問題を切り分けて、夏の停電を乗り越えようプロが教える業務改善のツボ(5)(1/2 ページ)

万一の際の事業継続は、各社にとっての重要事項であるが、分業とグローバル化が進む現在においては、国境を越えて、社会全体にとっての重要事項でもある。今回は、夏に予想されている関東エリアの大規模な停電に向けて、各社はどのような対応を採るべきなのか、対策立案のための考え方を紹介する。

» 2011年04月21日 12時00分 公開
[松浦剛志,プロセス・ラボ]

 このたびの東日本大震災は、甚大な被害を引き起こす非常に深刻なものとなりました。

犠牲になった多くの方々のご冥福を心からお祈り申し上げます。また、多大な困難と直接向き合う被災地の方々の一日も早い復興を心からお祈り申し上げます。

 現在、首都圏を中心とする関東エリアでの震災の影響は若干ながらも収束の様子を見せてはいますが、まだ決して安心できる状況とは言えません。そこで今回は「危機管理」の方法と併せて、この夏に想定される電力危機に対する対策の考え方をご紹介します。ぜひ皆さんの会社における事業継続計画の参考にしていただければと思います。

まずは“対策を立案すべき問題”を明確化しよう

 一般に、危機管理を考える際には、自社が影響を受ける個々の危機要素について、発生確率×発生した際の影響度合いを考え、「どんな危機を管理対象とし、対策を講じるべきか」の優先順位を判断します。私たちは“この世で起こり得る全ての危機”に対して十分に備えることはできなくても、ある程度絞り込んだ上でなら対策を用意することができるのです。

 いま、関東エリアでビジネスを行う人たちにとっては、この夏に起こると考えられる「電力不足が引き起こす停電」は、最優先に管理すべき危機と考えられるのではないでしょうか。

 ただし、「停電」といっても「計画停電」と「計画されない停電(仮に緊急停電と呼びましょう」の2つは切り分けて考えるべきです。物事は何でもそうですが、切り分けて考える――つまり、分析的に物事を見ていかないと、具体的な対策が取れないものなのです

 よって、この夏に向けて計画停電と緊急停電の2つを想定するならば、それらの「発生確率×発生した際の影響度合い」から、「いずれも管理すべき危機」と考えるのか、「どちらか一方に対する対策だけで良し」とするのかを、まずは判断しておくべきです。

 では、さっそく考えてみましょう。まず、計画停電と緊急停電の2つのうち、「東京電力が計画停電による需要コントロールに失敗すると、緊急停電が引き起こされる」ことを考えると、危機の発生確率から言えば、「計画停電の方がはるかに高い確率で起こり得る」と言えます。

 一方、注意を必要とするのが「発生した際の影響度合い」です。これは事業形態によって大きく異なってきます。例えば、バッテリーを搭載したノートブックPCと、そうではないデスクトップPCでは、計画停電と緊急停電における影響度合いが変わってきますし、「社員が主に利用するのはエレベーターか階段か」「社員は頻繁に移動するのか」などによっても、業務への影響が変わってくることが容易に想像できるでしょう。

 このように、「停電」という危機を「計画停電」「緊急停電」に切り分け、さらに自社の事業形態を検討した上で、自社が対策を考えておくべきは「計画停電に対してなのか、緊急停電に対してなのか、ないしは両方に対してなのか」を、まずは決めるべきです。

問題を切り分け、連鎖を洗い出し、現実的な対策を考える

 多くの企業では、「危機の発生確率」と「発生した際の影響度合い」の2つの因子のうち、危機の発生確率が高いことから「計画停電に対する備えだけはしておこう」という結論になるのではないでしょうか(注1)。


注1: ただ、仮に「緊急停電時に対する対策は講じない」と決めたとしても、社員の身の安全確保についてだけは、計画停電時、緊急停電時の両方について対策を練っておくことを推奨します。


 では、その対策はどのように考えるのでしょうか。ここで再び必要になるのが“問題の切り分け”です。

 計画停電が起こると、以下の2つの「危機」が考えられます。

  1. 就業者の自宅(または通勤経路)が計画停電のエリアになる
  2. 事業所が計画停電のエリアになる

 以下、それぞれの「発生確率」と「発生した際の影響度合い」を考えて行きましょう。

 まず、1の「発生確率」ですが、残念なことに、現状得られる情報から判断する限り、これはかなり高い確率と考えて良いでしょう。

 では、1が「発生した際の影響度合い」はどうでしょうか? 一般的に考えて、通勤不可能、遅刻、早退が多発することは想定すべきでしょう。しかし、ここで思考を止めるのではなく、「通勤不可能だと、どんな問題が起こるのか?」→「その問題が引き起こす、さらなる問題は何か?」といった具合に考えを膨らませていくことが必要になります。問題を「膨らませて、整理する」ことが“影響度合い”を考えることなのです。

 そのように考えていった結果、「通勤不可能な者が発生する」→「緊急の業務がストップする」など、「発生した際の影響度合いは甚大だ」となれば、1を「管理すべき(つまり対策を講じるべき)危機」と判断することになります。

 では、どんな対策を講じるべきなのでしょうか?

先ほど「発生した際の影響度合い」において、考えを膨らませて「通勤不可能な者が発生する」→「緊急の業務がストップする」といった“問題の連鎖”を洗い出しました。そうして明確化した問題について、以下のように考え、対策を導き出します。

A.問題の連鎖をどのように断ち切るか?

B.発生する問題をどのように和らげるか?

C.発生した問題をどのように後片付けするか?

 理想は「A:問題の連鎖を断ち切る」ことです。「通勤不可能な者が発生する」→「緊急の業務がストップする」という問題の連鎖が考えられるならば、「通勤不可能な者が発生しても、緊急の業務がストップしない対策」を打つことが「連鎖を断ち切る」ことになります。

 しかし、そうした対策がこの夏までに間に合わない、あるいは対策は行えるが、リスクに見合った投資額を超えてしまう、といった場合には、「緊急の業務がストップする」ことの影響を「B:どのように和らげるか?」→「C:どのように後片付けするか?」と考え、より現実的で実施可能な打ち手へとシフトして行きます。

 もちろん、前述の問題の連鎖の形は各社各様ですから、1に対して取るべき対策も各社各様となります。以上の流れで自社が手を打つべき危機を明らかにし、そこから生じる問題の連鎖を洗い出し、有効な対策を考えてみて下さい。

 ただ、業種業態に関係なく、あらゆる企業・組織に有効となる対策もあります。それはワークシェアリングの発想だろうと筆者は考えます。一般的に、「欠員」が引き起こす問題は、ワークシェアリングができる体制を構築しておけば、回避または軽減することができるのです(注2)。

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