業務改善の活動において「手順」は重要だが、こだわらなくてもよいところにこだわりすぎるとかえって迷路に迷い込んでしまう。今回は、「手順」のこだわるべきポイントはどこなのか? 陥りやすいワナはどこにあるのか? 大切なポイントをお教えしよう
第1回、第2回では、原因分析のロジックツリーを使って、「縦(深さ)」と「横(広がり)」という2つのベクトルで問題の原因(真因)を突き止め、それを除去することによって、「問題の再発を根本から防止できる」と解説しました。今回は、そうした原因分析を基に、実際に業務改善を進める際のポイントを紹介しましょう。
皆さんも「これから仕事に取り掛かるぞ!」というときには、まず段取りを考えることでしょう。「段取り八分」と言うように、物事に取り掛かる際には段取りが何より重要であることは広く認識されています。
では、業務改善の段取りとは何でしょうか? 「改善に取り組む主要メンバーを選抜する」「必要な予算を確保する」など、いろいろと思い浮かんだと思いますが、やるべきことを抜けや漏れがないよう、こと細かに書き出すことだけが段取りではありません。「やるべきこと」を3〜10個くらいのグループにまとめ、そのグループを手順に沿って並べることが段取りの基本なのです。「やるべきこと」が20個も30個も並んでいたら頭を整理できません。
そこで、まずはやるべきことを抽象化して、「(目的に対する)機能が同じもの」を1つのグループに束ね、最終的には3〜10個くらいのグループにまとめ上げます。さらに、そのグループごとに「どのような順番で実施していくのか」という「手順」を決めるわけです。
イチから自分で段取りを考えても良いのですが、実は業務改善の段取りには、すでにある程度決まった「型」があります。一般に、業務改善の段取りの「型」は次のような手順になります。
一方、筆者が業務改善プロジェクトを支援する際のコンサルティングプログラムでは、以下のように、一般的な手順をさらに小分けにした9つの手順を踏んでいます。
ただ、「どちらの手順分けが正解か?」とか「どのような手順分けが正解か?」という議論はあまり意味がありません。実際に、問題解決や業務改善に関する複数の書籍を見ると、それぞれの書籍で独自の手順分けを提示していますが、どれも似たり寄ったりです。ですから、皆さんの会社で独自の手順があるのなら、それが一般的な型と大きく異なっていない限り、自社の手順分けを優先してください。
それより大切なのは、業務改善にかかわる人たちが、各手順について共通の認識を持つことです。つまり、業務改善を進めていくうえでは「自分たちがいまどこの手順にあるのか」そして「その手順では何をすべきか」を同じように理解していることが大切なのです。
しかし、こうした手順に対する共通認識を持つことが、実は意外に難しいのです。そこで今回は、「自分たちがいまどこの手順にあるのか」「その手順では何をすべきか」を関係者全員が同じように理解している状態を作り出すために、特に注意すべき2点について解説しましょう。
注意すべき2点とは、1つは「問題の特定」と「原因の把握」の切り分け、もう1つは「目標の設定」の扱い方です。まず始めに「問題の特定」と「原因の把握」の切り分けについて解説しましょう。
上記の「一般的な手順」「筆者のコンサルティングプログラム」のどちらとも同じですが、通常、どのような段取りでも「問題の特定」「原因の把握」という手順は切り離して考えているものです。例えば、「一般的な手順」であれば、「1.問題の特定と改善目的の確認」「2.原因の把握」、 筆者の手順であれば「1.問題提起」「4.原因分析」と明確に分割しています。 しかし、実際のプロジェクトにおける会話では、この2つがごっちゃになって議論されているケースがとても多いのです。
具体例で考えてみましょう。ある病院の業務改善プロジェクトの会議で、「業務上、生じている問題」を特定しようと議論しているときに、 「手術票が医事課に届くのが遅れることが頻繁にあり、そのために退院時の精算手続きが遅れ、患者や家族から不満が出る」 という発言があったとしましょう。皆さんは、この発言を聞いてどのように感じましたか?「ふむふむ、なるほど……」と納得していてはいけません。
以下の図のように、実はこの1つの発言の中には3つの問題が封じ込まれているのです。そして、3つの問題の間には、それらを結ぶ接続詞A、接続詞Bが内在し、問題間の因果関係を示しています。
当たり前のことですが、「問題の特定」とは問題自体を正しく認識すること、「原因の把握」とは問題の因果関係をときほぐし、問題の発生原因を把握することです。
しかし、この例ではどうでしょう。本来「問題を特定」しようとしていたはずですが、1つの発言に3つの問題が含まれており、問題を1つ1つ、きちんと特定することの妨げになっています。さらに、それぞれの問題の間に因果関係が絡んでいることで、「問題の特定」と「原因の把握」という「2つの手順」が混同されてしまっています。
これを別の角度から説明しましょう。 「手術票が医事課に届くのが遅れることが頻繁にあり、退院時の精算手続きが遅れ、患者や家族からの不満が出る」という発言に対して、「問題を特定」するうえで想定される質問としては、次のようなものが挙げられます。
着目してほしいのは、これらが「問題の特定」に対する質問であるという点です。一方、「問題間の因果関係」に対する質問、つまり「原因の把握」に関する質問群も同時に想定されます。
繰り返しますが、問題1〜3に対する質問群は「問題の特定」にかかわるもの、接続詞A、Bに対する質問は「原因の把握」にかかわるものです。つまり、当初の発言が「問題の特定」と「原因の把握」という2つの手順をまたがってしまったものであるために、質問もまた、2つの手順にまたがる形で出てくるわけです。
このような状態で議論を続けても、議論は迷路に入り込んでしまい、出席者全員が論点を見失ったまま時間が過ぎてしまうでしょう。
このように、「問題の特定」と「原因の把握」の手順は、非常に混同されやすい領域なのです。自分たちが「問題の特定」をしているのか、それとも「原因の把握」をしているのか――すなわち「自分たちが、いま手順のどこにいるのか」をしっかりと意識し、その「手順」に限定した議論に集中することが重要です。
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