「エンジニアとは異なるスキルが必要」 データサイエンティスト集団のキャリアの築き方:KDDIのビッグデータを分析
IT人材の不足が叫ばれるようになって久しく、特にデータサイエンティストに対する企業の期待とニーズは高い。データサイエンティストになり、成長し続けるためには、どのような意識やスキルが求められるのか。データサイエンティスト集団のARISE analyticsに聞く。
エンジニアとデータサイエンティストに求められるスキルの違い
ITエンジニアの人材不足が叫ばれるようになって久しく、年々深刻化している。経済産業省のレポートによると、日本のIT人材不足は、2030年には約79万人にまで達すると予測されている(※)。
近年は特に、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進やAI(人工知能)活用が加速する中で、データを分析して結果を新たなビジネスモデルやサービスの創出に生かすデータサイエンティストへの期待とニーズが高まっている。
例えば20代の若手なら、データ分析の経験がなくても、統計や機械学習の知識があったり、経済学や心理学などの研究で実験データを扱った経験があったりすれば、育成を前提に採用する企業が多い。30代でリーダー経験もあるデータサイエンティストなら、コンサルティング企業などからもオファーが届く。豊富な経験とノウハウを持つ40代以上のデータサイエンティストともなると、幅広い企業から引く手あまたで、データサイエンティストは年代を問わず就・転職に有利な状態だ。
この状況を見て、データサイエンティストにキャリアチェンジしようと考える読者もいるだろう。だが、「データサイエンティストになり、成長し続けるためには、システム開発のエンジニアとは異なるスキルを磨く必要があります」と話すのは、ARISE analyticsの佐々木彰氏だ。
例えば業務システムのエンジニアとデータサイエンティストでは、システム開発に対するアプローチが異なる。エンジニアの場合は解決すべき課題があって、決められたゴールに向けて仕様を決め、アウトプットを作っていく。一方、データサイエンティストは、ゴールが先に決まっていることはない。課題は決まっているものの、解決に向けてどのような仕様でアウトプットを作るかをアドホックに考え、インパクトのある成果を出すために自走が求められる。決められた成果を出すのが正義であるエンジニアには大きな意識改革が必要、と佐々木氏は考える。
こうしたマインド面を含めたデータサイエンティストの人材育成および価値向上に積極的に取り組んでいるのが、佐々木氏がCWO(Chief Workstyle Officer)を務めるARISE analyticsだ。KDDIグループでデータ利活用の中核的な役割を担う同社は、KDDIとアクセンチュアのジョイントベンチャーとして2017年2月に設立。KDDIが保有する国内最大規模の約4000万の契約データと、アクセンチュアの持つアナリティクス技術を活用し、幅広い企業のDXを推進している。
個人の自主性に委ねるのではなく、会社の制度で成長を支援
ARISE analyticsは、従業員の継続的な成長とキャリアアップを支援する教育体系として「ARISE university」を整備し、さまざまな教育プログラムを提供している。
佐々木氏は「会社設立当初はとにかく必死でデータ分析に取り組み、業務をこなしていました。しかし、『このままでは新しい技術や分析手法などを学ぶ時間がとれず、スキルアップできなくなってしまう』という懸念の声が現場から上がってくるようになり、毎週金曜日の午前中はミーティングや通常業務をせず、データサイエンティストが自己研さんするために使う時間としました」と、ARISE university誕生の背景を語る。
ARISE analyticsは目先の収益を追うのではなく、中長期的な視点から人材への投資を優先することを企業として決断したのである。
「個人の自主性に委ねるのではなく、あえて『金曜日の午前中』という業務時間内に会社として教育プログラムを設定し、全てのデータサイエンティストが確実にスキルアップできる環境を整えました。取り組みは、従業員一丸となって成長していくというモチベーションアップにもつながり、従業員同士の交流を広げ、自主的に勉強する文化が醸成されていきました」(佐々木氏)
ARISE university概要。入社時の「On-Boardingカリキュラム」で、新卒者は社会人としての基礎力からデータサイエンティストとして求められるベーシックな知識やスキルを、中途採用者は早期戦力化を目的としたトレーニングを実施する
毎週金曜の午前中に開催しているのが、データサイエンティストのスキルアップや価値向上を支援する勉強会「ARISE university Training」だ。現場で活躍する自社のデータサイエンティストや外部専門家が講師やファシリテーターを務め、さまざまな研修や講座、ワークショップを実施する。
「この時間は、データ分析に関する勉強やスキルアップのために自由に使えます。別のプロジェクトのデータサイエンティストによる講座でデータ分析の知見を共有したり、中長期的なキャリア形成を考えるワークショップに参加したり、目的やニーズに応じてプログラムを選べます。社内ライブラリにある関連書籍を読んで、自己研さんに集中することもできます」(佐々木氏)
この他、自習支援制度の「ARISE university Learning」では、書籍、論文購入の全額補助をはじめ、外部セミナー参加費の全額補助、資格取得費補助、有志勉強会開催補助、学習マテリアル提供など、個別のニーズに対応する仕組みが整う。
ARISE analyticsでは、データ分析未経験者にもデータサイエンティスト採用の枠を広げている。佐々木氏は「データ分析のプログラミング言語は『Python』や『R』などオープンソースが使われているため、データ分析の仕組み自体はクラウドで簡単に構築できます。『Kaggle』や『SIGNATE』などデータ分析のコンペティションもあり、課題解決のアプローチ方法を訓練できます。データ分析の未経験者や経験の浅いエンジニアは、こうしたサービスを活用し、スキルアップにチャレンジしてほしいです。こうした努力が、データサイエンティストを目指す上で、自分の市場価値を高めることにつながるはずです」とアドバイスを送る。
データ分析未経験から5年で50人規模のユニットリードへ
ARISE analyticsには、データ分析未経験で入社し、データサイエンティストとして大きなキャリアアップを実現した人材も多い。Customer Analytics Division, Analytics Growth Unitで Leadを務める上山卓真氏もその一人だ。
「前職は、ITベンチャーで営業を主に担当し、エンジニアでもなければ、データ分析の経験も全くありませんでした。製造業の顧客を訪問した際に、モノが売れなくなってきた時代にデータをどう活用してどんなサービスを提供していけばいいのか、顧客が頭を悩ませている姿がとても印象に残りました。これがきっかけとなって、データを使ってサービスを提供する仕事に興味を持ち、ARISE analyticsと出会いました」と、データ分析未経験ながら同社へ転職を決めた背景を語る。
上山氏が中途採用で入社したのは2018年12月。データ分析のコーディングを一から学び、まずはデータ分析業務に専念して、データサイエンティストとしての基礎スキルを固めていった。徐々にクライアントとのミーティングに参加し、ビジネス側の課題解決にも携わり、2年目にはサブチームリードとして3〜5人のチームを率いる役割を担った。3年目には10〜15人規模のチームを率いて、チームリーダーを経験。4年目には案件を担当しつつ、バイスユニットリードの立場で管理職に近い経験を積んだ。そして入社5年目、50人規模のユニットを率いるユニットリードとして管理職の立場に就き、今に至る。
入社以来、約1年〜1年半単位でキャリアアップし、約5年で管理職まで駆け上がった上山氏。「私が入社したのは、ARISE universityが整備されてきた頃でした。データ分析未経験でしたが、ARISE universityを通じて、短期間でデータサイエンティストの基礎スキルを身に付けられました。そこからは、会社のビジネス拡大に合わせて私自身もスキルアップを重ね、大きなプロジェクトに携われる立場となりました。まさに、会社と共に成長を続けてきた5年間でした」と振り返る。
現在はユニットリードとして、KDDIの部長レイヤーに対してデータ活用、AI活用を推進する役割を担っている。幅広くKDDIの各部署と対話しながら、課題解決を支援することがミッションだ。
「KDDIは国内最大規模のデータを保有し、レコード数では億単位の膨大なデータ量になります。私のユニットでは、主に位置情報データを活用した新たな取り組みを推進しています。要件定義の段階からKDDIの各部署と議論を交わしながら、どんなデータが必要なのかを考えていきます。KDDIと一緒になり、各部署の課題解決に直結するデータ活用に携われることは、データサイエンティストとして非常に魅力的で、やりがいのある仕事です」(上山氏)
上山氏は、会社のビジネス成長と共に大きくキャリアアップしたが、これからデータサイエンティストとして入社してくる人材のキャリア形成はどうなるのだろうか。
「私のキャリアアップには会社の成長期という後押しの要素があったのはもちろんですが、今は会社自体が大きくなったことで、当時に比べてプロジェクトの数が増え、幅が広がり、規模も拡大しています。それだけ、当社にはデータサイエンティストとして活躍できるチャンスがあるということです。これから入ってくる人は、自分が何をやりたいか、どんなポジションに就きたいかを上司に伝えてもらえば、必ずそれに応えてキャリアアップを支援してくれるはずです」(上山氏)
事業会社で働くデータサイエンティストの中には「分析業務だけで、最終的なビジネス実装までできない」「経営課題にインパクトを与える大きな価値創出に挑戦したい」といった思いを抱え、転職を検討している人もいるはずだ。上山氏は「当社の業務は単なる分析だけにはとどまりません。分析からの示唆を提示し、実際に施策に落とし込んだり結果を見て改善したり、業務実装とPDCAを回すところまで関わることができます。プロジェクトの中で、一人一人が最大限の力を発揮できるようにサポートしています」と強調する。
佐々木氏は「データサイエンティストにとって、このような膨大なデータを分析できる環境は、他社にはない大きな魅力です。ビジネスに近いところでデータ分析をしたい人にも、KDDIと密に連携し、業務改善に寄与するサービスを提供している当社はとてもフィットすると思います」とアピールする。
これからデータサイエンティストとしてのキャリアを歩みたい人、自分の持つデータ分析のスキルや専門性を大きな事業貢献に生かしたいと思っている人は、ARISE analyticsこそが、目指すべきフィールドといえるだろう。
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提供:株式会社 ARISE analytics
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2024年9月30日