最終回 面接官が無慈悲で冷酷なマシーンでした:ドS美人面接官vs.モテたいエンジニア 転職十番勝負!
ドSで美人な面接官と1年以上にもわたる死闘を繰り広げてきたエンジニア(29歳)、今日こそは転職も恋愛も成就なるか、ならないのか???
試練10:最後の戦い
野望を胸に秘めて転職を志す、とあるエンジニア(29歳)がいる。
何度も挑戦しては敗退し、面接もついに10回目。今回こそは! と意気込みつつ、気になるのはやっぱりあの人のこと……?
ああ……どうしようかなあ。前回あんな風に終わったから、すごくドキドキするよ。
いきなり失格になってもいいから、最後まで言えなかったことを言いたい! ……でも、面接を放り出して告白なんてしたら、きっと軽蔑されちゃうよなあ……。だけど、そうでもしないと言うチャンスはないかもしれない! ああ、全く面接に気持ちを集中できない! どうしようどうしよう……。
いやいや、こんなんじゃだめだ! 精神を統一して、邪念を振り払って……今回こそ、今回こそ内定を!!!
フゥーッ(深呼吸)(コンコン)失礼しま……。
よろしくお願いしままままままままままままままままままままままままままままままままままままままままままままままままままままままままままままままままままままままままままままままままま(ウィーンガシャーン)
ええええええ!??
さあ、面接はすでに始まってますよー! 油断しないで! あ、一応ご紹介しておきますね。今回の面接を担当させていただくのは、弊社エンジニアが業務時間の5%くらいを投入して開発した面接ロボです!
最新型の人工知能を搭載して、完全に合理的で間違いのない採用を行います! なんと、全国チューリング模試で76点を取ったこともあるんですよー! もう少しで合格ライン!
えっ、チューリング模試なんてあるんですか……いや、そんなことより、あの、あの、あの人はどこに……??
010000101010100101100101100110001101!!!
まだアルファリリースなんで、発言にノイズが混ざったり、志望者が不適切な回答をするとマサカリを投げたりする不具合がありますけれど、気にせず、リラックスして面接に臨んでくださいね! それでは、はじめーっ!
ちょっ……両手にもうマサカリ持ってるじゃないですか! こんなのリリースしないでくださいよ!
それでは、自己紹介をお願い致します。
あっ、急に普通になった。
ピッ……ピッ……ピッ……
5秒以内に返答しないとマサカリですよ!
ピッ……ピッ……
えっ……ええっ?
ピーーーッ 例外スローーーッ!! (マサカリを投げる)
どーん!(←後ろの壁にマサカリが命中)
ぎゃあぁぁあああ!?
あ、急所は外すようになってますから、心配しないでくださいね!
ひいいい……機械なだけに全然容赦なくて、今までになかった怖さがある!! ああ、あの人の面接もむちゃくちゃだったけど、これに比べたら人間的な温かみがあったような気がするなあ……。
……そ、そうだ、あの人が担当であるかどうかなんて関係ないんだ。ここで面接を突破できなければ、いつまでたってもあの人に認めてなんかもらえない……!
自己紹介をおねがががががが(ウィーン)(マサカリを振りかぶる)
うわっ、また来る! 思い出せ、思い出せ……自己紹介の鉄則を……。そうだ、「プロフィールを正しく構造化せよ! 履歴書に書いていないことも盛り込んで、相手の気を引け!」
えー、わ、私、米波太郎(まいなびたろう)と申します。跡幕(あっとまーく)大学工学部情報処理システム科卒、29歳です。現職ではエンジニアとして、少人数のチームによる短期間の委託開発を多く手掛けてきました。小規模ではあってもユニークな技術的課題を含むものが多く、他では得られない経験を積めたと自負しております。
業務では開発の他に補佐としてマネジメントにも携わっており、どちらの役割においてもクライアントとのコミュニケーションを重視してまいりました。使用言語の中では、C++を多く扱っております。
あっ、かなりちゃんとしてる! これは好印象ですよ!
ありがとうございます。それでは、次に、志望動機をご説明いただけだけだけだだだだだ(ビビビビビビッ バチバチ)
何で放電してるの……怖い! マサカリから火花が!
あああ、気を散らされてる場合じゃないぞ。志望動機の説明で大事なのは……「志望先に対する理解が十分であることを示し、自分を採用するメリットをアピール!」だ!
あの、(ゴホン)
御社は、組み込みシステムの開発からスタートし、大手企業向けネットワーク構築の分野で成功し、近年は家庭用ロボットを筆頭に、いわゆる「モノのインターネット」の時代をリードすべく、ネットワークを介したスマートデバイスの制御へ活動の分野を広げつつあると認識しております。
先ほどの自己紹介で、私は現職でユニークな技術的課題を含む案件を手掛けてきたと申し上げましたが、そのうちの一つとして、実現には至らなかったのですが、複数の家庭用掃除ロボットを使って広いオフィスを効率的に清掃するシステムを、試験的に構築したことがあります。
カメラの映像から床面のデータを作成する手法や、複数のロボットに清掃領域を割り振るアルゴリズムなど、私にとってとても興味深い挑戦で、この分野の大きな可能性を感じました。ですから、御社の業務内容を知って、まさに自分の取り組みたい内容を扱っておられると思い、私が培ったノウハウをお役に立てていただける可能性があると感じまして、志望いたした次第です。
エンジニアさん、そんな面白い経験があったんですか! もーっ、何でそれを今までの面接で話さなかったんですか!? いいアピールのポイントなのに!
いや、自分ではそれが売りになるとは思っていなくて……。でも、自分のやってきた仕事を見直していたら、これが自分の一番やりたいことだと思ったんです。
続いて、自己アピールをしてくだくだくだくだ(キュイーン キュイーン)
機械なだけあって、何の情緒もなく進行しますね……。
自己アピール、自己アピール……。そうだ、「業務経験の具体的なディテールで有能さを示すこと、納得感のあるストーリーを構築すること!」(ですよね、面接官さん!)
先ほどご説明しました通り、私はネットワークを通じたデバイスの制御に関する経験があり、特に複数デバイス間の通信における同期・非同期の切り替えなど、独自のノウハウをいくつか持っていると、えー、自負しております。
また、理不尽な面接の数々……あ、いやいやいや、現職で多くのイレギュラーな業務に携わってきた経験から、ゴールの見えない転職活動、いやいや、達成目標が明確でないプロジェクトにおいても、試行錯誤を通じて道を切り開いていく粘り強さを身に付けました。御社で進めておられる野心的なプロジェクトにおいても、きっと推進力となれると……
あべべべばばばば(ビーッ)
……えっ、何て?
「ありがとうございました」って言ってるみたいですね。ちょっとCPU温度が上がってきちゃったかな? エンジニアさん、とっても好印象ですよ! 気にしないで続けてください!
いやいやいや、気にしますってば! ……火を噴いたりしないですよね、これ?
なにかごしつつつつつつつつつつつつつつつつつつつつつつつつつつつつ
パチン!
補足致します。今、ロボが申し上げたのは「弊社へのご質問はありますか?」ということです!
今、何かのケーブルを切りましたよね? その電子工作用ニッパーで!
大丈夫です! 気にせずに、弊社へのご質問をどうぞっ!
は、はい……。
「何を知らないかではなく、何を知っているかをアピール! 併せて自分のセールスポイントをさらに強調!」
それでは、質問致します。
ネットワーク通信が可能な家庭用デバイスは、セキュリティの不備が問題になりつつあり、適切に暗号化されたセキュアなデータ通信を行うための統一規格を制定しようという活動を、御社が中心になって進めておられると伺いました。
私が現職で手掛けたプロジェクトでも、やはりこの点について、問題点の洗い出しを行った経験があります。その後、御社の活動の進展はいかがでしょうか? 私の得た知識がお役に立てるかどうか、気になっております。
………………。
あれ?
えー、大変良いご質問をいただきましたので、私が代わりにお答えいたします。弊社もセキュリティの問題を重視しておりまして、有効なノウハウを持っている方を歓迎いたします。
……つまり、エンジニアさんはいい線いってるってことです! さて、これで本日の面接は終了とさせていただきます。どうもありがとうござ……
シュウウウウ……
あの……ロボから煙が……。
シュウウウウ……
伏せてっ!!
ド カ ー ー ー ー ン !
……ううう……。何だか、毎回爆発を食らってる気がする……。
ゴホッ! ゲホッ!(ロボの中から登場)
あっ、このロボ、アルパカが操縦してたんですか!?
というわけで(全身から埃をはらいつつ)……おめでとうございまーす!
あなたは合格です!
えっ……。
……ええーーっ!!?
合格!?
本当に? 内定ですか!?
本当ですよ! もう、面接に落ち続けた期間が長すぎて、すっかり失格が心の中でデフォルトになっちゃってるんでしょ?
えーっ……本当に、本当に合格なんですか??
それでは、こちらへお越しください。(ドアを開いて)ごたーいめーん!
め、面接官さん!!!!
違います。私は面接官ではありません。
えーと……あの……。
先輩、ちょっと顔が赤くなってますよ。
ちょっ……言わないで!(さらに赤面)
……初めまして。これから一緒にお仕事できることを楽しみにしています。どうぞよろしくお願いします。(一礼)
えっ、ということはつまり……?
エンジニアさんの上司になるんですよ!
じょ、上司!??
イヤなんですか?
(首をぶんぶん振って)いやいやいや、イヤじゃないです! 全然!
別室のモニターで、面接の様子を見ておりました。今までの面接でのアドバイスを生かした受け答えをされており、感銘致しました。
ご自身のスキルを十分に理解して、マッチする志望先を見つけることは大事ですし、自分がいかにマッチしているかを的確に、効果的にアピールすることはそれと同じくらい重要なことです。今回のあなたは、そのどちらも、今までになく見事にこなせたと思います。
こんなに立派に成長した姿を見ることができて、本当にうれしいです。(小さくにっこり)
わあ……。
……ありがとうございます。初めて褒めてもらえた……(涙)。うううっ……。
泣くほど喜んでもらえるのは光栄だけれど、いくらなんでも感極まりすぎじゃないかしら?
ちなみに、私も同じチームですよー。よろしくお願いします! 先輩は上司としては相当厳しい部類に入るから、覚悟した方がいいですよ! ふふふ……。
相当厳しい……。そう聞くと、ちょっと涙が引っ込みました……。
あら、私は優しいわよ(にやり)。
……グギギギギ(起き上がる)
あっ、ロボがまだ停止してなかった! エンジニアさん、最初のお仕事ということで、後の処理はお願いしまーす! かかった時間で時給計算しますね!
早速の出番ね。じゃ、よろしく!
マ、マジですかあ!? うわー、まだマサカリ持ってる! こっち来るなー!!
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イラスト:鳴海マイカ/ad-manga.com
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