SAP製品に関する3つの疑問を解くトレンド解説(8)(1/3 ページ)

SAPジャパンがR/3の後継製品「mySAP ERP」を7月5日に出荷開始する。既存ユーザー企業・未導入企業問わず、情報マネージャなら誰もが気になるmySAP ERPの導入コストや開発生産性、保守サービスについて聞いた。

» 2004年06月18日 12時00分 公開
[アットマーク・アイティ編集局,@IT]

「ITコーディネータ」という資格制度が誕生して、今年で4年目になる。本資格を認定する「ITコーディネータ協会」によると、2003年12月現在で認定者は4300人以上。当初は新しいIT資格試験として業界内での話題にとどまっている感あったが、ここへ来て実際に自治体や企業でのITコーディネータ活用事例が生まれてきた。またITコーディネータ自身が中心となり、地域ごとにコミュニティを作り、相談窓口を設けるなど活発な動きを展開している。以下、ITコーディネータの活動と事例について見ていこう。

「SAP製品=高価、複雑、大企業向け」か?

 「SAP製品を導入したいが、価格が高過ぎて……」「業務効率化や経営状況の可視化ができるなら使いたいけれど、ウチの会社にはオーバースペックだろう」「導入が難しいのでは」、こんな悩みを持つ情報マネージャも依然として多い。箱売りパッケージと異なり、製品が機能単位でとらえにくいことに加え、ライセンス体系が複雑であることも理由に挙げられるだろう。 そこで今回は、新製品「mySAP ERP」のライセンス費用・導入およびアップグレードの方法・保守サービスおよび期間に焦点を絞って解説していきたい。

mySAP ERPの導入コストは?

SAPジャパン マーケティング・ソリューション統括本部長兼バイスプレジデント 玉木一郎氏

 SAPジャパン マーケティング・ソリューション統括本部長兼バイスプレジデント 玉木一郎氏は「結論からいうと、ライセンス体系と費用に関しては、従来のR/3製品と変更はありません」と説明する。

 SAP製品のライセンス体系を解説する前に、大前提としてSAP社では“契約”という概念を重要視していることを押さえておこう。

 「SAP社では“製品単位”で販売しているのではありません。『どのような業務を実現したいのか』というお客さまの考えに基づき、ソリューションを提供します。そのソリューションに対して“ライセンス契約”を結ぶ形を取っています」(玉木氏)。

 例えば会計システムを導入する場合でも、財務諸表を素早く作成したいのか、それとも管理会計を強化したいのかで、使う機能が異なってくる。またサプライチェーン管理でも、需要予測をしっかりやりたいのか、それとも拠点ごとの生産計画を集約したいのか、ユーザーニーズは多種多様だ。同社では、こうした「何をやりたいのか」というユーザーの意向を「ビジネスシナリオ」と呼び、このビジネスシナリオに従って、必要な機能を必要なスタッフが使えるように設定する。これなら不必要にオーバースペックにならず、システムが提供する業務プロセスがそのまま「やりたいこと=ソリューション」につながるわけだ。これが単体の箱売り型パッケージと大きく異なるところでもある。

 とはいえ、「ERPもCRMもSCMもやりたい」という場合はどうなるのか。そのために、SAPでは複数のライセンス形態を用意し、「大規模でも小規模でも実現したい機能を効率的に提供します」という契約を結べるようになっている。

ライセンス体系その1 「mySAP Business Suite」


これは主として大規模・大企業向けを対象にしたライセンス体系で、この契約を結ぶとERP、CRM、SCM、それにアプリケーション基盤である「SAP NetWeaver」などすべての機能が利用できる。価格付けはユーザー単位であり、機能追加に関してはコストは発生しない。導入企業のおよそ8割が、このライセンス契約を結んでいるという。

なおSAP社からは1ユーザーライセンス料を公式には発表していない。参考値としてだが、プロフェッショナルユーザ向けライセンス価格は「90万円台」といわれている。

ライセンス体系その2 「mySAP ERP」


これは上記のmySAP Business Suiteのライト版といえるライセンス契約で、ERP機能とNetWeaverが利用できるというもの。どちらかというと中堅企業向きで、価格はmySAP Business Suiteのユーザー単価より2割ほど安いという。

例えばサービス業などで、「SCMは不要、基幹業務をしっかり固めたい」というのであれば、このライセンスの利用が得策だ。さらに「CRMを導入したい」というのであれば、その分のライセンスを別途購入するか、あるいはmy SAP Business Suiteへ移行するといった手段も考えられる。なお、新製品のmySAP ERPと同じ名称だが、こちらはライセンス(ソリューション)の名前なので、間違えないようにしたい。

ライセンス体系その3 「SAP Business One」


これは6月17日より提供開始されたSAPの中小企業向け製品「SAP Business One」のライセンス体系であり、価格は1プロフェッショナルユーザ当たり35万円(SAP社がリリースにて発表した価格構成例は10ユーザーで280万円)と手が届きやすい設定になっている。ただし上記の2つのライセンスと異なり、「提供される製品が違う」とのことだ。

「具体的には、『何十万件という大規模トランザクションを大型サーバで動かせる』のがmySAP Business SuiteとmySAP ERPで提供される製品です。SAP Business OneではPCサーバでも稼働できるように、例えばMRP計算のようなメモリを大量消費する機能は提供されません。もちろん、ERPという観点で見れば、通常のSAP製品と遜色(そんしょく)なく、必要な機能を組み合わせてお客さまがやりたいビジネスシナリオを実現できます」(玉木氏)

 次に全体の導入コストを考えていこう。「全体の導入コストは、『ライセンス料:導入コンサルティング:ハードウェア費用=1:3〜5:1』という割合だといわれています。ただし導入コンサルティングについては、各SI企業がど

のような作業をし、どんなスタッフを何人割り当てるのかといったことで価格付けが異なります。この部分を透明化し、導入の意思決定に役立てるために『mySAP All-in-One』という中堅市場向け産業別の導入テンプレートも提供しています」(玉木氏)。

 mySAP All-in-Oneは、SAP社とパートナーSIが共同で発表した導入コンサルティングの内容・価格を明示化(テンプレート化)するというもので、これも同社のいう“契約”に近い。具体的には、導入作業に何をやるか、その工数はどれくらい掛かるか、それに対する費用はいくらかといったテンプレートを用意し、ユーザー企業が選べるようになっている。これを使えば、当初の工数・コストの見積もりから大きく外れることはない。これも参考値だが、「コストや工数が見積もりから2割もずれることはない」(玉木氏)という。ハードウェア費に関しては、どのベンダのどの機種を選ぶかで価格が異なるので、各社から見積もりを取るといいだろう。これを合算すれば、導入費と工数が割り出せるわけだ。

 前述したように、このライセンス体系は従来のR/3でも、新製品のmySAP ERPでも変わらないが、mySAP ERPならば、さらに「導入/アップグレードしやすい」という大きなメリットを享受できるという。この点について、次項から詳しく見ていこう。

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