースマーケティングを主導することとなった。 それまでの同社の主力マーケットは個人マーケットであったが、前述の資本提携を機に中小企業マーケットへの戦略的転換を行った。同プログラムはこの戦略的転換を促進するためのマーケティング手法である。テストマーケティングの結果は上々で、データベースマーケティング室は、2003年4月に「データベースマーケティング部」へと格上げされる。同年7月には、40席のアウトバウンド(企業側から顧客への通話)専門のコールセンターを設立し、データベースマーケティングに本格的に取り組んでいったそうだ。
2004年4月、同部は「データベースマーケティング統括部」へと再編成され、ダイレクトマーケティング部がその下に設立された。そして新たに取り組んだのが、「扱者支援型通販」というものである。「扱者」というのは代理店や直販社員を指す。新聞・雑誌広告などで頻繁に見かける他社の広告では、一般消費者の申し込みを保険会社が直接受け付ける。つまり、ダイレクト型の通信販売を行っている。しかし、富士火災では、自動車保険の既存契約者等に向けてダイレクトメールを送付し、保険加入の申し込みは代理店で受け付ける方法を採用した。通信販売の手軽さと同時に、見込み客が望めば、代理店から詳細な説明を受けることができるという、従来のチャネルが持つ「対面販売」のメリットも組み合わせたのが「扱者支援型通販」である。
中谷氏によれば、「イベントドリブン型」のマーケティングも2004年7月から開始したそうだ。これは、ユーザーにとっての「イベント」(誕生日、保険料支払い、保険対象車両の買い替えなど)のタイミングでコミュニケーションを行うものである。企業側の都合(新商品発売時など)で一律のコミュニケーションを行う場合と比べ、個々のユーザーの状況に応じたコミュニケーションが行えるため、顧客の反応率は当然のことながら高くなるのだそうだ。 同社のマーケティングはさらに進化を続けた。これまでのように代理店が保有する見込客だけに依存するのではなく、同社自身が見込客リストを保有してマーケティングを行うために、2005年4月にアソシエーション・マーケティング部を設立、「アソシエーション・マーケティング」に着手する。アソシエーション・マーケティングとは、さまざまな団体・組織を通じてマーケティング施策を展開するものである。同社の場合、「商工3団体」と呼ばれる全国商工会連合会、日本商工会議所、全国中小企業団体中央会に属する法人企業をターゲットとし、法人向けの保険販売を拡充していった。
リードジェネレーションのテストマーケティングから始まって、扱者支援型通販、イベントドリブン型のマーケティング、アソシエーション・マーケティングへと、同社がデータベースマーケティングの新たな手法を次々と展開する間、同社の分析インフラは、基幹ホストコンピュータからその都度必要なデータの抽出をシステム部に依頼して、分析を行うというスタイルのままであった。
そのころ利用していた分析ツールは操作に慣れた特定の人間でないと扱えないという問題があり、また、その分析ツールを扱う担当者がシステムには詳しいが、マーケティングにはそれほど詳しくなかったため、思うような深い分析がなかなか行えなかった、と中谷氏は当時を振り返った。 そこで、同社では、クライアント/サーバ型のマーケティングデータベースシステム(以下、MDB)を構築し、分析インフラの強化に乗り出すことを決定する。MDB構築の目的は次の3つである。
新たに構築されたMDBでは、基幹系ホストコンピュータから日次バッチ処理によってマーケティングDBサーバ(データウェアハウス)にデータが移行される。そして、定型分析は「Oracle Discoverer」が、一方非定型分析には「Clementine」が利用されている。
MDB構築にあたっては、ITベンダー4社からの提案を受けたという。基幹系ホストからのデータを移行し蓄積するDWHや定型分析機能については、各社とも遜色がなかったそうだ。しかし、非定形の分析機能については、各社が提案してきたツールに機能面で大きな差があったという。
現在、Clementineを活用した分析は同社のさまざまな部署で行われており、パワーユーザーが4名、パワーユーザーの支援を受けて、自ら操作できる一般ユーザーが25名いるという。 図2の通り、マーケティング部門では、キャンペーン成約率向上を目的として、「決定木分析」「ニューラルネットワーク分析」「回帰分析」などが行われるなど、各部署の目的に応じた分析手法が積極的に活用されている。
2006年10月にClementineの導入を含むMDBの構築により第1次フェーズが完成。その後もさらにシステムの強化が行われ、2007年3月に第2次フェーズの完成を果たした同社の分析インフラの成果は、着々と上がっているようだ。以前は8カ月を要したキャンペーンサイクルは半分の4カ月に短縮できたという。担当者自らがMDBにアクセス、Clementineを駆使して、実施前のデータの抽出や分析に約1カ月、実施後の成果分析も1カ月程度で終了することが可能になったからである。
キャンペーン管理については、別途キャンペーン管理のための専用パッケージソフトの導入を検討したそうだが、実は、Clementineでのキャンペーン管理も可能なことが分かり、そのパッケージソフトの導入検討を取りやめたという経緯もあったという。
中谷氏によれば、同社ではさらに新しい取り組みに着手しつつあるという。1つは、チャネルオペレーション戦略、すなわち代理店の管理や支援に関わる戦略立案のための分析である。これは、中谷氏がAIUですでに実施したことがあるとのことで、簡単にいえば、代理店のセグメンテーションを精緻化して、代理店の特性に応じたより的確な施策を展開しようとするものだ。 同社ではこれまで、代理店のセグメント(分類)には、業種・業態別、そして売上規模という2つの軸を採用してきた。業種・業態別というのは、販売保険専業、自動車整備業、カーディーラー、不動産業者といった区分である。一方の売上規模は、各代理店別の取扱保険料総額のことである。しかし、この2つの軸だけでは代理店の特性が見えてこない。 そこで、同社では、代理店についてより詳細なデータ、具体的には、主力マーケットや、見込み客開拓の方法、販売方法、顧客維持方法、主力商品、従業員数、オフィスの状況などを収集し、クラスター分析を行うことで、次のようなクラスター分類別の戦略立案を行うことを狙っている。
もう1つの新たな取り組みは、「顧客理解」の深化である。すでに保有している顧客の性別、年齢、職業など、いわゆる「デモグラフィックデータ」と呼ばれる基本属性に加えて、顧客の保険、保険会社に対する意識や価値観など、心理的な特性、すなわち「サイコグラフィックデータ」を取得して因子分析などを行う。それにより同社の顧客をより深く理解し、ブランドポジショニングやマーケットセグメンテーションに役立てるのだそうだ。 そして、富士火災のあるべき姿と現状のギャップ(差異)分析に基づいて、チャネル戦略、商品戦略、マーケット戦略、ブランド戦略、プロモーション戦略等、同社の中長期戦略の立案に反映させることが狙いだという。
中谷氏がAIUにおけるノウハウを活かし、実施してきた先進的なマーケティング施策のおかげで、同社は独自の強みをもつニッチャー的地位を確立することに成功しつつあるという。競合他社にはない同社のマーケティング手法に魅力を感じる、有力な代理店を取り込むことも容易になり、新規契約獲得数では、大手に伍する成果を上げている保険商品もあるそうだ。 最後に中谷氏は、これまで取り組んできたAIUのノウハウと富士火災のノウハウを融合させる“ハイブリタイジング”はひとまず完成したとして、今後は、Webマーケティングの強化、それに伴うログ分析への取り組みや、インバウンド(顧客側から企業への通話)のコールセンターシステムの革新といった課題に取り組む意向を示してくれた。 提供:エス・ピー・エス・エス株式会社 企画:アイティメディア 営業局 制作:@IT 編集部 掲載内容有効期限:2007年12月31日 |
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