“暗い未来”に漫然と向かわないために情報マネージャとSEのための「今週の1冊」(110)

時代は変わり「仕事とはこうあるべし」という固定観念の多くは過去の産物に過ぎない。未来を生き抜くためには働き方の「シフト」が不可欠なのだという。

» 2012年10月30日 12時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

ワーク・シフト

ワーク・シフト

著=リンダ・グラットン
発行=プレジデント社
2012年7月
ISBN-10:4833420163
ISBN-13:978-4833420167
2000円+税
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 2025年に、私たちはどのような仕事観を持っているのか。どのような仕事がしたいと思っているのか。どのような希望を抱くのか――。

 こうした問いに対する答えを示唆するのが本書である。ロンドン・ビジネススクールの教授である著者は、組織行動論を専門とし、「企業の中の人間」にかかわるさまざまなテーマを研究してきた。2011年には米タイムズ紙において、世界のビジネス思想家上位15人の一人に選ばれた。

 現在の世界は、18世紀後半から19世紀前半にかけて始まった産業革命以来の大きな変化が訪れている。そうした中、これまで長年にわたり培われてきた働き方や考え方は通用しなくなり、仕事とはこうあるべし、仕事はこのように行うべしという固定観念の多くは過去のものになる。その結果、このままだと漫然と未来を迎えることになると、著者は警鐘を鳴らす。

 これから起きようとする変化を突き動かすのは、「テクノロジーの進化」「グローバル化の進展」「人口構成の変化と長寿化」「社会の変化」「エネルギー・環境問題の深刻化」という5つが要因となっている。

 具体的に見てみよう。例えば、テクノロジーに関しては、テクノロジーが飛躍的に発展する、世界50億人がインターネットで結ばれる、地球上の至るところで「クラウド」を利用できるようになる、生産性が向上し続ける、「ソーシャルな」参加が活発になる、知識のデジタル化が進む、メガ企業とミニ起業家が台頭する、バーチャル空間で働き、「アバター」を利用することが当たり前になる、「人工知能アシスタント」が普及する、テクノロジーが人間の労働者に取って代わる、という事象が大きな影響をもたらすとする。

 グローバル化に関しては、24時間・週7日休まないグローバルな世界が出現、新興国の台頭、中国とのインドの目覚ましい経済成長、倹約型イノベーションの道が開ける、新たな人材輩出大国が登場しつつある、世界中で都市化が進行、バブルの形成と崩壊が繰り返される、世界のさまざまな地域に貧困層が出現、といった具合である。

 こうした社会が形成されると、本書で示されるように、時間が細切れで、いつも時間に追われ続ける未来だったり、人とのつながりが希薄な未来が現実的に到来する。しかもこのような変化はじわじわと進行するため、鍋の中のゆでガエルさながらに、世界の状況がすっかり変わるまで気付かないものだという。

 そうした暗い現実に陥らないためにも、私たちはこのような潮流を見極め、未来に向けて既存の価値観を改めなくてはならないという。そこで著者は、働き方を「シフト」することが重要だと説く。

 本書では大きく3つのシフトを挙げる。1つ目は、「ゼネラリストから連続スペシャリスト」へのシフトだ。かつては広く浅い知識や技能を有するゼネラリストが企業でもてはやされた。しかしながら、終身雇用の崩壊によってゼネラリストがキャリアの途中で労働市場に放り出されるケースが増えている。専門性の低いゼネラリスト的なマネジメント技能は、特定の企業以外では通用しないケースが多く、専門性の低い技能は、WikipediaやGoogle Analyticsのようなオンラインサービスに急速に取って代わられつつある。

 そうした中で、今必要とされているのは、昔の職人のように自分の専門分野の技能と知識を深める一方で、ほかの人たちの高度な専門技能と知識を生かすべく人的ネットワークを構築する人材であるという。

 2つ目は、「孤独な競争から、協力して起こすイノベーション」へのシフトである。第一のシフトにも通じる点であるが、未来では、専門知識と技能を磨いて他者との差別化を図るものの、孤独に競争するのではなく、他者とつながり合ってイノベーションを成し遂げることを目指すことが必要だという。未来の世界は、50億人がインターネットを通じて結び付き、主体的にオンライン上のコミュニティーが形成される。これらのコミュニティーは「ビッグアイデア・クラウド(大きなアイデアの源となる群衆)」の土台となって、可能性が無限に広がるのである。

 3つ目は、「大量消費から情熱を傾けられる経験」へのシフトである。これまで支配的だった仕事に関する価値観は、お金を稼ぐために働くという考え方だった。もちろん、お金があれば幸せが増すという意見があるものの、その欲求は得てして際限なく、著者の言葉を借りると「“幸福感の踏み車”の上を走り続け、いくら走っても前に進めない状態に陥りやすい」のだという。著者が提唱するのは、仕事は大量消費のための金を稼ぐ手段ではなく、充実した経験をする機会に変容させるべきだという。

 このように、働き方、ひいては生き方そのものをシフトすることは、言うは易く行うは難し。決してたやすいものではない。著者も「シフトを行うこととは、覚悟を決めて選択すること」だと述べている。しかしながら、良くも悪くも企業がキャリアの道すじを決めてくれた時代が終焉を迎えつつある中、自分自身の道を主体的に選択することこそが、明るい未来に向けて今まさに求められているのではないだろうか。

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