クリック&モルタル(くりっくあんどもるたる)情報システム用語事典

click-and-mortar / クリックアンドモルタル

» 2003年02月28日 00時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

 インターネット上のオンライン店舗と現実に存在する店舗・物流システムを組み合わせ、相乗効果を図るビジネス手法、あるいはそうした手法を取り入れた企業のこと。

 例えば、実店舗とインターネットのどちらでも販売や情報提供を行うマルチチャネル化や商品の予約や注文はインターネットを通じて行い、商品の受け渡しや代金の支払いは店舗へ誘導するといったやり方などが該当する。

 企業にとってのメリットは、既存ブランドが利用できる場合はネット専業企業(ピュアプレーヤー)に比べて宣伝などのマーケティングコスト(顧客獲得コスト)が安くつくこと、在庫管理や物流面などで既存インフラを共有して有効活用できることなどが挙げられる。利用者にとっては、商品選択、代金の支払いや商品の受け渡しなどに関して、選択肢が広がるという点がメリットである。

 言葉の由来は、ブリック&モルタル(brick-and-mortar)のもじりといわれる。ブリック&モルタルとは、レンガとしっくいで固めた堅牢な建物のことで、昔の銀行の店舗をいう。1995年10月に世界初のインターネット専業銀行セキュリティ・ファースト・ネットワーク・バンクが開業しているが、こうしたネット専業銀行に対して、既存の銀行を表す言葉としてブリック&モルタルが用いられた。

 クリック&モルタルという表現のオリジナルは、米国の証券会社 チャールズ・シュワブの社長兼共同CEO、デビッド・S・ポトラック(David S. Pottruck)氏だとされる。同氏には、「Click and Mortar」(2000年7月)という著書(共著)もある。

 チャールズ・シュワブは、オンライントレードの大手として知られるが、全米に店舗を持つディスカウントブローカーである。シュワブは早くからパソコン通信によるオンライントレードに進出していたが、既存店への影響を考慮し、オンラインでの手数料割引きを2割引き程度にしていた。そこへシュワブの4分の1以下という安い取引手数料を武器にネット専業証券会社が市場参入してきた。シュワブも、1996年にWebでネット専用口座eシュワブを新設して対抗したが、このeシュワブと通常口座は別のものとして設計されたため、eシュワブの顧客は店舗が利用できず、通常口座の顧客はネット取引を行った場合でも手数料が割高という問題があった。このため、シュワブは1998年に両口座を統合、店舗は口座開設や投資相談といったカスタマーサポートセンターの位置付けとし、取り引きはインターネットで行うという業態を確立した。その結果、顧客満足度が高まり、米国オンライントレード業界第2位のE*Trade(ほとんど店舗を持たない)に対して、収益面で大きな差を付けることとなり、「クリック&モルタル」の成功例として注目されるようになった。

 ポトラック氏はその著書で、モルタルとはビジネスを作り出し、顧客を生みだす情熱であると説明している。情熱こそがインターネットビジネスにおいて、他社との差別化要因となるものであり、その情熱を支える企業文化やリーダーシップこそが重要であると主張している。

参考文献

▼『クリック&モルタル』 デビット・S・ポトラック、テリー・ピアーズ=著/坂和敏、ビジネスアーキテクツ=訳/翔泳社/2000年11月(『Click and Mortar』の邦訳)


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