eラーニング技術の最新標準化動向
特集 進化するeラーニングの標準技術を知る

株式会社エヌ・ティ・ティ エックス イーキューブカンパニー

仲林 清
2002/2/22

 ようやく、eラーニングという学習/研修形態が、本格的に普及しつつある。ITの技術スキルなどだけではなく、企業の人事研修の一環として、個人の“学び”の場として、ようやく認知されたといえるだろう。しかし、それらを支える技術については、それほど知られているわけではない。そこで本稿では、eラーニングを支える技術の標準化動向について、最新のトピックを含めて解説していきたい。

1 eラーニング技術の進化と標準化の流れ

eラーニングの利用形態

 技術標準化の話に入る前にeラーニングの利用形態についてまとめておこう。ここではeラーニングの利用形態の進化を3段階に分けて考える。

 初期のeラーニングの代表的な利用形態(第1段階)は、それはいまでも大半の利用形態であるが、WBT(Web-based Training)による自己学習である。学習者は、Webブラウザを用いてWBTサーバにアクセスして学習を行い、管理者はサーバに蓄積された学習ログで学習者の進ちょく状況を把握する。WBTの特徴は、Webをインフラとして活用した多数の学習者に対する低コストな一斉教育研修の実現である。

 やがてWBTの普及が進むにつれて、Webを用いた教材の閲覧だけでは学習意欲の持続、学習効果などの面で限界が明らかになり、他メディアとの併用や従来型の教育研修手段との統合が図られていく。これがeラーニングの第2段階の利用形態である。具体的には、インストラクタがメールを用いて質疑応答や学習アドバイスを行うメンタリングや、集合型研修とWBTを組み合わせた構成のカリキュラムで学習を行うブレンディングなどの形態が出現する。例えば、ブレンディングでは、WBTで事前に学習者のレベルの把握や基本的な知識の習得を行った後、インストラクタによる集合研修や実習によってより深い内容の研修を実施する。WBTの利点は、低コストで時間的な制約がなく、また、学習管理のIT化が図れるという点であり、一方、インストラクタによる学習は、学習者の応答を見ながらきめ細かな指導ができる点である。メンタリングやブレンディングは、これら両者の利点を併せ持つ、効率的で高品質な教育研修の実現を狙いとしている。

 さらに近年では、教育研修業務の枠組みを超えてeラーニングを企業戦略の一部として位置付ける、第3段階の利用形態に向けた動きが出てきている。すなわち、第2段階までのWBTやメンタリング、ブレンディングは企業内における教育研修業務の低コスト化・高品質化を狙いとしていたが、第3段階の利用形態は、企業内のほかの活動とeラーニングを積極的に連携させて、企業全体の活性化に活用しようという動きである。

 最も分かりやすい例は、人事育成戦略におけるeラーニングの活用である。すなわち、企業で必要とされる職種、職種に要求されるスキル、スキルを獲得するための研修カリキュラムを定義し、個々の従業員のスキルを測定することによって、各職種に必要な人材を育成するために、各人に必要とされる個別のカリキュラムを受講させる(図1)。

図1 企業の研修カリキュラムの流れ

 従来の研修が、ややもすると通り一遍で明確な目的を持たずに行われていたのに対して、ここでは、企業にとって必要とされる人材を育成するために、最適な個人に最適なスキルを獲得させるという明確な意図を持って研修が行われる。これ以外にも、新製品に関する営業社員教育・代理店教育などでは、eラーニングをサプライチェーンの中で活用することが考えられるし、日常業務でのOJT(On-the-Job Training)の高度化のためにEIP(Enterprise Information Portal)などの仕組みにeラーニングを組み込むことも考えられる。

eラーニング技術標準化の必要性

 ここでは、最初にWBTの教材について考えてみよう。WBTでは、通常のWebサイトのようにHTMLの画面を選択して解説教材として表示する「教材選択提示機能」だけでなく、○×、選択、穴埋めやシミュレーション型の演習問題の表示と正誤判定・採点を行う「演習出題採点機能」、学習時間、演習の解答、得点、習得状況などをログとして格納し、一覧データや統計情報として管理者に提示する「学習履歴管理機能」が必要となる。

 それでは、このような機能をどうやって実現すればよいのであろうか。これらの機能は、いずれも通常のWeb技術、すなわち、CGIやASP、Java、JavaScriptを使えば実現可能なものばかりであり、1つの教材を一塊のWebアプリケーションプログラムとして作り込んでしまうことも可能である。しかし、それでは新しい教材を追加する場合や教材を修正する場合はどうしたらよいのであろうか? あるいは、ある企業で使っている教材を別の企業でも利用したい場合はどうしたらよいのであろうか?

 教材を追加・修正する場合、もともとの教材が一体のWebアプリケーションプログラムとして実装されているとすると、多かれ少なかれプログラム開発作業が発生する。教材の開発にプログラミングのスキルが必要だとすると、なかなかeラーニングのコストを低減することはできない。また、教材を別のサイトに移植する場合は、Webアプリケーションプログラム全体の移植が必要となる。移植先のサイトですでにほかのWBTが使われているとすると、新しい教材を載せるために似て非なる2つのプログラムを運用することになり、二重の運用管理コストが発生するばかりか、学習者の進ちょく管理などはほとんどお手上げの状態になるであろう(図2のAの部分)。

図2 WBTシステムを校正する際の機能の分離の過程。AからDへと次第に各機能を分離することで、低コストでeラーニングサービスを提供できるようになる

 このような問題点を解決するため、WBTシステムを構成する際に、教材ごとに共通の機能と各教材に固有の機能を分離し、共通部分をWBTプラットフォーム、固有の部分は教材コンテンツとして実装する、という発想が出てくる(図2のBの部分)。プラットフォームとコンテンツが分離していれば、コンテンツ部分だけを新規作成・修正の対象とすればよいし、コンテンツをすでに稼働しているプラットフォームに載せることも簡単に行える。

 プラットフォームとコンテンツを分離するということは、両者間のインターフェイスややりとりするデータの構造を規定するということである。しかし、これらの規定がベンダごとに異なっていたら、ベンダ間で教材の移植を行う場合に最初と同じ問題が生じることになる(図2のCの部分)。そこで、プラットフォームとコンテンツの間のインターフェイスやデータ構造を各ベンダで統一し、異なるベンダのプラットフォームとコンテンツであっても、自由に組み合わせて利用できるようにしよう、というのが標準化の発想である。

 このような環境ができれば、利用者はどのコンテンツベンダの教材でも購入して自分のプラットフォームで使用することができる。さらにコンテンツベンダにとっては、自社のコンテンツが無改造で複数ベンダのプラットフォームで使用可能となるため、コストをかけずにコンテンツの販路を拡大することが可能となる(図2のDの部分)。このように標準化は、低コストで高品質なeラーニングサービスの実現に必須の要素なのである。

 以上では、WBTコンテンツの観点から標準化の必要性を説明した。しかし、コンテンツと並び図1に示した学習者情報および職種・スキル情報も、eラーニングを実行するうえで重要な情報であり、これらのデータ構造やAPIに関する標準化が進められている。

 
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SCORMを中心とした標準技術

Index
特集:進化するeラーニングの標準技術を知る
1 eラーニングの進化と標準化の流れ
  2 SCORMを中心とした標準技術
  3 今後の標準化の動向は?
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