「呪文から現実になるCRM」〜CRM関連書籍5冊を立体的に読む〜Business Computing書評(2)

» 2001年06月12日 12時00分 公開
[水島久光,@IT]

この5冊

  • 図解でわかるeCRMマーケティング
  • CRMの構築と実践
  • CRM戦略のノウハウ・ドゥハウ
  • ONE to ONEマネジャー
  • CRMの真髄

 実にマーケティング用語というやつは「呪文」に似ている。唱えていると、ご利益がありそうではあるが、実際にその呪文で奇跡を起こせる人は、一握りの霊感を持った人か、しっかりと呪術の修行(そんなものがあるのかは疑問だが……)を積んだ人に限られる。


『図解でわかるeCRMマーケティング』(以下『eCRM』
  (沢登秀明著・日本能率協会2000年5月)

■『CRMの構築と実践〜eビジネス時代の顧客戦略』(以下『構築』
  (スタンリー・ブラウン編・東洋経済新報社2001年3月)

『CRM戦略のノウハウ・ドゥハウ』(以下『ノウハウ』と略す)
  (野口吉昭編・PHP研究所2000年3月)

『ONE to ONEマネジャー〜先駆者たちの実践CRM戦略』(以下『1to1』
  (ドン・ペパーズ+マーサ・ロジャーズ著・ダイヤモンド社2000年6月)

『CRMの真髄〜e-ビジネスで探る新モデル』(以下『真髄』
  (荒井久著・日経BP企画2000年10月)

 これらは、いずれもこの1年余りの間に出版された「CRM」をタイトルに持つビジネス書である。この5冊の通読は、僕らが「立体視力」を回復するためのトレーニングとしてうってつけである。なぜなら、それぞれの本の「立ち位置」の差が見事にCRMの姿を浮かび上がらせてくれるからだ。

視点その1 「顧客満足」と「顧客関係」との入れ子関係

 5冊のうち3冊は日本人が著者、2冊が翻訳モノである。これはCRMの立体像を描くには重要な視点である。いうまでもなく多くのマーケティング用語は「輸入品」である。必ずしも輸入されたものが生産国と同じように使用されるわけではないことは、どんな商品にでもいえることだが、こうした「使われ方の違い」は、その商品が置かれる“環境”の違いである場合が多い。

 本題である「CRM」とは、文字どおりCustomer Relationship Managementの略だが、略す前の意味が、日本の著者にとってはやや薄れてしまっているようだ。「顧客の満足度を高めることによって、収益の向上を図る経営手法(日経BP『2000年版情報・通信新語辞典』;『真髄』カバーより)」という定義に代表されるように、日本では「CRM」は顧客満足と結びついた概念になってしまっている。

図解でわかる eCRMマーケティング

沢登秀明著
日本能率協会マネジメントセンター
2000年5月
ISBN4-8207-1499-6
1600円+税
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 『eCRM』でも、冒頭に「一人一人の顧客ニーズを中心に考えたマーケティング手法」と定義づけている。もちろん、直訳が「顧客関係性経営」という言葉であることは知ったうえでだろうが、元の言葉にはない“顧客ニーズ”にフォーカスした意訳にはちょっと奇妙さを感じる。


CRMの構築と実践―eビジネス時代の顧客戦略

スタンリー・ブラウン編
東洋経済新報社
2001年3月
ISBN4-492-55417-3
2400円+税
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 一方、「eCRMとは顧客関係の管理」と定義づけているのは『構築』である。同じく翻訳モノである『1to1』でも、「顧客リレーション」という表現が多用されている。注目すべき点は“関係性”へのこだわりである。

 “顧客ニーズを満足させること”と“顧客との良好な関係が維持できていること”とは、原因と結果の関係にあるともいえる。そう考えると、日本の著者のように「CRM」の定義として、一気に原因に飛躍するのも理解できなくはない。

 しかし、「CRMは顧客満足度を向上させる手段ではなく、顧客価値の収益性を改善するもの(『構築』65ページ)」という記述にも表れているように、必ずしもすべての顧客満足が経営にプラスに働くものとはいえない。つまり、CRMでいう「良好な関係」とは、顧客と企業が“仲のよい”ことではなく、収益に結びつく合理的な関係が築かれているという“冷静な”意味であることが分かる。

 この「冷静さ」に関係していると思われるのが、翻訳モノに貫かれている“あくまでCRMでは「マネジメント=管理」が主題となっている”という姿勢である。いわく「顧客関係」は、経営課題なのである。この“CRM=経営課題”という意識が、日米のビジネス書の立ち位置の違いを際立たせている。経営者が組織をコントロールする「知恵」が、ビジネス書に求められているのであって、個々のビジネスマンがオペレーションするノウハウが求められているわけではない。

 「顧客満足の向上」と「顧客関係の維持」は確かに相補関係にある。しかし、主題をややあいまいに定義している日本のビジネス書には、「分かりやすさ」を求めることで「ターゲット」を広げようとしている出版戦略が見え隠れしているようにも思える。


視点その2 インターネットが顧客主義を生んだ……か?

CRM戦略のノウハウ・ドゥハウ―「顧客主義」を実現する

野口吉昭編、
HRインスティテュート著
PHP研究所
2000年3月
ISBN4-569-61028-5
1700円+税
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 「インターネットは、通信やメディアやITの技術革新を進めただけではない。もっともっと大切なことを示唆しはじめてきている。“インターネットは、顧客主義を生んだ”のだ(『ノウハウ』3ページ)」。編者の野口氏は、資本主義からの新たなイデオロギーの転換とまで述べている。なんという大胆な!

 野口氏ほど極端ではないが、テクノロジの進歩がCRMに大きな影響を与えたことはすべての著者が強調しているポイントである。ただ、ここにおいても、どうやらこの5冊の本のスタンスは2つに分けられるようだ。果たしてインターネットに代表される技術革新は、CRMを新しいパラダイムに導いたのか、それともこれまでもCRMが持っていた経営合理化のコンセプトを加速させただけなのか。


ONE to ONEマネジャー 先駆者たちの実践CRM戦略

ドン・ペパーズ、
マーサ・ロジャーズ著
ダイヤモンド社
2000年6月
ISBN4-478-50182-3
2200円+税
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 “ONE to ONEマーケティング”のそもそもの提唱者でもあるドン・ペパーズ氏は、CRMを実践する企業が増えた理由を、コンピュータ・テクノロジによって「それが可能になったからだ(『1to1』53ページ)」という。タイトル自体に「e」を掲げる沢登氏も同様に「CRMが実現できるようになった背景にITの目覚しい進歩があった(『eCRM』44ページ)」という。では、テクノロジの進歩以前のCRMは、“実現を伴わない”ものだったのだろうか。

 答えは、100%とまではいかないが、“YES”だったのではないか。ドン・ペパーズ氏は後書きにおいて次のように告白している。「(1993年に発表した著作では)今日のCRMを定義する原理のほとんどが含まれているが、今読み返せば、そこに出てくるビジネス事例のほとんどが仮説段階にとどまっていることに気づくだろう(『1to1』272ページ)」。

 CRMはテクノロジによって開花した。それは間違いないだろう。だからこそ、この1年というものCRM関連書籍の出版ラッシュだったのだ。では、テクノロジ以前のCRMとは何だったのだろうか。このあたりは日本人著者陣がかなり明確に定義している。


CRMの真髄―e‐ビジネスで探る新モデル

荒井久著
日経BP企画
2000年10月
ISBN4-931466-21-4
1600円+税
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 「多品種化が顧客の選択を困難にさせたことで、それを解決する手段としての機能が求められた(『eCRM』14ページ)」「CRMがこれほどまでに注目されているのは、それぞれの業界で競争が激化しているからだ(『真髄』36ページ)」「その競争の原因を作っているのが“規制緩和”である(『真髄』36ページ)」。CRMとは、こうした市場原理の変化が、“必要とした”ニーズに適合する論理だったのである。おそらく高度成長〜バブル期の流れにあった日本経済にとってみれば、1990年代は「競争」を初めて意識した10年だったのかもしれない。そのような視点に立てば、CRMはまさしく新しいパラダイムを象徴する言葉といえる。

 翻訳モノの論調で特徴的なのは、“CRMは、どちらかといえば古い概念である”というスタンスである。「CRMは、ある意味時代遅れだ……いってみれば、町の食品雑貨店の取引方法なのだから。これを何万、あるいは何百万の顧客を抱えた企業レベルで実施するところに新しさがある(『構築』2ページ)」。CRMはある意味、これまでにもあった概念の焼き直しであるし、連続した経営環境変化のダイナミズムの中にある……これが、本家アメリカにおけるスタンスである。結局は株主を大事にし、自社利益を追求していくアメリカの経営思想に迷いはないということだ。


視点その3 では、テクノロジはCRMに何を与えたのか?

 これについては、すべての書籍が一致した見解を示している。ポイントは2つある。「コストの軽減」と、「顧客情報・オペレーション組織の統合」である。

 技術革新以前のCRMでは、コストの問題は非常に大きな壁であった。当然である。1人1人のニーズに対応していく「手間」は、ダイレクトにコストへはね返る。本質的にオペレーションの個別性を追求するCRMが、その本質そのものによって自らの首を締めることになる……とはいささか矛盾めいている。

 が、これには“CRM”を成立させる条件が絡んでいる。その条件とは、「顧客を“群”でとらえること」と「“長期”的な顧客関係を築く」ことだ。いずれの条件もオペレーション・コストとリターンの効率的な循環に寄与するものであることは一目瞭然である。今回通読した2冊の翻訳モノのうち、『構築』が前者を基礎条件(「顧客を分類すること」29ページ)とし、『1to1』が後者の条件(「顧客を『学習』すること」53ページ)を重視しているのが面白い。

 しかし、この2つの条件とも、かぎを握っているのは「統合」である。複数の顧客をまとめて見るのも、個々の顧客を長期的にサポートするのも、システム的には“複数のトランザクション、顧客データをひとまとまりに関連づけること”には変わりはない。近年のテクノロジの進化は、まずこの「統合性」に寄与したものであるということはいえる。

 さらに面白い点は、各書とも、この「システム統合」の視点を、組織統合に発展させていることである。かつてのテクノロジはマス・マーケティングの分散生産効率に寄与するように考えられていた。実際、かつての多くのシステムは、「CRM関連のものですら部門別の合理性に関連づけられていた」のは『真髄』でも指摘されているとおりである(170ページ)。

 「顧客志向」が「統合」の視点を与えた以上、システムの構築は部門別に行われることはあり得ない。従って課題は「システム」から顧客関係を見据えた組織自体の再編に向かうのは必然である。この議論をさらに先に進めたのが『ノウハウ』のスタンスで、野口氏はそもそもの企業の理念(ビジョン)や目標までも「顧客主義から発想しなおす」いうスタンスで一貫している(『ノウハウ』96ページ)。

 どのレベルまで考えるべきかは、各企業の状況によって異なるとは思うが、このスパイラルによって「テクノロジ・イノベーションは、企業組織のあり方についての再考に帰結する」という結論は得られそうである。

 これまでの議論は、どちらかといえば顧客情報を核としたバックエンドの統合に軸足を置いたものだが、「そもそもインターネットは、低コストな情報提供媒体であるとともに効率的なコミュニケーション手段として、主に企業にとってコストダウンを目的として利用されてきました(『eCRM』44ページ)」の指摘どおり、テクノロジの進化は「コールセンター機能の向上」と「セルフサービス化」という顧客接点機能の向上にも大きく寄与している。

 ここでのコスト効率への寄与ポイントは2つある。まず、「顧客側からの自発的なリレーションシップ行動を促すという点」。もう1つは「横断的、連続的な顧客アプローチを可能にする点」である。いわゆる営業効率への寄与(SFA)は、それ自体大きな課題であり、ドン・ペパーズ氏も、次回作のテーマであることを予告している。

 フロントエンド、バックエンドおのおのの「統合」、さらには、それらすべての包括的な「統合」を実現することによって、テクノロジはCRMのコスト低減と効果の創出に貢献した。それに加えて『eCRM』が指摘する“サービスサプライヤー企業”群(『eCRM』50ページ)の充実も見逃せない。システム基盤が「統合」を可能にしたからこそのアウトソーシング=分散化という視点も面白い。

視点その4 類似概念とCRMの関係

 さて、ここでCRMは“「棚卸し」された知恵の「化粧直し」”の轍を踏んでいると申し上げたが、実際、各著が指摘しているように理念自体は新しくない。というより、これまでもさまざまにうたわれてきたマーケティング・コンセプトのいずれにも深い関係を持っている。それは程度の差(『構築』に見られる「一貫した経営合理的指向の延長線にある姿勢」から『ノウハウ』での「顧客主義=イデオロギーの転換の主張」まで)こそあれ、企業組織のあり方を再考する「総合的なマネジメント概念」につながっていくからである。

 そこで、これまでマーケティング用語“界”をにぎわせていた、幾つかの類似概念とCRMとの関係を整理しておこう。

《「ONE to ONEマーケティング」と「CRM」》

 ドン・ペパーズ氏は、前回の著書同様、今回の本でもほぼ「ONE to ONE」とCRMを同一視しているといえよう。というよりも、「ONE to ONE」から出発してCRMに到達したというほうが正確かもしれない。

 現に彼は序文で「ワン・トゥ・ワンという原理のもとで成功を収めるには、販売・マーケティング部門だけでなく、製造、情報技術、流通チャネル管理など、企業全体のさまざまな機能が積極的に関与する必要がある(『1to1』序文)」と述べているが、これに従えばONE to ONEという“マーケティング手法”が“経営(マネジメント)課題にまで到達した”ものがCRMと定義することもできそうだ。

 そう考えると、『ノウハウ』にある「1:1マーケティングの実践をCRMというシステムとして解決させようとした(『ノウハウ』23ページ)」という説明は、現在のCRM概念からすると少々違和感がある。テクノロジ進化以前の状況を反映した物言いというべきか(野口氏自身、こうした「CRM=ツールの集合体」という“手垢”が付いたCRM概念は払拭すべき……と述べているが、この指摘は正しいと思う)。

《「ターゲット・マーケティング」「クラスタ・マーケティング」「ダイレクト・マーケティング」…》

 野口氏も『eCRM』の沢登氏も、「CRMは市場セグメントに基づくマーケティング手法から発展したもの」と指摘しているが、この点は『構築』がそのポイントを軸足にしていることから分かるように、的確にCRMの(ONE to ONEと対照をなす)もう1つの顔を描いているといえる。

 実際、CRMの顧客アプローチとセグメントに関する多くの概念は、これらの先行するマーケティング手法からの援用で構成されている。

《「eビジネス」と「eCRM」》

 今回の5冊の中に、eビジネスとの関係をタイトルに冠したものが2冊あった(『真髄』『構築』)。『真髄』はその中でもIBMのソリューションを導入したクライアントへの取材を軸に構成されているので、実質的にはCRMの本というより、eビジネス事例集といえなくもない。

 この2つの概念の関係は、「マネジメント概念」と「その実現を支援するシステム・ソリューション」であるといえよう。CRMはかつてツール・ドリブンなイメージを持っていたため、この2つの概念には混乱があったが、逆に『真髄』がeビジネスを主題としてCRMを語ることで、違いが明確になったようにも思える。

 こうやって類似概念とCRMの関係を見ていくと、この1年のテクノロジ・イノベーションに支えられたCRM関連書籍の出版ラッシュは、誤解に満ちたCRMのイメージを定義し直すという機運に支えられているようにも思える。

通読の手引き:2冊並べて、差分を見つめよう

 さて、5冊を通読して、CRMの立体的な姿が見えてきただろうか? 「5 冊は多すぎ」と思われる方には、2冊ずつ並べて読まれることをお勧めする。冊数が多いとかえって漠としてしまうことも、2冊だと1つのテーマに関しての違いが明確になりやすい。その違いこそが立体視=遠近感のかぎである。さあ、どの切り口からいこうか……。

1)「CRM」支援を生業とする企業の視点から
比較する書籍:『構築』と『真髄』

〜プライスウォーターハウス vs. IBM〜



 『構築』はプライスウォーターハウスクーパース、『真髄』はIBMの目で見たCRMである。前者はコンサルティング、後者はシステム・ベンダである。この両業種は近年「ソリューション」という言葉を接点として急接近しているが、その「ソリューション」という語句の理解についても、もともとの生業の違いが見られて面白い。

 特に「戦略」と「システム」の関係を理解するには、このコントラストは役に立つ。強いていえば前者は“演繹法”であるが後者は“帰納法”といえよう。

2)筆者は取材によって何を得ようとしているか
比較する書籍:『1to1』『真髄』

〜経営の中枢と現場感覚〜



 この2冊はともに、事例取材を中心に構成されているが、その取材対象にあてるスポットの違いが面白い。日米のCRMに関する意識の違いについてはすでに触れたが、この取材でも、『1to1』で取り上げられている海外の事例は、大半の取材対象がオーナー、CEOなどのマネジメント・クラスであることに、CRM=経営課題であることが表れている。

 一方、『真髄』に取り上げられた日本の事例の取材対象は、現場の長である場合が多い。システム導入事例であることも理由の1つであろうが、どうもまだ日本ではCRM=オペレーション課題ととらえられているのか?

3)筆者読者教育と書籍構成
比較する書籍:『1to1』『eCRM』

〜ビジネススクール型演習と困ったときの“あんちょこ”〜



 日本のビジネス書の場合、大きく分けて「啓発書」と「ノウハウ書」に分かれるようだ。

 ノウハウ書といった場合、仕事の合間に分からないところだけをつまみ食いできる“あんちょこ”型が多いが、『eCRM』の場合、そういった意味での完成形といってよいだろう。すべてのトピックが図解入りの2ページという構成で統一され、しかも98トピックという豊富さ。網羅性に目がいきがちだが、全体の構成からは理解させたいポイントの“戦略”さえ感じる。

 一方、『1to1』は、さながら“ビジネススクールの演習”である。課題→ケーススタディ→ディスカッションという流れは、「テクニック」ではなく「問題の本質」を理解させたいという“戦略”を感じる。思えばこの手のビジネス本は日本には少ない(ややぎこちないが、『構築』もこの形式、日本モノでは『ノウハウ』が一部演習形式をとり入れている)。

4)思想を求めるか、指標を求めるか
比較する書籍:『ノウハウ』と『構築』

〜人は何のために働くのか〜



 “CRMは経営課題である”ということが今回の5冊で明確になってきたが、さて、そもそも「経営課題」とは何だろうか……と考えると悩みが深い。その点でこの2冊は対照的である。『構築』にはビジネスにおける成功→株主への責任といった迷いのない姿勢が貫かれている。従って、本書の中では、成功に導く「指標」があふれている。この指標に関しても、“指標自身が成功への刺激となる”「触媒的指標」を最後に提言しているところなど(『構築』262ページ)徹底的である。

 一方、『ノウハウ』では、経営思想を主題として取り上げている。いささか大風呂敷だが、すでにここでは新しい価値の追求とは何か……まで踏み込んでいる。

 さて、CRMを志向する新たな経営者のスタンスはどうあるべきか(ドン・ペパーズ氏の取材先に、企業だけでなく「大学」「消防署」が含まれているのも、見方を変えれば『ノウハウ』の切り口に近いともいえる)。

5)図表はどんな効果をもたらすのか
比較する書籍:『ノウハウ』『eCRM』

〜プロセス理解とマトリックス理解〜



 とはいえ、ビジネス書は「売れてなんぼ」の世界である。そのためにはなんといっても“分かりやすさ”が命である。分かった気にさせる効用が大きいのが図表だ。

 ところで今回の5冊の中で特に図表をふんだんに使用しているこの2冊には、ちょっとした方向性の違いがある。各トピックにすべて図表がある『eCRM』は、個々のトピックの仕組みを理解させることにウエイトが置かれていて、“流れ(プロセス)”がつかみやすい。

 一方、『ノウハウ』では、多くの図表がマトリックスをなしており、「関連している事象の網羅・整理」を志しているようだ。ポジショニングとか分類とかいった理性がここには働いている。ちなみに『真髄』の図表も特徴的である。なにせ、システム導入事例が中心だけに、大半の図表が「システム構成図」である。こうした図表などは、目的に応じて、引用するとよいかもしれない。

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Profile

水島 久光(みずしま ひさみつ)

( sammyhm@jcom.home.ne.jp )


1984年慶応義塾大学経済学部卒業後、旭通信社にて、ダイレクト・マーケティングを手がける。1996年にはインターネット広告レップ「デジタルアドバタイジングコンソーシアム」の設立に参加し、インターネット・マーケティングに関する多くのプロジェクトに携わる。そのうちの1つ、情報検索サービス「インフォシーク」の日本法人設立準備にあわせて旭通信社を1998年10月に退社し、「インフォシーク」を運営していたデジタルガレージに入社。1999年6月、インフォシークの設立後、編成部長をつとめ、2001年4月末でインフォシークを“卒業”。現在は、東京大学大学院に入学し、文・理系を横断する“情報学”を追求する一方、流しのマーケッターとして修行中。日経BP社『ネット広告ソリューション』インプレス『企業ホームページハンドブック』(いずれも共著)

Web広告研究会が最近発刊した「バナー広告効果実証実験報告書」(お問い合わせはsec@wab.ne.jpまで)においても執筆している


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