モデリングだけでは語れない業務分析の現場〜IT技術者のための戦略・業務分析入門〜事例で学ぶビジネスモデリング(5)(1/4 ページ)

» 2005年11月23日 12時00分 公開
[大川敏彦(シニアコンサルタン),ウルシステムズ]

 第4回「企業の健康を診断する『業務分析』」は、業務分析作業の進め方を健康診断に例えて説明した。今回は、業務分析作業の実際の様子を架空の事例を使ってご紹介する。

序章 業務分析の提案

 2月中旬のある日、私が担当していたあるプロジェクトが佳境に差し掛かっていた。大きな山場である顧客経営層に対するレビューに向けて、段取りの検討や資料の準備で多忙な毎日を過ごしていた。この仕事が終わるゴールデンウイークにはまとまった休暇を取りたいなどと考えながら、急ぎ足でエレベータホールを歩いていると、不意に別のプロジェクトのマネージャに呼び止められた。

 彼はいきなり、担当する顧客の話を始めた。この顧客は、関東地方に100店舗ほどの店を持ち、食品、衣料、HBC、家電などを販売している中堅どころの小売業であった。この会社では、過去、数々のシステム開発プロジェクトをSI会社とともに行ってきたが、最近はどれもうまくいっていなかった。基本スタイルとして要件定義からSI会社に丸投げしてしまっているらしく、「要件が固まらずにカットオーバーに至らず、頓挫した」「何とかカットオーバーしたものの、結局利用部門に使ってもらえず、紙ベースで運用している」といった事態が続発しているとのことであった。このため、情報システム部は経営者から投資効果について疑問を投げ掛けられることも少なくなかった。こんな状況の中で、次年度に計画している計画・発注系システムの開発プロジェクトを成功させるための方策を弊社に相談してきたというのである。

 彼は、この相談を受けた時、開発プロジェクトに先立って業務分析を行うことを提案しようと思ったが、システム企画や業務分析についてはそれほど多くの経験を持っていなかったため、提案内容についてアドバイスしてほしいとのことだった。私は、1、2時間話をするぐらいの軽い気持ちで、後日彼の話を聞いてみることにした。

 数日後、ちょうど私のプロジェクトの中間レビューが終わった日の夕方に、彼とミーティングを持った。まず話を聞き始めてすぐに分かったのは、システム開発の目的や、スコープがあいまいなことだった。スコープに関しては大枠が決まっていたため、まだ良かったが、目的に関してはそれらしい記述が見当たらなかった。

 「確かにシステム開発の目的がハッキリしてませんね」私がいうと、次のような返事が返ってきた。

 「そうなんだよ。利用部門からは、業務に支障が出ているため老巧化したシステムを作り直してほしいという声は上がっているものの、実際にどんなシステムを作りたいかは部門によって意見がバラバラらしい。情報システム部ではそんな状況を解決するため、UMLやBPELを使ったビジネスモデリングを活用できないかと考えているんだ」

 「確かに、業務フローや概念モデルを作って、ビジネスの現状やあるべき姿を図式表現することは大事だと思います。しかし、せっかく新しい技術を採用しても、それを使って、現場とのコミュニケーションを促進し、意見を吸い上げられなければ、効果は出ませんよ」

 「そうなんだ。今年度情報システム部門ではUMLやBPELの講習を受けたり、そうした表記法に強い会社からコンサルティングを受けたりしたようだが、利用部門からの評判は芳しくなかったらしい。従って計画系・発注システム再構築プロジェクトの立ち上げをどうするか悩んでるんだ」

 「ユーザーの真の目的はシステムを作ることじゃなくて、システムを使って利用部門の業務をうまく回すことですよね。利用部門に受け入れられない手法を強要するよりも、利用部門の協力を得ることを優先すべきだと思いますね。現状業務の棚卸しを行い、課題やニーズをきちんと聞き出した後で、抽出された課題を整理して、経営視点から優先度を付けて施策を立案する、オーソドックスな業務分析を提案してみたらいかがですか?」

 「確かにそのとおりだね。お客さまとも相談しながら、その方向で提案をまとめてみようと思う。またアドバイスをお願いするかもしれないけど、そのときはよろしく頼むよ」

 「はい、分かりました」

 その後、彼は何度かお客さまの元に足を運び、最終的にシステム開発以前に実施する業務分析プロジェクトを提案した。受注したプロジェクトは、4カ月間、約40人月程度の規模になった。業務分析としてはそこそこの規模である。4カ月間と聞くと余裕があるように思えるかもしれないが、対象業務の広さと深さからすると、かなりタイトなプロジェクトである。

ALT 図1 顧客は、関東地方に100店舗ほどの店を持ち、食品、衣料、HBC、家電などを販売している中堅どころの小売業
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