クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント(くりてぃかるちぇーん・ぷろじぇくとまねじめんと)情報システム用語事典

CCPM / Critical Chain project management

» 2006年03月18日 00時00分 公開

 不確定要素の多いプロジェクト型業務に、TOC(注1)の基本原理を適用したプロジェクト管理手法。クリティカルチェーン(注2)という制約条件の下、プロジェクト各工程の締め切り厳守を積み上げるアプローチではなく、プロジェクト全体の納期を守ること(あるいは短縮すること)を目的に、TOCの提唱者エリヤフ・M・ゴールドラット博士(Dr. Eliyahu M. Goldratt)によって開発されたTOCプロジェクトマネジメント(注3)ともいう。

 PERT(注4)に由来する従来のプロジェクトマネジメント手法が大規模プロジェクトにおける複雑なスケジューリング問題の数理的最適化を志向しているのに対して、プロジェクトという不確定度の高い作業を行う場合の人間心理や行動特性、および社会的・組織的問題に配慮して、全体最適なプロジェクト管理(スケジューリング、タスクの実行、進ちょく管理)を行う実践的手法である。

 従来の工程管理/プロジェクト管理では、個々の工程が計画どおり確実に終了することを前提にしている。このため現場の作業者は自身の作業が計画に対して遅れが生じないよう、あらかじめ余裕(安全時間)を確保しようとする。

 ゴールドラットはプロジェクト型業務においては、この各作業の所要時間見積もりの確度を90%としたとき、それが50%だった場合に比べて見積もり時間は3倍――すなわち実質の2倍のゆとりを確保しようとすると指摘した。

 しかし、こうした余裕ある日程計画になっていると、作業着手を先延ばしする学生症候群を引き起こして結局は遅れが生じたり、早期に完了しても計画上の終了日まで次工程に引き渡さないパーキンソンの法則が見られたりなどの問題があった。

 そこでゴールドラットは、「プロジェクトバッファ」「合流バッファ」という概念を導入した。バッファとは個々の作業者ではなく、プロジェクトマネージャが管理する余裕時間である。

 プロジェクトバッファは、各工程が見積もり確度を50%から90%にするために取っている余裕時間を一まとめにしてプロジェクト全体で管理するもので、ネットワーク図の上ではクリティカルパスの後ろに置かれる。個々の工程で遅れが発生した際にはプロジェクトマネージャがプロジェクトバッファを原資に対応する時間を捻出する。各工程が予定どおりに完了する確率は50%になるが、それでもすべての工程で遅れが発生するわけではなく、プロジェクトバッファで対応できる。

 合流バッファは、クリティカルパス上にない工程がクリティカルパスに合流する部分に設置される安全時間で、これに余裕のあるうちはクリティカルパス(すなわちプロジェクト全体の完了期日)に影響を与える可能性はない。

 もう1つ、遅延プロジェクトの多くに見られた問題にリソース競合があった。あるタスクが使用しようとしたリソースが別のタスク/プロジェクトによって使われているため、予定どおりに工程がスタートできないという事態である。また、このようにリソースに仕事が集中した場合、優先順位が不明確で「すべて優先」という状態だとマルチタスキング(掛け持ち)が発生し、「段取りロス」「待ち時間ロス」によってその工程の生産性を大きく下げることになる。さらに、片方が余裕タスクであっても作業者がクリティカル・タスクを優先して実行しているうちに、余裕タスクがクリティカルになってしまい、プロジェクトが遅れるという場合も多かった。

 ゴールドラットはこれに対してクリティカルチェーンという考え方を示し、事前のスケジューリングの段階でリソース競合に配慮するよう提言した。競合が起きているリソースはすなわちボトルネックになっていると考えられるが、TOCではボトルネック工程の能力を最大限引き出すことがポイントである。そのためには、まず複数のタスク/プロジェクトが集中しているリソースに対して仕事の優先順位を明確にし、掛け持ち作業に陥らないようなスケジュールを作成(クリティカルチェーン・スケジューリング)する。そして、プロジェクト実行フェイズではそのリソースがいつごろ必要か、作業開始日時を事前に通知する(リソースバッファ)。

 クリティカルチェーンに配慮したスケジューリングを行ったら、プロジェクトマネージャの仕事は、「プロジェクトバッファ」「合流バッファ」「リソースバッファ」などのバッファ・マネジメントに集約される。すなわち、各工程の締め切りを管理するのではなく、残り時間がどれだけ消費されたかを管理するもので、「バッファが減るペースが速い」「バッファが残り少ない」場合に対策を取る。

 マネジメント手法以外に、組織文化の変化も求められる。各工程の作業スケジュールは、積極的な数値を設定(見積もり確度50%)――すなわちぎりぎり間に合うか間に合わないかという日程となるため、実際に遅れた場合(怠けていたのでもない限り)でも叱ったり、ペナルティを与えてはならない。作業者は前工程から仕事が来たら即座に着手し、終れば直ちに次工程を回すことを習慣とする(リレーランナー・カルチャー)。非クリティカル工程では仕事がない場合もあるが、こうした待機時間に積極的な意味を持たせる(稼働率などの指標に頼らない)。

 1997年に公表された初期にはソフトウェア開発などには不向きという意見もあったが、近年目覚ましい成果を示す事例などが報告されている。

参考文献

▼『クリティカルチェーン――なぜ、プロジェクトは予定どおりに進まないのか?』 エリヤフ・ゴールドラット=著/三本木亮=訳/津曲公二=解説/ダイヤモンド社/2003年10月(『Critical Chain』の邦訳)

▼『目標を突破する実践プロジェクトマネジメント――あなたのプロジェクトは必ず成功する』 岸良裕司=著/村上悟=監修/中経出版/2005年12月


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