<今回の内容>
■日本の普遍的技術産業
■「変化のない産業」こそおもしろい
■2003年までの事業確立
■それでもeコマースは進んでいく
日本の強い産業とは何か。半導体や自動車、鉄鋼業、繊維などになると思う。実はこれらは、自動車を除いては2000年前からずっと続く日本の優れた産業なのである。疑わしいと思われるだろうが、そうなのである。
2000年前に半導体はないだろうといわれれば確かにないが、セラミックということでは、2、3世紀ごろには日本に誕生していたようだ。それ以前から、焼き物は日本各地で作られ、使われている。その時代には土器しかなかったといわれるかもしれないが、かなり多種の焼き物が作られ、その中には高度な技術の物も含まれている。これは世界でも珍しいそうである。
鉄も日本の強い産業の1つである。紀元2、3世紀において、日本はアジア地域では鉄の先進国であったようだ。砂鉄を溶かして鉄をつくるのだが、これはこのやり方しかなかったのではなく、鉄鉱石から製鉄する方法と比較した場合に、コストパフォーマンス的に「選ばれた」ものなのだ。
繊維も2000年前から養蚕を行い、絹をつくり、非常に繊細な織物を作る技術を持っていた。当時、養蚕と絹織物の技術をアジアで保有していたのは、ごく一部の地域だけであった。この絹織物の繊維技術は、光ファイバの技術につながっていき、さらにはブロードバンドへと続くことになる。
ややこじつけもあるが、実は日本の産業の強さは、営々と2000年間続いているのである。普遍というか、変化がないようにも感じるが、偶然にしても興味深い。
仕事柄、市場の成長の話をよくするのだが(それが筆者の本業であるが)、変化がないとか、横ばいという状態が私は好きである。通常、「変化がない」「横ばい」というと、ほとんどの人は興味を持たずにさらっと流してしまう。しかし、何の市場でも売り上げでも販売量でも、横ばいだから何も起きなかったというわけではない。いろいろな努力や問題などが起きてはいたが、結果的にその期間中には数量として変化がなかっただけである。
私は、人が見逃すこの変化のない状態に特に興味を持っている。水面下でさまざまなことが起きているのではないか、爆発寸前の張りつめた均衡が一見、何も変化していないように市場を見せているのではないか、などと想像は広がる。あるいは何らかの理由で、その市場で働いている人がその期間にサボタージュして売り上げが伸びていないのかもしれない。当たり前だが、数値的に変化がなくとも、そこで働く人々や生活する人々には変化があるのである。eビジネスも、いまそんな時期にあるのではないかと思う。
今回のテーマは「eコマースはもうかるのか」である。イーシー リサーチ(ECR)では、企業経営におけるeビジネスへの取り組みについて、国内企業(自営・個人企業を除く)を対象に、現状の電子商取引への取り組み状況や売上高、eビジネスを今後推進していくうえでの課題などに関するアンケート調査「eビジネス企業アンケート2001」を実施した(※調査対象:各企業で今後の事業決定をする経営者や経営企画部門。調査期間:2001年2〜4月。調査対象企業:6915社。有効回答数:1374社)。
そこで、いつeコマース事業が黒字になるのかというストレートな質問をしてみた。2000年時点ですでに利益が出ているという企業は、2.4%という結果になった。つまり98%が赤字だということである。ビジネスモデルが良くても、すぐに利益を出すのは難しいようである。現在、利益を出し始めているのは、コンピュータ関連の企業間取引やオンライントレード、インターネットポータル系の紹介ビジネスなどのようである。
特に対コンシューマ系(BtoC)で、成長が見られるのは次の5つの分野である。パソコン、旅行、株、オークションなどの紹介ビジネス、本や衣料品などの小売りがそれである。しかも、そのすべてではなく、その中のごく一部が成長しているにすぎない。
この調査は、インターネットバブル崩壊などといわれている最中の調査なので、その実態がより浮き彫りになっているようだ。このような状態なので、投資家が早々に見限って離れてしまい、バブル崩壊が加速している。eコマースを専業とする企業は、よほど腹をくくってかかるしかない。
また、この2年以内での黒字化を予定している企業の合計は15.1%となっている。これは、甘い期待と見込みを含んだ数字である。それでもこの結果である。予想以上に現実が厳しいということである。
eコマース専業企業は、生き残り可能なビジネスモデルの捻出と、実際になんとか利益をあげる必要とがある。それができない企業が消え去るのは市場の摂理であろう。夢や期待だけで長い目で見てくれる投資家はほとんどいない。「勝ち組企業」という言い方はよくあるが、正しくは「生き残り組」かもしれない。これから生き残るためには、この競争の激しい2003年までに事業を確立することだろう。競争なきところに市場はない。
また、アンケート結果の中で、先行きの不透明感からか、黒字化の時期が「不明」という企業が77.6%と大半を占める結果となった。つまり、分からないのだ。ただ、これでもやっていけるとふんでいるのだからすごい。
とはいえ、「とにかくeコマースはやっていく」ということだろう。だから、大いに成功しても大した成功をしなくとも、あらゆる産業でeコマースが広がっていくことは確実だろう。この連載の第1回目に書いたが、米未来学者ピーター・シュワルツの予測で、その著書『ロングブーム』(ピーター・シュワルツ/ピーター・ライデン/ジョエル・ハイアット著 小川京子訳 ニュートンプレス刊)にあった「2007年にはeコマースは単純にコマースと呼ばれるようになる」という言葉をあらためて思い出す。
さて、いきなりだが、この特集は今回が最終回である、私自身も経営者の端くれとして、この連載で自分が書いたことを実践していこうと思う。
(おわり)
“梅山貴彦の「eビジネス展望」”は、今回で連載終了です。
梅山氏の次回記事にご期待ください。
梅山貴彦
情報産業界で15年の経験を持つIT関連のアナリスト。IDC Japan株式会社では調査担当副社長を務め、eビジネス、インターネット、パソコン、PDA、コンシューマ機器、ネットワーク、コミュニケーションなどの調査分野を統括。2000年9月にイーシーリサーチ株式会社(以下ECR)を設立、代表取締役社長に就任。ECRでは、調査プログラム全体の設計や新しい概念の調査手法なども推進している
略歴
1986年2月 テクノシステム・リサーチ アシスタント・ディレクター
1989年11月 株式会社日立ハイソフト マーケティング部
1990年1月 株式会社日立製作所 パーソナルコンピュータ 商品企画部
1993年1月 IDC Japan株式会社 リサーチグループ シニアアナリスト
1997年5月 同社 調査担当副社長就任
2000年9月 イーシーリサーチ株式会社 代表取締役社長 & CEO就任
*ECRホームページ「e談話室」もご覧ください
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.