業務プロセスを見直せば、残業時間はもっと減らせるプロが教える業務改善のツボ(4)(1/2 ページ)

コスト削減、効率化のトレンドを受けて、いま多くの企業が取り組んでいる「残業削減」。だが、一見シンプルに思えるこのテーマも、きちんとした考え方に基づき、理詰めで取り組んでいかなければ実現は難しい。「残業削減」にもそれなりの“ツボ”があるのだ。

» 2011年02月10日 12時00分 公開
[松浦剛志,プロセス・ラボ]

問題解決に乗り出す際は、まず「So-What?」で目的を明確に

 業務改善のコンサルタントという仕事柄、私は残業削減の手法についてよく相談を受けます。「業務改善は、残業削減の解決策として有効な手だ」と認識されてのことです。ただ、「残業削減をしたい」という要望があったとき、私は「残業時間が減らないと何が困るのですか?」と聞くようにしています。

 問題解決に取り組む際には「So-What?(だからどうなの?)」と問う思考回路が大切です。ですから、まず最初に、まさにその問いを発するわけです。「残業削減」という一見ブレようがない話でも、実は“その言葉を発する人の立場や考え方”によって、その本質が異なっている可能性があります。そこで、まずその点を明確化するために「So-What?」と質問するのです。

 すると、「残業時間が減らないと何が困るのですか?」に対して、以下のように結構多彩な回答が返って来ます。

  1. 残業代が利益を圧迫する
  2. 法令違反を犯してしまう
  3. 従業員の退職の原因になる
  4. 従業員がプライベートを充実できない
  5. 従業員の体調管理が難しくなる
  6. 業務改善の効果確認ができない

 経営者、法務部、人事部、労働組合、上司などの「立場」や「視点」、場合によっては個人による「価値感の違い」などから、その回答はさまざまです。同じ「残業削減」というテーマでも、その問題をどのような視点からとらえているかによって、当然、解決策も変わってきます。

 以下は「視点」→「解決策」の組み合わせ例です。

  • 「残業代が利益を圧迫する」なら→「労働単価を下げる」
  • 「法令違反を犯してしまう」なら→「36協定を結び、その範囲内にする」
  • 「従業員の退職の原因になる」なら→「残業の苦痛を上回る報酬を提供する」

 上記の組み合わせなら、それぞれの「視点」に対して有効な「解決策」の1つになるかもしれません。しかし一方で、以下のような「視点」と「解決策」の組み合わせでは、解決策としてふさしくない可能性が高くなります。

  • 「法令違反を犯す」に対して→「労働単価を下げる」
  • 「従業員の退職の原因になる」に対して→「36協定を結びその範囲内にする」
  • 「残業代が利益を圧迫する」に対して→「残業の苦痛を上回る報酬を提供する」

 従って、皆さんの会社で「残業削減をしよう!」となったら、まずは問題の本質を「So-What?」によって再考し、「何のために残業を削減するのか」という目的を明らかにしてほしいのです。そうしないと、上記の例のように、問題に対してちぐはぐな対策を採ってしまうことにもなりかねません。

 なお、私のところに舞い込んで来る相談事例としては、圧倒的に「残業代が利益を圧迫する」から、という理由が多いです(ただ、「他の問題も同時に解消したい」という“一挙両得”狙いのケースもあります。その場合には解消する問題の優先順位とウエイト付けをしてから話を進めないと厄介なことになります。これはもちろん、皆さんが自分の会社で問題解決に取り組む際も同じです)。

 そこで今回は、「残業代が利益を圧迫する」という視点から見た「残業削減」を実現するためのプロセスを、一緒に考えてみましょう。

現実的な観点から、残業削減の方法を考えてみよう

 残業代は「割り増し率」の問題から、通常の人件費よりも負担は重くなります。また、その人件費を社外のアウトソースに振り向けたところで、費用自体が削減されなければ、そもそも問題の本質を捉えた解決策とは言えません。

 そこで、解決策は「費用の圧縮」と考える必要があります(外資系企業において、「従業員の総人件費が本国によって規定されているので、アウトソースになって費用の総額が上がったとしても、『残業代』が減れば良い」という話を聞かされることもありますが、このようなケースはごくまれです)。

 人件費を考える際の基本的な枠組みは「時間×単価」です。従って、費用の圧縮のためには、業務に携わる「時間」を減らすか「単価」を減らすか、あるいは両方を減らすか、となります。

 これに対するアプローチは大きく3つあります。

  1. 苦渋の選択
  2. 心に呼び掛ける
  3. 仕事のプロセスを見直す(担当業務の再配分も含め)

 1はそのものズバリ、「単価」を減らすことです。2は『毎日がNo残業Day!』というポスターを掲示したり、残業時間ランキングを発表したり、といったアプローチで、「時間」削減への打ち手として活用します。3は、無駄な仕事を探し出してやめたりするアプローチで「時間」「単価」の双方に効きます。

 1はともかくとして、世間で意外に多いのは2のみのアプローチで残業削減を進めている会社です。私はもともと体育会系の人間なので、「気合入れて行こうぜ!」と試合前、試合中を問わず発するのは大好きですが(学生時代は常にそんな感じでした)、体育会な私であっても、「それが試合に勝った主要因だ」と心から思ったことはありません。

 『毎日がNo残業Day!』というポスターを掲示したり、残業時間ランキングを発表したところで、それが残業削減の決め手になるほど問題は簡単ではありません。

「2.心に呼び掛ける」は、「3.仕事のプロセスを見直す」と同時に使い合わせて行くことで初めて意味をなすのです()。


: 私、個人としては、業務改善を取り扱うコンサルティングファームプロセス・ラボのほかに、人事の問題を取り扱うコンサルティングファーム「ウィルミッツ」も主宰しているので、「2.心に呼び掛ける」についてもいろいろとお伝えしたいことはあるのですが、本連載はプロセス・ラボの主宰者として場をいただいているので、ここではあえて業務改善に話を集中させます。


 では、「3.仕事のプロセスを見直す」アプローチで、「時間」「単価」の双方を減らすためにはどうすれば良いのでしょうか。

 このためには、A.時間を減らす、もしくはB.単価を減らすという2つのアプローチがあり、具体的には以下のような取り組みが有効となります。

 まずA.時間を減らすにおいては、

  1. やらなくても良い仕事を探して、その仕事の時間をゼロにする
  2. やるべき仕事をもっと効率的に短時間で行う

ことになります。

 B.単価を減らすにおいては、

  1. 仕事をもっと単価の安い人に任せる
  2. 割り増し時間が発生しないように繁閑差をなくす

ことになります。

 では、これらを実現するにはどうすれば良いのでしょうか? 次のページでA、Bそれぞれについて考えてみましょう。

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