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KDDIがCO2排出量実質ゼロでインテルと協業、サステナビリティ実現の決め手とは第4世代インテル Xeon プロセッサーが支える液浸冷却データセンター実現の道:

通信事業者のKDDIが「脱炭素化」の選択肢として、「データセンターの液浸冷却」に取り組んでいる。インテルをはじめとするエコシステムのメンバー企業と組んで技術的な検証はほぼ済ませており、将来的な商用化を目指すとしている。

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冷却電力の94%減を達成、データセンターの課題に挑戦するKDDI

 「2030年度までに、自社の事業活動におけるCO2排出量を実質ゼロにする」という目標を掲げ、さまざまな取組を進めるKDDI。この目標を実現するために、最大の焦点の一つとなっているのが、データセンター運用におけるエネルギー消費量の大幅な削減だ。

 KDDIでは、エネルギー消費を通じて年間約100万トンのCO2を排出しており、このうちの98%が携帯電話基地局、通信局舎、データセンターで使用する電力に起因するという。

 データセンターにおけるエネルギー消費量の大幅な削減は、決して簡単なことではない。その大きな理由は「冷却」にある。データセンター内のサーバやストレージ、ネットワークなどのIT機器は大量の熱を発生し、冷却のために大量の電力を消費するからだ。

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KDDI
DX推進本部 プラットフォーム技術部
エキスパート 加藤真人氏

 そうした中でKDDIは「液浸冷却」に着目し、インテルをはじめとするエコシステムのメンバー企業と協力しながら実用化に向けた取組を進めている。熱を発しやすいCPUやGPUだけでなく、ディスクやメモリー、ネットワークスイッチなど、IT機器全体を冷却用の液体に浸すこの仕組みを商用化できれば、CO2排出量の削減は大きく進展する。KDDIが行った実証実験(PoC)によると、液浸冷却によりIT機器の冷却のために消費されていた電力の約94%を削減できるという。現在、商用化に向けた検証は最終段階を迎えており、PUE(Power Usage Effectiveness:電力使用効率)も1.05を達成している。

 KDDIの加藤真人氏(DX推進本部 プラットフォーム技術部 エキスパート)はこう話す。

 「地球環境保護を推進することがグローバル企業としての重要な責務と捉えている。サステナブルな地球の実現に向けてさまざまな取組を進めており、液浸冷却データセンターもその一つだ。効果はほぼ実証できたといってよく、普及活動を推進する段階に入ろうとしている」

既存データセンターが直面する課題、「液浸冷却」がもたらす可能性

 液浸冷却はスーパーコンピューターなどで採用例のある冷却システムだが、一般的なデータセンターでの取組はこれまで十分に進められてこなかった。加藤氏はこう話す。

 「いま、データセンターの問題がさまざまな形でクローズアップされている。まず、サーバの設置場所は確保できても、空調の電力や能力不足により、十分に冷却できないこともある。また、CPUやGPUの高集約化、高性能化が高発熱につながり、従来の空冷では限界を迎えつつある。KDDIもさまざまな場所にデータセンターを保有しているが、特に古い施設ではこうした課題に直面している。そこで、データセンターの課題解決に液浸冷却技術が活用できないか、それによってカーボンニュートラルに貢献できないかというところから取組がスタートした」

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KDDI
DX推進本部 プラットフォーム技術部
コアスタッフ 北山真太郎氏

 KDDIでは、液浸冷却の商用化を目指し、2020年からPoCを進めてきた。この取組にはインテルのほか、サーバ、マザーボード、半導体メモリーなどの部品、ネットワーク機器、冷却媒体、冷却設備、インテグレーションなど、多数のベンダーが参加し、オープンな形で活動を進めている。

 エコシステムのメンバー企業とのPoCは3つのフェーズで実施された。KDDIの北山真太郎氏(DX推進本部 プラットフォーム技術部 コアスタッフ)はこう話す。

 「PoCのフェーズ1では、試作版の小規模コンテナ型データセンターで検証を行った。フェーズ2では、実際にコンテナ型データセンターを用いた検証を実施。さらにフェーズ3として、2022年にKDDIの小山ネットワークセンターで大規模PoCに取り組んだ」

 液浸冷却のIT機器への影響についてはまだ評価段階にあり、サーバやそのほかの関連機器ベンダーによる商用レベルの保証は得られていない状況にあった。そうした中、フェーズ3では、CPUメーカーのインテルとの協業をはじめ、エコシステムのメンバー企業と協力しながら、商用利用に向けて課題を解消していくことを目指したという。その結果として「冷却電力の94%減」「PUE 1.05」といった大きな成果を得ることができた。

 「フェーズ3では3つの目標を設定した。1つ目は『液浸システムの高い冷却効率を立証すること』。2つ目は、『高可用性の液浸システムを具現化し、成立性と安定性を検証すること』。3つ目は、『国内での導入・保守対応のめどを付けること』だ。将来の商用導入を見据え、業界の垣根を越えて、計21社が協力する体制も確立できた」(加藤氏)

 フェーズ3では、技術面で大きく4つの成果を得ることができた。

 1つ目は、高性能な冷却機構によりPUE 1.05を実現したこと。サーバの液浸冷却とフリークーリングを組み合わせ、少動力でサーバの熱を除去できる仕組みを採用した。

 2つ目は、設備の冗長設計によりティア4レベルを確保したこと。高い可用性を実現するため、機器や配管などは二重化思想で設計した。

 3つ目は、モジュールユニットで工期を短縮したこと。冷却設備本体と付帯設備(コールド/ホットタンク、冷却水ポンプなど)を一体ユニットに搭載した。

 4つ目は、統合制御により低PUEと高可用性を両立したこと。外気温度に応じたファシリティ全体の最適制御や冗長運転制御、メンテナンス用冷却モードなど、多彩な機能を実装した。

インテルとは特別な協力関係で、サーバの電力消費削減と冷却効率化に取り組む

 上記のように、KDDIはエコシステムの多数のメンバー企業と液浸冷却商用化への取組を進めてきたが、中でもインテルとは特別な協力関係を築いてきた。2022年2月にはインテルと業務協力覚書を締結し(2022年3月22日掲載:[KDDI ニュースリリース]IntelとKDDI、通信局舎のCO2排出削減に向け覚書を締結)、通信設備を収容するデータセンター(局舎)にカーボンニュートラル技術を導入し、KDDIのCO2自社排出量を削減することを公表している。

 具体的には、局舎での液浸冷却装置の商用活用検討のほか、通信用サーバの温度に応じた自動空調制御による空調消費電力の最適化検討、AI(人工知能)を活用してトラフィックに応じて通信用サーバのCPUを制御することによる消費電力最適化の商用化検討などを進めている。

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KDDI
DX推進本部 プラットフォーム技術部
コアスタッフ 谷岡功基氏

 そして、2022年にインテルと共同で実施したPoCでは、液浸環境下における「第4世代インテル® Xeon® スケーラブル・プロセッサー」やそのほかの部品の信頼性を検証し、商用利用に向けて技術的な有効性の裏付けを得られたという。

 KDDIの谷岡功基氏(DX推進本部 プラットフォーム技術部 コアスタッフ)はインテルとのPoCについてこう話す。

 「液浸下での機器の長期安定稼働および装置保証を得ることを目的に、サーバ、冷却液の観点で検証試験を実施した。ポイントは、液浸冷却媒体に適したヒートシンク設計と、液浸冷却液の物性相性評価の2つにある」

 液浸用のヒートシンクは、液浸下において最適な「フィンピッチ」と「フィン厚」を評価し、設計したものだという。ヒートシンクを通過する冷却液の流速は空気とは異なる。そのため、流体シミュレーションで高性能な液浸冷却液において熱だまりを軽減できるフィンピッチとフィン厚を明らかにした。

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PoCでは液浸下において最適なCPUヒートシンクの「フィンピッチ」と「フィン厚」を評価、設計した(提供:KDDI)《クリックで拡大》

 一方、冷却液の物性相性では、主要サーバ部品を網羅的に選定し検証。その結果、CPUのキャリア電源ケーブルやPCIeライザー電源ケーブルなどで、接着剤が溶解したり、膨張したりする非互換素材が利用されていることが分かった。これにより、今後、ほかの材料に置き換えることを検討できるようになったという。

レファレンスデザインガイド作成もスタート、液浸対応エコシステムの確立も

 今後は、インテルとの協業の中で、商用化に向けた取組を加速させる予定だ。

 「インテルとは、第4世代インテル® Xeon® スケーラブル・プロセッサーの液浸設計ガイドラインを進展させ、サーバベンダーと連携して保証ポリシーの定義も進めていく予定だ。また、液浸冷却に最適化したソリューションの開発やレファレンスデザインガイドの作成なども進め、液浸対応のエコシステムの確立、液浸環境下での製品保証を行っていく」(北山氏)

 インテルとの液浸冷却システムの取組はホワイトペーパーとしてまとめられ、エコシステムに参加する企業や液浸冷却システムに取り組む企業が参考にできるよう、公開済みだ。

 「既存のデータセンターを液浸冷却に変更することは、設備の入れ替えや改修が伴うため現実的ではない。規模の小さいデータセンターも投資効果を見込みにくいところがある。一方、新規構築するデータセンターでは、場所、電力、排熱の課題を液浸冷却で解消できる可能性がある。また、液浸冷却システムは静音性が高く、天井高の低い部屋にも設置できるので、改装したオフィスでも対応できる。データセンターの新たな選択肢ともいえる。できるだけ早い段階での商用利用開始を目指したいと考えている」(加藤氏)

 液浸冷却システムが普及するためには、供給については対応機器、設備の充実が求められる一方、保守体制の確立などによるメンテナンス性の改善も求められる。インテルでも、KDDIとの協業で得た知見を基に、第4世代インテル® Xeon® スケーラブル・プロセッサーの液浸冷却保証やAIを活用した電力消費の効率化をさらに推進していく予定だという。

 KDDIとインテルは液浸冷却ベースのソリューションを加速させるために、同じ目標を持つ新しい企業を常に迎え入れて、エコシステムを拡大していく。

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提供:インテル株式会社
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2023年8月14日

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