コンテンツマネジメント、日本企業の課題コンテンツマネジメントのニーズを探る(1)

Webの浸透などを背景に、企業や個人が取り扱う情報量は飛躍的に拡大、それとともに膨大なコンテンツを効率的に、あるいはより戦略的に管理しようという考え──コンテンツマネジメントは、欧米の企業においては、数年前からこの考え方が浸透・普及してきたが、日本においても、コンテンツマネジメントで成功を収めたベンダ、SIerが少ない状態だ。果たして、コンテンツマネジメントの市場はどうなるのだろうか。

» 2003年04月29日 12時00分 公開
[大河原克行,@IT]

コンテンツマネジメントの分類

 ひと口に、コンテンツマネジメントというが、この言葉で説明されるソリューションにはかなり性格の異なるものがひとまとめにされている。現在、市場に出ているコンテンツマネジメント・システム(CMS)は、用途のアプローチから大きく3つの種類に分けることができるという。

イー・ブリッジ 取締役 岡部惠造氏

 XMLコンソーシアム エバンジェリストで、CMSにも詳しいイー・ブリッジの岡部惠造取締役は、それを次のように分類する。

 1つ目には、CRMをはじめとするアプリケーションベンダがバックエンドのコンテンツを処理するために用意したバックグラウンド型のコンテンツマネジメント。

 2つ目には、社内のドキュメントマネジメントやナレッジマネジメントなどの発展系として、社内ポータル、パートナー向けポータルのために利用する際のポータル型のコンテンツマネジメント。


 そして、3つ目には、eビジネスやオンラインショッピングなどのWebコンテンツを対象としたWebコンテンツマネジメントがある。

バックグラウンド型CMS

ECサイトなどでの商品データや、CRMシステムの顧客情報などを管理する。多数のコンテンツを組み合わせて、パーソナライズやリコメンドなどを行おうとする場合、サイトのバックエンドシステムとして必要となる

ポータル型CMS

従来の電子ファイリングシステム、文書管理システムの延長線上にあるシステム。一部グループウェアにも近い機能を持つものがある。社内文書のワークフロー定義や管理、および膨大な社内文書の保管や再利用時の検索などが主な機能。大規模なシステムを、エンタープライズコンテンツマネジメント(ECM)ということもある

Webコンテンツマネジメント(WCM)

Webサイトで利用するコンテンツを管理する。複数の文書作成者がいる場合に、文書の作成と公開の関係を管理することでWebマスターの負担を軽減する。文書作成とページデザインの作業を分離することで、異なる文書作成によるページでもデザインを統一するといった機能を有するものも多い


 また、こんな分類もできるという。

 コンテンツマネジメントを実現する一連の作業は、一般的に次のような流れを取る。

 社内や社外、一般に流通するデータを収集/蓄積し、これを企業のワークフローの中に組み込み、そして、パブリッシングする。コンテンツデータの観点から見れば、コレクション/アグリゲーション、ストア、パブリッシングといった流れを追うことになる。

一般的なCMSにおける作業の流れ

 そして、これを先に分類したものと擦り合わせると、1つの傾向が見えると岡部氏は語る。

 例えば、ドキュメントマネジメントなどに強いコンテンツマネジメントツールは、ストアおよびワークフローといった点に強みを発揮する製品が多い。また、Webコンテンツに強い製品は、パブリッシングの部分に特徴を持った製品が多い、という具合だ。

 つまり、一概にコンテンツマネジメントといっても、用途と製品特性を理解したうえで、選択することが必要だ。

米国CMS市場の動向

 コンテンツマネジメントが注目を集めた背景には、企業にあふれかえるコンテンツをいかに管理するのか、といった動きが顕在化してきたことが見逃せない。

 また、社内やグループ企業間をまたいだ情報共有が重視されてきたこともコンテンツマネジメントの普及に拍車を掛けている。

 米国では、企業の再編による離散集合が繰り返され、別々の企業であったものが1つのグループとして事業を推進する必要性に迫られる場面も数多い。その際、Webを通じて提供していたエンドユーザーサービスを一元化するためにコンテンツマネジメントを活用するといった動きがある。これまでバラバラだった企業の顧客データ、サービス履歴などを一元化することで、トータルな顧客サービスに生かすといったことが可能になるのだ。

 ところが、コンテンツマネジメントベンダを取り巻く環境は、早くも淘汰の時期に入り始めているようだ。米国の調査会社は、すでにコンテンツマネジメントベンダが淘汰される段階にきたと指摘、岡部氏も米国での視察状況などを踏まえて、「全世界に大小200近いコンテンツマネジメントベンダがあるといわれるが、実際には、一昨年から企業間の買収が相次いでおり、その数は急速に減少している」と話す。

 「中でも、大手コンテンツベンダが、自らの弱い部分を補完するために中小のコンテンツマネジメントベンダを買収するという動きが相次いでいる。業界内では、将来的には5社程度に集約されることになるだろうとの見方もある」と岡部氏は続ける。

 米国において、フォーチュン1000と呼ばれる大手企業ではWebコンテンツの管理にほとんどがコンテンツマネジメントを導入を終えた段階にあること、中堅以下の企業でも、投資対効果を重視するユーザー企業が増加する中で、投資効果を計りにくいコンテンツマネジメントへの投資に二の足を踏む企業が増加していることなどが背景にある。

 そして、CRMなどを提供するアプリケーションベンダが独自にコンテンツマネジメントの機能を搭載するといった動きを見せ始めたことで、コンテンツマネジメント専業ベンダの優位性が発揮しにくくなったことなども、淘汰の原因の1つだといえよう。コンテンツマネジメントは、CRMなどの既存システムとの連動が不可欠。そうした意味で、CRMなどのアプリケーションベンダが、この分野に乗り出してくるのは当然といえば当然だ。

 「これまでは補完関係にあった、アプリケーションベンダとコンテンツマネジメントベンダが競合関係になってくる」(岡部氏)という指摘もうなずける。

日本におけるコンテンツマネジメントの実態

 では、日本におけるコンテンツマネジメントの実態はどうなのだろうか。

 一般的に、日本ではコンテンツマネジメントが定着しにくい、といわれる。その背景には、コンテンツマネジメントのベースとなるドキュメントの整理が遅れているという点が見逃せない。

 欧米では、人材の流動が激しく、業務に関するノウハウや履歴をドキュメントで残すという文化が定着しているのに対して、日本ではまだその動きが少ないこと。テキストマイニングに関して、単語で分かち書きされる英語に比べ日本語は単語の分割が難しく技術的な遅れがあることで、デジタル化したドキュメント管理が浸透していないといった点が挙げられる。まずは、この整備が進まない限り、“コンテンツマネジメント”を行うところまでたどり着けないままだ。

 とはいえ、Webベースのコンテンツがはんらんし始め、少しずつではあるが、コンテンツマネジメントの重要性が認識されているともいえる。そして、導入しやすい土壌が形作られようともしている。

 だが、ここにも1つの問題がある。コンテンツマネジメントによるROI(投資回収率)の問題だ。これは先にも触れたように、欧米の企業でも同様の問題を指摘する傾向にある。

 企業の情報化投資意欲が停滞傾向にある中、ユーザー企業側は直接、利益を生まないシステム投資を避ける傾向にあるのは周知のとおりだ。そうした中では、コンテンツマネジメントへの投資は必然的に敬遠される傾向にある。

 さらに、コンテンツマネジメント導入に当たっては、システム価格が比較的高価になりがちで、これもコンテンツマネジメントの普及を阻害する要因となっている。

 「ベンダやSIerがしっかりと、ROIを説明できない限り、日本におけるコンテンツマネジメントの普及はないだろう」(岡部氏)というわけだ。

ビィーガ 取締役 尾崎公治氏

 だが、「コンテンツマネジメントベンダや関連するSIerにおいて、説得力のあるROIを提示できるところは残念ながら日本にはない」(ビィーガ・尾崎公治取締役)というのも実態だ。ビィーガは、コンテンツマネジメントにおけるコンサルティングなどを行う企業。自戒も込めて尾崎氏はこう指摘する。「CRMやERPも、当初は導入実績が少ないことから、説得力のある説明をできるベンダが少なかった。日本におけるコンテンツマネジメントは、まだ、その段階にある」という。欧米での成功事例は、日本の市場環境を考えるとそのまま合致しにくいのは、岡部氏が先に指摘したとおりで、日本のユーザー企業に対する説得材料にはならないといえる。


ビィーガ 社長 白旗保則氏

 とはいえ、そうした中でも、ビィーガ・白旗保則社長は、同社の納入実績を基に、「日本においても、コンテンツマネジメントが普及しつつある分野もある」とも指摘する。

 それは製薬業界である。

 製薬業界においては、新薬申請の電子化が全世界規模で進展している。日米欧で同時に新薬申請を行うグローバルな製薬メーカーにとっては、申請ごとのドキュメントの書き換えは大きな負担だった。そこで近年、米FDA(米国食品医薬品局)による申請方法が世界的な標準となりつつあり、厚生労働省も、今年7月には、これに準拠した申請方法へと移行することを明らかにしている。


 FDAへの申請では、コンテンツマネジメントツールとして、ドキュメンタムを採用しており、必然的にこれが製薬業界におけるコンテンツマネジメントのデファクトスタンドードとなりつつあるのだ。

 新薬の申請に関しては、厳密なコンテンツマネジメントが求められる。実験データの修正やそれに伴う申請内容の変更に関するバージョン管理やフロー管理、そして、資格を持った一定の人だけにドキュメントの修正を認可するアクセスコントロールも重要な要素だ。

 これらの修正や手続きに関しても、申請の中では厳密にルールが決められており、製薬会社にとって、コンテンツマネジメントは必要不可欠なものとなっている。そして何より、申請の遅れにより新薬の発売が遅れれば、それだけで何億、何十億円もの損害を出すこともあり得る世界だ。

 「製薬業界においては、コンテンツマネジメントを導入することが新薬申請には必要不可欠。これを導入しないことには、死活問題にもかかわる」(ビィーガ・尾崎公治取締役)ということになる。

 つまり、コンテンツマネジメントの導入効果といった問題を議論する前に、その導入が企業存続の必須条件となっているのだ。

 ビィーガの白旗社長は、日本において、コンテンツマネジメントが普及しない要因を、

  1. 投資対効果の算定が難しいこと
  2. ドキュメントのフォーマットが統一されていないこと、およびデジタルドキュメントそのものが標準となり得ていない企業が多いこと
  3. CEO、CIOのコンテンツマネジメントに対する知識不足
  4. デジタルドキュント作成に対するワークフローが定義されていないこと

──を挙げる。

 「これらの問題を解決するには、企業文化そのものを変えるという取り組みが必要だが、それを実現するのは不可能。唯一、可能性があるとすれば、製薬業界のように『規制』といった黒船に頼るしかない」と尾崎取締役は話す。

 そうした意味で、製薬業界の次に普及が期待されるのが電子政府化を推進している官公庁、自治体ということになるだろう。電子政府化に伴って、電子ドキュメントの管理についても規制が定義されるようになれば、必然的にコンテンツマネジメントの導入も促進される可能性があるといえる。

(Part2.は5月上旬の予定です)


Profile

大河原克行(おおかわら かつゆき)

1965年東京都出身。IT業界専門紙「BCN(ビジネス・コンピュータ・ニュース)」で編集長を経て、現在フリー。IT業界全般に幅広い取材、執筆活動を展開中。著書に、「パソコンウォーズ最前線」(オーム社刊)など



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