システム統合になぜ業務分析が必要なのか?――作業の理由とITガバナンス戦う現場に贈る分散システム構築−情報部門編(3)(1/2 ページ)

システム統合プロジェクトでは冒頭、業務分析が行われる。業務分析は一般の個別システム開発でも実施されるが、システム統合におけるそれはまた違った意味合いがあるのだ。

» 2008年12月01日 12時00分 公開
[岩崎浩文,豆蔵 BS事業部]

 SI会社からユーザー企業に転職した若手技術者の豆成くんは、入社早々に社内に点在する複数システムの統合という大役を押し付けられてしまった。どこから手を付けてよいか分からない状態から、何とか業務分析段階まで進むことができたが道は険しそうだ。開発経験は独立した単体システムのみで、業務知識もシステム統合技術も持たない豆成くんは、無事プロジェクトを成功させることができるのだろうか?

豆成くん、怒鳴られる

 さて、前回困ったことになり頭を抱えていた豆成くんだが、先輩である蔵田の手助けで要求定義までの予算を急きょねじ込んでもらい、RFPを投げ、業務分析を得意とするいわゆる上流のシステム設計会社に業務分析の作業をお願いすることになった。

 これまで上流の設計会社との付き合いがなかった豆成くんは、システムではなく業務を取り扱う、違う世界の人たちと突然付き合うことになり、不安な毎日を送ることになった。

 早速やってきた新しい業者は、数度の打ち合わせの後、社内の利害関係者にヒアリングをする形で、自らの得意とする分野である業務分析を始めた。豆成くんはスケジュール調整に追われることになったが、成果である分析結果は順調に完成へ近づいた。

 ところが、度重なる利害関係者へのヒアリングのせいで、現場への負担が社内で問題になり始めた。初めのうちは先輩の蔵田が裏の調整役として不満を抑えて回っていたが、ヒアリングが夜間23時にまで及んでしまったことを契機に、ついに利用現場のリーダー格である大江課長が豆成くんのもとに怒鳴り込んできた。

 「おい、豆成。もういいかげんにしろ。みんな帰りたいんだよ。それに残業手当だけでも部門には相当な負担だ。何であんなやつらを連れてきて、いまさらヒアリングなんてやるんだ。もう終わりにしろ!」

 課長からは容赦のない厳しい言葉が飛んでくる。

 「申し訳ありません……」

 入社直後で立場の弱い豆成くんは平謝りするしかなかった。

 「ところで不思議に思ってたんだがな」??怒りが一段落したのか、大江課長はいぶかしげな顔で言った。「これだけ時間をかけている業務分析だけど、社内システム統合にどうやって使うんだ? きちんと説明してもらったら、いまの残業も納得できるかもしれんからな」

 「え?」

 まさかそんなことを尋ねられるとは思ってもみなかった豆成くんは絶句した。分析が必要ということは認識していたが、具体的にそれをどう活用するのか??? 彼の頭の中には、そこがぽっかり抜けていた。

 「おい」。大江課長は詰め寄った。「まさか考えてなかった、とか抜かすなよ」??

 豆成くんの背筋に冷たいものが流れた……。

業務分析は何のために?

 さて、突然ピンチに陥った豆成くんを横目に、今回は分散システム構築時における業務分析について取り上げてみよう。業務分析の成果物として、ここでは概念モデル図や業務フロー図などを想定していただきたい。

 まず、前回も触れた全体プロセスとその中での業務分析の位置付けについて、再度確認しておこう。情報処理推進機構のSEC(ソフトウェア・エンジニアリング・センター)が定めた共通フレーム2007では、大きな単位(業務レベル)で分析した後に要件定義を行い、それに基づいて方式設計を行う流れが想定されている。

ALT 図1 全体のプロセス(第2回の図に方式設計を追加)

 上記の図1で詳しく説明すると、大まかな業務要件定義(共通フレーム2007では大きく「要件定義」の分類)の後に、システム要件定義・方式設計、その後にソフトウェア要件定義・方式設計(共通フレーム2007では大きく「開発」と分類)、という流れとなっている。この枠組みに沿って考えるならば、現在豆成くんがやっている個所は「(業務)要件定義」の部分に相当する。

 これに即して考えれば、「なぜこんな作業をやっているのか?」という大江課長の問いに対しての当然ともいうべき回答の1つは「要件定義を行うため」となる。こんな答えではけむに巻いただけの感じがするかもしれないが、業務分析の成果は後続の作業??すなわち方式設計をはじめとするあらゆる局面で利用されるものであり、そのために業務分析が行われるわけで、まずはこのように答えるのが妥当だろう。

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