だから日本企業はアップル、グーグルに追い付けない情報マネージャとSEのための「今週の1冊」(5)

iPhone、Androidをはじめ、アップル、グーグルの動きからは常に目が離せない。しかし、その具体的な動向だけではなく、彼らの行動を生み出している戦略や企業文化にも目を向けてみよう。自社の発展に生かせる、意外なヒントが見つかるかもしれない。

» 2010年08月03日 12時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

アップル vs. グーグル

ALT ・著=小川浩/林信行
・ソフトバンク クリエイティブ
・2010年7月
・ISBN-10:4797359633
・ISBN-13:978-4797359633
・730円+税
※注文ページ

 パソコンが主役だったIT産業だが、近年、iPhoneやiPadに代表される「ポストPC機器」が急速に浸透しつつある。特にiPhoneは2010年4月、「販売台数が全世界で5000万台を超えた」と発表された。一方、これを急速に追い上げているのが、グーグルの携帯電話向けOS「Android(アンドロイド)」を搭載した“アンドロイド端末”だ。NTTドコモがソニー・エリクソン製の「Xperia」、KDDIがシャープ製の「IS01」を発表するなど、iPhoneの勢いに脅威を感じるキャリア・携帯電話メーカーがAndroidというオープンプラットフォームの「旗の下に一致団結して集まり始めている」のである。

 これにより、新世代スマートフォンという概念の浸透や、アプリケーションマーケットの市場拡大を図るうえで協力関係にあったアップルとグーグルに、いま、“衝突”が起こり始めている。「今後、両社はポストPC機器の分野で最終戦争を始めるのか、それともうまくすみ分けるのか」「そもそも両社は何を考え、どんな未来を目指しているのか」――本書はこうした観点から両社のビジネスを分析。その「対立軸と関係性」からIT業界に与える影響を占っている。

 特に本書が注目するのは、上記のスマートフォンの例でも顕著なように、「1社独占の環境下で厳しく管理・統制しているプラットフォームでビジネスを展開するアップル」と、「オープンソースとWeb上のプラットフォームを使ってサードパーティに門戸を開くグーグル」という基本スタンスの違いだ。こうした違いが、今後、アプリケーション提供ビジネス、Web広告、クラウド、電子書籍といったフィールドにどんな影響を与え得るのか――タイトルこそ「アップル vs. グーグル」としているが、「両社が長所を提供し合い、協力関係を築く可能性」も含めて、マイクロソフトなどほかの主要プレーヤーも視野に入れながら幅広く考察している点が本書の1つの特徴といえよう。

 ただ、筆者らがフォーカスしているのは、2社の違いと具体的な業界動向だけではない。むしろ2社の“共通点”に光を当て、そこに「日本企業が学ぶべきポイントがある」と強く主張しているのである。

 その“学ぶべきポイント”とは、1つは両社がソフトウェアを重視し、それを収益の柱としていることである。例えばハードウェア中心のビジネスの場合、「部品のコストは端末を何台作ろうと、1台1台にかかってしまうが、ソフトウェアの開発費は1回だけ」で済む。また、この2社の場合、「すべてのソフトをグローバル対応にし、設定1つで」各国に対応可能とするなど、非常に効率的なビジネスを行っている。その点、日本のメーカーは、「ハードの考え方で会社を動かす体質が染み付いてしまい、なかなかそこを脱することができずにいる」企業が多い。従って、「ソフトはハードを飾る一要素に過ぎない」という認識から変えるべきなのではないか、と提言している。

 日本企業の製品・サービス開発の在り方にも疑問を投げ掛ける。例えば、アップルはまずシンプルな製品を出して市場の反応を探る、グーグルなら「Google Labs」でアイデアを発表して反響を得るなど、常に市場の反応をうかがいながらプロジェクトを進めている。仮に、1つの製品・サービスが失敗しても、それに将来伸びる可能性があれば、アップルはプロジェクトを残してゆっくりと育て上げ、グーグルでははなからプロジェクトを絞り込むようなことはせず多様性を重視している。また、アップルは“製品の本質”を見直し続けてユーザーに飽きられる前に次の行動を起こし、グーグルはより良いものを提供するために、プロジェクトの社内競合を歓迎している。

 その点、日本企業はどうか? プロジェクトを開始するまでは慎重だが、いったんスタートしてしまうと、市場の状況をあまり省みることなく、プロジェクトに没頭してしまう。1つのプロジェクトが失敗したら、すぐさま撤退する。逆に成功すれば、大きな改革を施そうとせず、販売が低下し始めてから市場の変化に気付く――。

 本書がここから導き出す結論は、「より長期的な視点を持って、ビジネスに当たるべきではないか」といったごく一般的な見解に過ぎない。だが、両社との違いをこうして1つ1つ指摘されると、言い尽くされた感のあるこのひと言も説得力をもって響く。むろん、この両社がすべての面で“お手本”になるというわけではないが、これだけ変化の早い業界をリードし続けている両社である。「技術力」だけでトップを走り続けることが難しい以上、そのビジネスの在り方に、どの業種にも通じる“普遍的なヒント”を探ることは、確かに非常に有効といえるのではないだろうか。

 アップルとグーグルというと、製品・サービス動向という華々しい側面ばかりに目を奪われがちなものだが、そうした華々しさを支える企業文化とは何なのか――「業界動向を知るための資料」としてさっと読むこともできるが、ぜひ筆者らと議論するつもりで両社の動向を深読みし、“業界をリードする秘けつ”を探ってみてはいかがだろうか。


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