コンサルタントを賢く活用する秘策システム部門Q&A(5)

コンサルタントに経営戦略について相談したいが、巨額なIT投資を勧められても困る――多くの経営者/情報マネージャに共通する悩みだ。今回は、コンサルタントを上手に活用する方策について解説する。

» 2004年02月26日 12時00分 公開
[木暮 仁,@IT]

質問

中小企業の経営者です。経営革新に情報化が重要であるといわれています。でも、何をどう情報化すればもうかるのか戸惑っております。コンサルタントに相談しようかとも思うのですが、巨額な情報化投資をアドバイスされないかという心配もあります。コンサルタントをどのように利用すればよいのでしょうか?



 非常に初歩的な質問のようですが、これには経営者の情報化に関する考え方とコンサルタントの活用に関する考え方について、基本的でかつ重要な問題を含んでいます。

情報化のプロセス

 一概に情報化といっても多様な段階があります。「ITコーディネータ・プロセスガイドライン」では、情報化のプロセスを次のように区分しています。

1. 経営戦略策定

自社の経営状況を認識して、将来のあるべき姿を考え、解決するべき課題を明確にします。すなわち、「どうすればもうかるのか」を考える段階です。ここでは、必ずしも情報化を前提にはしていません。

2. 戦略情報化企画

経営戦略を実現するために、どのような分野でどのような目的に情報化を進めるべきかの方針を検討します。

3. 情報化資源調達

戦略情報化企画に基づき、情報化要件を具体的に作成してベンダに示し(これを「RFP:提案依頼書」といいます)、ベンダから情報システムの提案や見積もりなどを受けて、実際に開発を依頼します。

4. 開発・テスト・導入

実際に情報システムを開発し、仕様が満足できていることを確認し、その情報システムを受け入れる段階です。

5. 運用・デリバリサービス

実際にその情報システムを導入するに当たり、利用者への訓練、利用して満足できる状況になっているか、将来の保守改訂をどうするかという段階です。


表 情報化の5つのプロセス

 なお、1や2を「上流工程」、それ以降を「下流工程」ということもあります(その境界は相対的で、あいまいです)。

 ご質問は上流工程に関する事項になります。よくある失敗は、上流工程の段階なのに、下流工程を専門とするベンダの(コンサルタントではない)営業やSEに相談することです。彼らに作為はなくても、ご懸念のような巨額な情報化投資をアドバイスされることになりがちです。

経営者の知識とコンサルタントの知識

 ご質問に教科書的な回答をします。

 「県や市町村に情報化支援の窓口がありますし、このような相談を受けるITコーディネータや中小企業診断士の制度がありますので、そちらに相談なさればよいでしょう。ぜひ、最寄りの機関に相談なさってください」

 逆に突き放した回答をします。

 「どうしたらもうかるのかを考えるのは経営者の責任です。それを実現する手段として、データを取り出したり計算できたら便利だという分野があれば、それにコンピュータを利用したらどのようなメリットがあるのかを考えればよいのです」

 これは実は同じことなのです。コンサルタントに依頼するべきこと、経営者が自ら行うべきことを認識すべきなのです。

一般論はコンサルタント、個別論は経営者

 経営戦略策定の段階において、コンサルタントは、一般的な環境における標準的な対策は知っていますし、貴社の業種・業態に類似した分野で成功した事例も多く知っています。しかし、それが貴社の状況という限定された環境でも通用するかどうかは、経営者以上には分からないのです。すなわち、コンサルタントからいろいろな見本が得られますが、それを自社の状況に限定した場合にどう適用するかは経営者が考えるしかありません。

考え方を示すのはコンサルタント、具体的検討は経営者

 コンサルタントは、経営戦略策定や戦略情報化企画の段階でどのように考えたらよいかの方法論をよく知っています。SWOT分析といった競争戦略などにまつわる手法を伝授し、検討の方法を教えてくれます。しかし実際に考えたり討議したりして、具体的な方針を策定するのは貴社の方々です。すなわち、どのような経営戦略を策定し、何を情報化するかを探すのはあくまでも貴社自身なのです。

情報化の方法

 経営戦略や戦略的情報化企画が具体的になり、情報化資源調達の段階になったときに、どのように情報化を進めればよいかを検討するのには、コンサルタントは非常に役立ちます。情報化にどの程度の費用や期間が掛かるのか、公的な支援措置を受けるにはどうすればよいかなどは、コンサルタントの利用が適切です。

コンサルタントの選び方

情報化を前提にするな

 とかく情報化することを前提にした検討になりがちです。「まず情報化ありき」で検討すると、経営戦略と合致しない情報化になったり、情報化以外の対策が不十分で効果が得られない情報システムになったりして、大きな失敗を生む原因になることが多いのです。少なくとも経営戦略策定の段階では、「情報化をするかしないか」は考えない方がよいのです。

 また情報化をするにしても、その方法は多様です。例えば会計業務を情報化するとき、そのようなサービスをする業者を活用すれば、その業者とインターネットで接続するパソコン1台だけの投資と利用費用だけで済むこともありましょう。自社で行うにしても数万円のパソコン用市販パッケージを入れるだけでよい場合もありましょう。それに対して、自社のニーズに合致させるために独自仕様の情報システムを構築するのであれば、数百万円の費用が必要になることもあります。

 このような検討では、高い知識能力を持っているコンサルタントが多いので、コンサルタントを活用するのが適切です。

コンサルタントは情報化推進の立場になりやすい

 コンサルタントには、パソコンやソフトウェアのベンダ、中立的な立場のITコーディネータや中小企業診断士(狭義でのコンサルタント)、市役所など行政での担当職員などがあります。やや偽悪的な表現ですが、これらの人たちは、情報化推進の立場になりがちです。

 ベンダはハードやソフトを売るのが商売ですから、貴社でコンピュータを導入して、固有のシステムを開発するように勧めるのは当然ですし、信義にもとる行為ではありません。

 行政では、大切な税金である補助金を使わないで中小企業の活性化ができれば最大の業績になるはずですが、現在の多くの行政では、補助金の実施達成率を高くすることが業績であると評価される傾向にあります。そのため、行政ですら情報化を推進する立場になりがちです。

 コンサルタントは特定のベンダとの関係はないので、その面では中立なのですが、それでも情報化推進の立場になりやすいのです。情報化する/しない、するならどのような分野を対象にするかという上流工程の検討だけで、しかるべき収入が得られるのは著名なコンサルタントだけでしょう。

 しかるべき報酬を受けるためには、情報化を勧めて下流工程での仕事を得る必要があります。しかも、パソコンを1台購入して簡単な会計ソフトを入れる程度の投資では、大した報酬は得られません。それに対して数百万円の投資をするのであれば、それに応じた金額になるでしょう。大規模投資を勧める方がコンサルタントにとって有利になるのです。これが質問のご懸念でしょう。

 それを回避するには、上流工程での相談の報酬を高くする必要があります。ところが、どうも中小企業では知識能力に多額の報酬を払う慣習が不十分です。貴社のようなクライアントにも責任があるのです。また、公平な立場でアドバイスしてくれる信頼のあるコンサルタントを得るためには、医者や弁護士を選択するのと同じ努力が必要です。

コンサルタントの専門性

 医者にも外科医や内科医があるように、コンサルタントも専門に分化されています。上流工程の段階で下流工程のコンサルタントを起用すると、どうしても「まず情報化ありき」のアプローチになりがちです。逆に下流工程も含めた相談に上流工程の専門家を起用すると、高まいなあるべき論に流れて具体的な情報システムの開発には役立たないこともあります。目的に応じたコンサルタントを探すことが必要です。

 また家庭医や専門医があるように、貴社と日常的に関係していて貴社の事情をよく知っているコンサルタントや、情報化の全プロセスについて包括的なアドバイスができるコンサルタント、組み立て生産システムやWebシステムに特化した高度な知識を持つコンサルタントもいます。信頼のおける家庭医と日常的に付き合っておき、専門医が必要になったときは適切な専門医を紹介してもらうのが理想的です。

 当然、個人による違いが大きいのですが、一般的には中小企業診断士は経営戦略策定のような分野が得意ですし、ITコーディネータは全プロセスにわたる支援を特徴としています。それらの協会では個人の特技を登録した資料がありますし、県庁、市役所、商工会議所などでもそのような登録をしていることが多いので、それらの機関に相談するのがよいでしょう。なお、著名なコンサルティング会社では多様な分野に高度な専門家を抱えていますが、費用が非常に高いので中小企業には不向きなことが多いようです。

コンサルタントの利用法

 ご質問の内容とはやや外れますが、コンサルタントを効果的に活用するのに留意するべき事項を列挙します。以下に述べるようなことに留意していただくと、コンサルタントへの出費も安価に抑えられますし、適切なアドバイスを得ることができます。

(1)時間を買うのではなく頭脳を買うこと

コンサルタントが貴社に来訪した時間で報酬額を決めるのは、不適切な情報化推進になる原因です。コンサルタントは、相談に応えるために、その数倍の時間を使って貴社の状況分析をしたり、関係分野の調査をしているのです。

コンサルタントによっては、すでにその知識を持っている場合もあります。貴社が必要としているのは、コンサルタントの知識や能力なのですから、アドバイスを受けることによる価値に対して報酬を払うのだという考え方が適切です。

(2)真実を伝えること

奇妙なことですが、コンサルタントが費やす多くの時間は、経営者から真実の状況を引き出すために費やされているのです。特に中小企業の経営者は、プライドが高く弱みを見せたがらない傾向や、自分の意見を押し付ける傾向があります。

コンサルタントは医者や弁護士と同じで、クライアントの本当の状況を知らなくては適切なアドバイスはできません。コンサルタントにはクライアントの秘密を守る義務がありますので、積極的に真実を提供するようにしてください。

(3)基本資料を整備すること

コンサルタントの費用を下げ効果的な指導を受けるには、コンサルタントを事務的な作業から解放することが重要です。過去数年の財務状況や営業状況、自社の組織体制、主要な業務の流れなどの基本資料は、どのような分野でのコンサルティングを受けるにも必要なことですし、情報化投資での支援措置を受けるときの提出資料としても必要です。

これらの作成をコンサルタントにさせると、それだけの時間や費用が掛かります。逆に、これらの基本資料を社内で作成することにより、社内での状況認識や改革への意識が共有されます。それにより、コンサルタントに依頼せずに自社内で解決できるかもしれません。コンサルタントに依頼するにしても、依頼事項が明確になり重点が絞られますので、時間や費用もあまり掛からず、適切なアドバイスが得られることになるでしょう。



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筆者プロフィール

木暮 仁(こぐれ ひとし)

東京生まれ。東京工業大学卒業。コスモ石油、コスモコンピュータセンター、東京経営短期大学教授を経て、現在フリー。情報関連資格は技術士(情報工学)、中小企業診断士、ITコーディネータ、システム監査、ISMS審査員補など。経営と情報の関係につき、経営側・提供側・利用側からタテマエとホンネの双方からの検討に興味を持ち、執筆、講演、大学非常勤講師などをしている。著書は「教科書 情報と社会」「情報システム部門再入門」(ともに日科技連出版社)など多数。http://www.kogures.com/hitoshi/にて、大学での授業テキストや講演の内容などを公開している


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