試験に合格したものの、上級にふさわしくない坂口目指せ!シスアドの達人−第2部 飛躍編(9)(1/4 ページ)

» 2007年08月03日 12時00分 公開
[森下裕史(シスアド達人倶楽部),@IT]

第8回までのあらすじ

前回、プロジェクトに慎重な坂口と、できるところから始めようとする八島が対立。八島案で進むことに。初級シスアド試験は、深田と谷田は合格したものの、伊東は落ちてしまう。そして、伊東を励ますために一緒に食事をしていた谷田は、酔った天海を介抱する坂口を偶然見つけてしまった。



絡まり続ける人間関係

坂口 「今日はいい天気だ。頑張るぞ!」

 坂口は昨日の天海との会話で少し自信を取り戻した。まずは自分のやれることをやってみよう。まだやれることはあるはずだ。そして、資料整理やヒアリングなどの段取りを考えながら、ふと谷田に電話をすることを思い出した。

 昨日は天海部長を送り届けて自分のマンションに帰宅すると、かなり遅い時間になっていたので、メールすら送らずに寝てしまったのだ。

坂口 「もしもし、坂口です」

谷田 「はい、谷田です」

 いつもと違う、よそよそしさに疑問を感じながらも、坂口は昨日の件をわびた。

坂口 「昨日はすまなかったね。仕事が思ったより長引いたんだ」

谷田 「別にいいんですよ。大事な仕事ですものね」

谷田は「(仕事じゃないでしょ、どこかのいい人と会ってたくせに!)」と思いながらも本当のことを知るのが怖くて、昨日見たことはいい出せずにいた。

坂口 「そうなんだ。ちょっと行き詰まっているので困っていたんだけど、少し希望が見えてね」

谷田 「それはそれは良かったですね! すいません、会議の資料を急ぎで作成しなくてはいけないので」

坂口 「本当にすまなかった。この穴埋めはきっとするよ。昨日は急な予定が入って……」

谷田 「守れない約束はしない方がましですよ。失礼します」

 そういうと、谷田は坂口の弁解も聞かずに電話を切ってしまった。坂口はけげんに思いながらも仕事が忙しいのだからしょうがないと相変わらず勝手に思い込んで、仕事に取り掛かった。

伊東 「おっはっよう?ございま??す!」

 伊東がまるでスキップしているかのように部屋に入ってきた。顔は満面笑みである。この世の幸せをすべて集めたかのような喜びようだ。

坂口 「おっ、その様子だと試験結果は良かったんだな!」

伊東 「いえ、駄目でした。谷田さんと深田さんは合格しました」

坂口 「なにぃ、落ちたぁ? 何で1人だけ落ちたのにそんなに満面笑みなんだ?」

伊東 「試験に落ちたなんて、さ・さ・い・な・ことなんですよ。僕には幸せの天使が舞い降りたんです」

坂口 「なんだそりゃ。一体何があったんだ?」

伊東 「それは内証です。プライベートなことですから!」

坂口 「そ、そうか。それより、不足している情報を各部署にヒアリングに行くぞ!」

伊東 「了解です。坂口隊長!」

 坂口に最敬礼をする伊東。何が起こったのか知らないが、試験結果が悪かったことを慰める必要はなさそうだなと坂口は苦笑すると、聞き取りの要点をまとめた資料をPDAに入れて部屋を出た。

 その後も伊東は各部署でのヒアリング中にケーブルに足を引っ掛けたり出してもらったお茶をこぼしたりと散々だったが、いつものように落ち込むことなく前向きに仕事をこなしていった。

 一方、天海は夕べの酒が残っているが、久しぶりの楽しい酒に気分はすっきりしていた。もともとは西田副社長にプロジェクトの様子見がてら、坂口にアドバイスしてやれといわれて渋々始めたことだが、昨日の食事ですっかり坂口びいきになってしまった。そして、進ちょく状況を報告するために西田副社長のところに向かった。

天海 「失礼します」

西田 「おっ、今日は顔色が良いな。昨日の夜は何か良いことでもあったのか?」

天海 「あまり失礼ないい方はセクハラですよ。副社長」

西田 「すまん、すまん。がははは! でも、久しぶりだぞ。そんなすっきりした顔は」

 さすが、大したコネもなく副社長まで上り詰めた人間である。顔色一つでこちらの様子が分かるのか、と天海は感心しながらも、プロジェクトの進ちょく状況を西田に説明し始めた。

天海 「現状では、期限内の完全リリースは難しいようです。しかし、部分的には運用可能なシステムが提供できるとのことなので、プレスリリースなどには何とか載せられる格好にはなると思います。坂口主任も頑張ってはいますが、まとめ切れていないようです」

西田 「そうか。まだまだみんなの潜在能力が引き出せていないようだな。それもまた勉強か」

天海 「坂口主任には、今回の件はちょっと荷が重過ぎないでしょうか? 名間瀬室長もサポートしていないようですし。このままだとつぶれてしまいませんか?」

西田 「ふ?ん、やけに坂口の肩を持つな。なるほど、そういうことか。ふふっ」

 天海は「もしかして、昨日のキスまで気付かれているの?」と、一瞬顔を赤らめながらもすぐに冷静な態度に戻り、

天海 「彼は将来性の高い社員です。ここでつぶすのが惜しいだけです!」

西田 「確かにな。まぁ、すでに手は打ってあるから安心しろ。それより天海くんも坂口は見込みがあると思ったんだな」

天海 「はい、まだまだ粗削りですが、きっとわがサンドラフトを背負って立つ人材だと思います。ぜひ、このプロジェクトが終了したら私の部署に配属してください。一から鍛え直してみせます」

西田 「分かった。分かった。そこまで期待しているのならしっかりサポート頼むぞ!」

 西田は天海の勢いに苦笑しながらも、また1人坂口の強力な助っ人ができたことに内心喜んでいた。坂口には周りの人間を良い方向に活性化する力がある。

 本人は気付いていないが坂口と正面向いて話した人間は何かしらプラスの方向に進んでいる。西田はまるで自分の息子の出来が良いのを誇らしげに思うかのようにうれしそうだった。

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