マニュアル作りに燃える坂口、でも本当に必要なの?目指せ!シスアドの達人−番外編(2)(1/2 ページ)

前回、坂口は第一部第4回の時期を思い出していた。このころ、電子会議室を有効に使ってほしかった坂口は豊若に相談。マニュアル作りの達人である松嶋を紹介された。松嶋はマニュアル作りはシステム作りと同様に「要件定義」「設計」「開発」「テスト」の順になっていると教えるのだった。

» 2006年09月22日 12時00分 公開
[石黒由紀(シスアド達人倶楽部),@IT]

そもそも、マニュアルは本当に必要なの?

 松嶋にマニュアル作りのさまざまなポイントを教わった坂口は、気の早い性分を出し、すぐにでもコツを試してみたくなっている。しかし、問題はそんなに簡単ではないようだ。

坂口 「松嶋さんの話を聞いていたら、試してみたくなりました。戻ったら、早速市販ソフトのマニュアルを分析してみます」

松嶋 「では頑張ってね!! といいたいところなんだけど、もう1つ注意してほしいことがあるの。グループウェア製品って、使う人たちの幅が広いでしょう? 全社に展開している場合は特に、パソコンを使い慣れている人から初心者までみんなが使うことになるから。こういう製品は、マニュアルの“まえがき”を見ても、対象者を絞っていない可能性が高いのよ。逆に、業務での使い方や読み手を限定していないから、内容には基本的な操作説明のみが書かれていたりするの」

坂口 「そうかぁ。基本的な操作説明が並んでいることで、現実の業務での使い方がイメージしにくかったから、分かりにくいと感じたのかもしれませんね」

 それならば、現実の業務での使い方が分かるように、具体的な形に書き換えていけば、分かりやすいマニュアルが作れるかもしれない。やっと自分のやるべきことが見えてきたような気がして、坂口は気分よく目の前の料理を平らげ始めた。

 それをほほえましく見ていた松嶋だが、ふと表情を改めて、坂口に問い掛けた。

松嶋 「ところで、坂口さんは、マニュアルって必要だと思う?」

坂口 「えっ!?」

 至近距離で顔をのぞき込まれて、坂口は焦って料理を飲み込んだ。この松嶋という女性は、自分が相当な美人だという自覚がないんじゃないだろうか、と脱線する頭を元に戻そうとするが、たったいま、マニュアルの作り方を教えてもらったばかりのところに必要かと問われても、戸惑うばかりだ。

松嶋 「今回の目的は、新営業支援システムのプロジェクトメンバーに、『電子会議室の操作を覚えてもらうこと』じゃないでしょう? 『意見交換の活性化』とか『情報共有』のために、あくまでツールとして、電子会議室を使うのよね」

坂口 「はい。そのとおりです」

松嶋 「『誰に』というターゲットを明確にして、『どうなってほしいか』というゴールも明確にした時点で、本当は最初に考えてほしいの。それに向けて、どんな手段があるかってことを。マニュアル以外の選択肢って、なかったのかしら?」

 坂口は、ようやく松嶋の質問の意図が分かった気がした。

 シスアドには、IT活用を促す手段がいくつもある。例えば、教育を行ったり、問い合わせ用の窓口を設けたりするのも、よくあるケースだ。ある程度IT活用が進んだ会社で、社内にSNSナレッジマネジメントのシステムがあれば、これを活用して情報共有するのもいいかもしれない。マニュアルは、その中の1つの手段でしかない。「本当にマニュアルを作った方がいいのか?」、まずはそこから考えてみるべきだったのかもしれない。

 あるいは、手段を1つだけ選ぶのではなく、それぞれの特性を生かして、一番効果のある組み合わせを考えてもいいだろう。

松嶋 「いくら『分かりやすいマニュアルがありますよ』といっても、読んでくれない人は結構いるのよね。だから、作るのならほかの手段も考慮して、位置付けを考えるといいと思うのよ。どうしたら読む気になってもらえるか、そこの動機付けをどうするかという問題もあるし」

坂口 「なるほど、動機付けか……。ちょっと考えてみます。宿題にさせてもらってもいいですか?」

松嶋 「はいはい、宿題ね。どんな答えが出てくるか、楽しみに待ってるわ。頑張ってね!」

坂口 「はい! 今日は本当にありがとうございました!」

 昼休みを終えて自席へ戻った坂口は、早速、電子会議室のマニュアルを調べてみようと、気分よく作業を始めた。

相変わらずにぶい坂口……

 そこへやって来たのは、谷田である。谷田は、社内の多くの男性たちからアプローチを受けている人気者だが、彼女自身は坂口のことが気になり始めたところだ。肝心の坂口は、あまり谷田のことを意識していないようなのだが……。

実は、谷田は先ほど、坂口たちと同じビルの上階テラス席で同僚たちとランチを取っていたのだ。知らない女性と坂口が一緒に食事をしているところを目撃して、心中穏やかではない気分だった。食事中も坂口が真剣な顔で話し込んでいたり、楽しそうに笑い合ったりしているのが目に入り、ついつい気になって坂口が席に戻るなり、様子を見にきてしまったのだった。

谷田 「坂口さんたら、すごく楽しそうね! 何かあったの?」

坂口 「うん、実はいま、ある人に悩みを聞いてもらってたんだよ。いままで悩んでいたのがうそみたいにすっきりした気分なんだ」

 晴れ晴れとした顔で話す坂口は、自分の言葉が谷田の誤解を招いていることに気付いていない。

谷田 (坂口さんの悩みってなんだろう。仕事? それともプライベートなこと? そんな親密な話ができる女性がいたなんて……)

 谷田の表情が曇ったことにも気付かず、坂口は、なおも機嫌よく話を続けた。

坂口 「相談に乗ってくれた人が、すごく優しくて丁寧な人でね。年上の女性って、やっぱり話しやすいね。包容力があるっていうか、なんでも受け止めてくれそうっていうか。ついついいろいろ話しちゃったよ。そうすると、また、丁寧に相談に乗ってくれるんだ」

谷田 「そうなの……、坂口さんに悩みがあったなんて知らなかったわ。私も何か力になれるといいんだけど」

坂口 「ありがとう。そのうち何かあったらお願いするよ」

 そういうと、坂口は再びパソコンに向かって作業を始めてしまった。ただでさえ、新営業支援システムのメンバーに選ばれなかったことで疎外感を感じていた谷田は、寂しい気持ちで自席に戻るのだった。

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