ソフトウェア開発にスピードと変化への対応が強く求められる今日、プロジェクト成功のキーマンとして、ITアーキテクトの育成が急務といわれている。経済産業省のITスキル標準(ITSS)で公的に定義されたこともあり、“職業としてのITアーキテクト”は、社会的に認められる存在となった。しかし実際ITアーキテクトと呼ばれる人が世の中にどのくらい存在し、どのような仕事をしているのか、その実情はかなり曖昧(あいまい)だ。本稿では、IT Architectフォーラム開設と同時に実施した読者調査の結果から、ITアーキテクト職の実態とその理想像を探ってみたい。
まず読者の勤務先において、ITアーキテクトという職種がどの程度確立されているのか聞いた結果が、図1だ。現時点で同職が設置されているのは、「以前から社内に存在している」「最近(1年以内)になって新設された」を合わせて、全体の12%であった。ITアーキテクトを擁する企業はいまだ少数派だが、今後同職を「設置する予定がある」との回答も10%に上っていることから、現在は国内における“ITアーキテクト黎明(れいめい)期”とも考えられるだろう。
続いてエンジニア自身がITアーキテクト職にどの程度興味を持っているのか尋ねたところ、「現在ITアーキテクト職に就いている」読者は全体の4%にとどまったものの、残りの大半をITアーキテクト志望者(将来目指してスキルを積んでいる)、および興味者(具体的な業務内容や必要スキルを知りたい)が占める結果となった(図2)。参考までに回答パターンごとの平均年齢を計算してみると、
ITアーキテクト興味者:32歳
ITアーキテクト志望者:34歳
現職ITアーキテクト :38歳
となった。もちろん年齢を重ねると自然にITアーキテクトになるわけではないが、中堅エンジニアが次のキャリア目標として同職を想定し実現するまでの鍛練期間として、1つの目安となるかもしれない。
ところでITアーキテクトになるためには、どのようなスキルセットが必要なのだろうか? 先述したITSSでは、「ITアーキテクトのスキル領域」として、以下の10項目を挙げている。
これらを見ると、「ソリューションアーキテクチャ構築」のような独自性もあるものの、ほかの職種と重なる項目が大半を占めていることが分かる。すなわち、“ビジネス課題を解決するアーキテクチャを設計するためには、SEやPM、コンサルタントの視点を総合したスキルが必要”と想定されているようだ。
そこで上記スキル領域について、読者に現在身に付けているもの/今後 習得したいものを尋ねたところ、現在は「テクニカル」および「コミュニケーション」領域を中心にスキルを積んでいる読者が多いことが分かる(図3 青棒)。一方、今後の希望では提示項目のほぼ全域にわたって習得意向が高まっている(図3 黄棒)。これらの中で現状(as-is)と習得意向(to-be)のギャップが大きい「アーキテクチャ構築」「メソドロジ」「コンサルティング」「プロジェクトマネジメント」といったスキル群が、今後ITアーキテクトを目指すエンジニアにとっての重点学習領域となるだろう。
次に読者が考える“理想のITアーキテクト像”について、自由コメントから代表的な意見を紹介しよう。まず技術スキルについては、
要求分析から最適なシステムアーキテクチャをモデル化する工程を担当する人間。アナリストとエンジニアの両面を持つ、アーキテクチャモデリストとでもいうべき存在
アーキテクチャや運用管理業務、開発プロセスまで俯瞰(ふかん)し、将来のITシステムのあるべき姿を考えながら、現在における最適な解決策を提示できる人
ビジネス、システム、ユーザー各ドメインにおいて最適なアーキテクチャを提供し、うまく 調和させることができる人
など、“体系的なIT知識に基づき、ビジネス要求に応じた最適なアーキテクチャを選択・提示できる能力”の必要性が、多くの読者から挙げられた。また技術面以外にも、
人とテクノロジの両面に通暁していて、ポリシーで人を説得し、引き付ける人物
システムに関する明確なビジョンを持ち、顧客と開発チームの双方に納得性の高いソリューションを示すことができる人
プロジェクト当初からゴールが見えていて、それに向かって客先および社内に対して指導・助言および実践ができるプロ
といったヒューマンスキルを求める声が、多数聞かれた。ITアーキテクトにはシステム構造の設計だけではなく、その構想力でプロジェクト関係者全体を1つの方向性に束ねる“ビジョナリー”としての役割も期待されているようだ。
一方でITアーキテクト像について、
以前からプロジェクトに1人は存在したいわゆる「スーパーマン」のことかと
IT技術および周辺技術が多岐にわたり過ぎて、昔私の周りにいた“スーパーSE”になれないのではと思う
とするコメントも散見された。確かにITアーキテクトを目指したくても、“この スキル領域すべてに通じたスーパーマンになるのは、不可能ではないか?”と思えてくるのは無理もない。そんなあなたには、“ITアーキテクトになるための現実的なヒント”が述べられた豆蔵の萩本順三氏による「ITアーキテクトの道(@IT自分戦略研究所)を、ご一読いただきたい。
さて今回の調査では、ITアーキテクトやアーキテクト志向者が現在のプロジェクトにどのような課題意識を持ち、その解決にどのようなツールを利用しているのかも聞いているので、後半ではその結果を見ていこう。
まずアプリケーション開発?運用の諸段階において、読者がかかわるプロジェクトで改善/強化が求められている管理課題を聞いた結果が図4だ。トップに挙げられたのは「ユーザー要求や要求変更が及ぼす影響の管理」であり、現在のプロジェクトにおいて要求管理の重要性が高まっている様子がうかがえる。以下「スケジュール/コスト/要員配置などのプロジェクト管理」「チームメンバーのスキル向上/スキル格差の是正」といった課題が続いている。
次に読者がかかわるプロジェクトで「現在使用しているツール」「今後使用してみたいツール」を聞いたところ、現在は「統合開発環境/IDEツール」の普及率が突出している(図5 緑棒)。一方、今後の使用意向を見ると、上述した要求管理課題に対応する「要件定義/要求管理ツール」がトップとなったほか、「パフォーマンス管理/障害管理ツール」や「プロセス管理ツール」 などへの興味度が高まっていることが分かる(図5 黄棒)。ITツールの導入目的は、“開発生産性一点集中型”から、“アプリケーション・ライフサイクル全体の効率化/管理性向上”へと転換しつつあるようだ。
では上記のようなITツールを検討/選択する際に、読者はどのようなポイントを重視するのだろうか? 複数回答で尋ねたところ、「生産性向上などの導入効果が明確なこと」および「簡単に使える/学習しやすいこと」が上位に挙げられた(図6)。プロジェクト自体が短期化し、その導入効果が厳しく問われる今日であるだけに、使用されるツールの効果や学習コストが重視されるのもうなずける結果となった。
■調査概要
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