新日鉱グループ 新たな会計システムの導入と組織再編で連結決算の迅速化と資金管理を実現

新日鉱グループは資本効率のさらなる向上を目指して組織の再編成を進めている。今回、新しく開発・導入した連結会計システムは、連結決算処理のみを目的としたパッケージではなく、他システムからのシームレスな連動のほか、資金集中・配分などのグループ経営を向上させる機能を持つ

» 2003年03月25日 12時00分 公開
[佐久間伸也,@IT]

グループ再編を機に会計システムを共有化

新日鉱ビジネスサポート株式会社 日鉱金属担当 システムグループ・稲垣謙課長 新日鉱ビジネスサポート株式会社 日鉱金属担当 システムグループ・稲垣謙課長

 新日鉱グループは2001年4月に連結会計システム「CATS」(キャッツ)を導入し、連結決算の迅速化、グループ資金の効率的運用などで成果を上げている。新システム「CATS」(Consolidated Accounting Total System)を開発したのはグループ内の機能サポート会社の1つ、新日鉱ビジネスサポート。「CATSはグループ経営のパフォーマンスを最大化する」と、システム開発を指揮した稲垣謙課長(日鉱金属担当

システムグループ)は話す。

 2002年9月、ジャパンエナジーと日鉱金属が経営統合し、共同で持株会社、新日鉱ホールディングスを設立。これにより、同社を中核とする連結売上高2兆1200億円、グループ会社115社、グループ従業員1万1000人の新日鉱グループが誕生した。

 新日鉱グループは、1. コア事業会社、2. 独立事業会社、3. 機能サポート会社という大きく3つのカテゴリに分けられる。コア事業会社はグループのコア事業である石油事業、金属事業、電子材料事業のいずれかを行う。石油事業ではジャパンエナジーを筆頭に、鹿島石油日鉱石油化学、JOMOネット各社などがある。金属事業では日鉱金属をはじめ、タツタ電線東邦チタニウム、日韓共同精錬など。電子材料事業では日鉱マテリアルズをはじめ、グールドエレクトロニクス、GNFフィリピンなどがある。

 独立事業会社はコア事業以外の事業をそれぞれ営んでいて、am/pmジャパンジャパレンセントラル・コンピュータ・サービスなどがある。機能サポート会社とはグループ各社の間接業務をアウトソーシングして、機能別に一本化し、グループ全体で共用する組織だ。新日鉱ファイナンス(資金貸付および資金事務)、新日鉱ビジネスサポート(経理・総務・人事などの事務)、新日鉱マネジメント(環境管理)、新日鉱テクノリサーチ(技術調査・コンサルティング・知的財産の管理)の4社がそれに当たる。

 CATSの開発と導入はグループの組織再編に伴って進められた。というのも、組織再編の目的はグループにおける経営資源の効率化であり、基盤システムとなるCATSの開発もその一環として行われたからである。

旧システム下で、すでにインハウス・バンクを実現

 新日鉱グループが誕生する以前、グループは石油(現ジャパンエナジー)と金属(日鉱金属)という両部門で、それぞれ独自に運営されていた。1997年1月、日鉱金属グループは、機能面でのシステムの共有化を検討し始める。「最も優れた会社のシステムを共有して使えば、投資も安く済む」(稲垣課長)というわけだ。こうして日鉱金属グループ内の3社で、資材調達、輸送管理、勤労、会計といった機能面での共有化がそれぞれ図られた。会計システムの開発は1997年8月に着手、1998年4月から稼働した。これはホスト環境のシステムである。

 次に、日鉱金属のグループ会社を含めた操作統一が進められた。1998年秋から検討に入り、1999年4月に稼働。このときグループ会社とネットワークを結ぶとともに会計パッケージソフトを配布した。連結決算については、当初は「毎月、決算終了後に連結データをもらえばよいという発想だった」と稲垣課長は話す。「しかし、月1回データをもらうだけではもったいない、ほかにも活用しようということになった」。そこで、とりわけグループ内の余剰資金をいかに活用するかという仕組みが検討された。当時、各グループ会社では「資金が余ったり、足りなくて銀行から借りたりするなど、資金としてはムダな動きをしていた」(稲垣課長)。

 2000年11月、日鉱事務センター(当時)をいわばフィナンシャルセンターとする資金集中・支払代行システムが稼働。これにより、日鉱事務センターを通じてグループ内で資金の貸し付け・借り入れを行い、また各グループ会社の余剰資金は日鉱事務センターに吸い上げて銀行に落とすというインハウス・バンク(企業グループ内銀行)の仕組みがスタートした。

 一方、「連結決算のスピードも速くなった」と稲垣課長は話す。それまで連結決算は、各グループ会社からExcelなどで作成した連結データをメールで受け取り、日鉱事務センターで手入力して作成する積み上げ方式。資金集中・支払代行システム実現以降は、すでに事務センターにデータがあるために、まず事務センターがグループ各社の決算データを作成し、各社に送付する。各社はそれをチェックした後に事務センターに返信するという方式になった。単体決算データと連結決算データの二重入力といったムダは排除された。

 この時点である程度、グループでの会計システムの共有化と資金集中管理の仕組みが実現していた。ただし、これはDOS版ソフトとホストをバッチで繋ぐというシステムだった。CATSの誕生は、さらにこの後になる。

短期導入が可能な連結連動型システム

 日鉱金属はその後、銅精錬事業で三井金属(株)と提携、共同で販売会社を設立した。次に会計システムについて検討がスタートしたとき、ERPパッケージに含まれる会計システムを採用する案が浮上。すでに営業システムはERPで開発する方向で動いていたからだ。

 だが、「ERPは導入に向けてビジネススタイルの変更が求められる」(稲垣課長)などの理由から、独自の会計システムを開発することを選択。これがCATSである。2000年10月、現・新日鉱ビジネスサポートは会計システムの構築にノウハウと経験を持つビジネスソリューション・ジャパンと共同で開発に着手。2001年4月、CATSの運用がスタートした。その後、20社での実績を経て、2003年4月からは運用規模を80社まで拡大する。

 CATSは、ASPを活用したWeb入力システム。センター(新日鉱ビジネスサポート)にWindows/SQL Serverでシステムを構築し、グループ各社を専用線で接続。各社はWeb経由でセンターのシステムに入力を行う。システムの安定性や処理速度も大幅に改善した。大量のデータが同時にアクセスする条件下でも問題はない。会計伝票を呼び出すときの処理時間はどのような内容のものであれ、1秒程度という。

 グループ各社はWeb画面から入金連絡、入金審査、支払依頼、証憑登録、振替連絡、立替え・仮払いなどのデータ入力を行う。連結情報はセンターシステムの共通マスター上で管理されるため、センターはグループ各社からその都度情報を収集することなく、連結情報を作成できる。CATSはそのほか、マルチインターフェイス、手形管理、資金集中、支払代行、債権・債務管理、連結情報収集、連結予算管理、連結分析などの機能を持つ。

 開発から稼働まで実質4カ月。CATSの開発がこれほど短期間で進んだのは、ホストシステムではあるもののベースとなる会計システムがすでに存在していたことが挙げられる。開発チームはこれをASP活用のWebシステムに組み替えたわけだ。だが、理由はそれだけではない。CATSの開発に当たっては「コストを掛けず、導入もしやすい」ことが重要視された。そこで最低限必要な機能を持つシステムを構築し、そのシステムに各社の既存システムを接続して利用する。これが、CATSの仕様の基本コンセプトになったのである。

 具体的にはCATSの特長的な機能の1つ、「マルチインターフェイス」に表れている。マルチインターフェイスはグループ各社の各業務システムとの連動を可能にするシステム。マルチコンバージョンシステムを備え、異なるシステム間の情報を共通マスター上で共有できる。各グループ会社は既存システムを作り替えたりせず、そのまま利用できるわけだ。コストは掛からず、操作性という点でも負荷はない。

CATS「マルチインターフェイス」機能 CATS「マルチインターフェイス」機能

連結会計処理のスピードアップが実現

 CATSの導入で連結決算処理はさらにスピードアップした。すでにホストシステム時代にある程度実現していたが、子会社での連結用データの手入力、メール送付、親会社による修正依頼などの作業はなくなり、作業工数は大幅に減少した。グループ間の取引明細はすべてCATSのデータベースにあるため、取引照合が極めて容易になったという。年度末決算では「連結決算作業は毎年3〜4日短縮されている」と稲垣課長は話す。

 ホストシステムでは作業はバッチ処理だったが、CATS導入後はWebを介して共通マスター上でリアルタイムに更新される。これを常時、グループ各社との間でメンテナンスすることで、決算データを効率的に管理・運用できるようになった。この連結決算情報の早期入手は、経営上の意思決定の迅速化にも貢献している。

 CATSではグループ全体の決算に反映される連結用科目は共通マスターシステムの中で一元的に管理される。取引先、金融機関、科目等、社員等といったさまざまな情報が共通マスターで管理されている。従って、科目コード、取引先コードなどのグループでの統一化が図れる。

 これによって、現場での仕訳入力作業が容易になるほか、例えば「特定の取引先との取引がグループ全体でどれだけあるか?」といったことも容易に把握できるようになったという。将来、このデータは「グループとしての与信管理に活用したい」と稲垣課長は話している。

システム導入後の連結作業フロー システム導入後の連結作業フロー

センターでグループ資金を効率的に運用

 資金集中・支払代行システムもさらに充実した。「グループ各社の担当者からは、資金繰りがなくなり、大変ラクになったという声が聞かれる」と稲垣課長は言う。一般に企業ではおおむね月末に支払いが集中し、資金が不足するため、担当者は資金繰りに奔走する。

 一方、新日鉱グループでは、新日鉱ファイナンスがフィナンシャルセンターとしてグループ各社の資金を集中管理し、支払いを代行している。すると、グループ各社は資金が不足した場合でも、センターが支払いを代行するため、外部の銀行から借り入れる必要はない。センターから一時的に借り入れる形となる。逆に、グループ会社に生じた余剰資金はセンターに貸し付ける形を取る。センターが作業を代行し、一括処理するため、グループ各社の作業は大幅に減少した。グループ各社には「入力担当者さえいればよい」と稲垣課長は言う。

「資金集中・支払代行」機能の概念図 「資金集中・支払代行」機能の概念図

 CATSではこれらの仕訳は自動的に行われる。また、売掛金・買掛金などのグループ内相殺、グループ各社からの支払依頼、入金連絡などを一元的に管理することができる。

 インハウス・バンク機能の構築によって、グループ外部に対する支払いと借り入れは大幅に減少した。現在、「グループ全体の支払いのうち、およそ半分が内部への支払い」(稲垣課長)である。当然のことだが、グループ全体の借入金利も減少した。

 新日鉱グループはグループ全体を機能別に再編成するとともに、情報の集中管理機能を高めた。CATSはその基盤システムとして機能している。連結決算における作業の効率化、スピードアップは言うまでもなく、今回の導入で実現したグループ資金の効率的運用は、同グループの経営に大きなインパクトをもたらしている。

Corporate Profile

新日鉱グループ(新日鉱ホールディングス株式会社)

本社所在地 :東京都虎ノ門2-10-1

創業:2002年9月27日

資本金:400億円

代表者:野見山昭彦(代表取締役社長)

事業内容:石油事業、金属事業、電子材料事業、およびそのほかの事業など多様な事業を展開する企業グループの持ち株会社

URL:http://www.shinnikko-hd.co.jp/


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