今こそ「メディア」を考える情報マネージャとSEのための「今週の1冊」(113)

メディアについて知り、うまく活用することが、あらゆるビジネスを推進していく上で重要な基礎リテラシーになるという。

» 2012年11月20日 12時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

MEDIA MAKERS―社会が動く「影響力」の正体

MEDIA MAKERS―社会が動く「影響力」の正体

著=田端信太郎
発行=宣伝会議
2012年11月
ISBN-10:4883352706
ISBN-13:978-4883352708
1600円+税
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 インターネットの普及が社会やビジネスに与えたインパクトは計り知れない。今では世界中の人々とリアルタイムでコミュニケーションを取ることが可能であるし、ECを利用すれば物理的な店舗に訪れなくても欲しいものを手に入れられるようになった。そのほかにもさまざまな面で変化が起きていることは枚挙にいとまがない。

 メディアの世界にも大きな変革をもたらした。ニュースサイトなどWebメディアの登場によって、情報伝達のスピードが飛躍的に向上しコンテンツは多様に、さらには市井に流通する情報量そのものが爆発的に増大した。受け手にとって良くも悪くも情報過多の時代となった。

 本書はこれからのメディアのあり方について書かれた1冊だ。著者は、リクルートが刊行するフリーマガジン「R25」の立ち上げにかかわったのを皮切りに、「livedoorニュース」や「livedoorブログ」、オピニオンリーダーのブログ記事を集約した「BLOGOS」、さらには「VOGUE」「GQ JAPAN」「WIRED」のWebサイトやデジタルマガジンの運営に携わった経験を持つ。

 著者によると、メディアとは、そこに情報の送り手と受け手の二者が存在し、その間を仲介し、両者間においてコミュニケーションを成立させることを目的とするものだと定義する。現在、さまざまな形態のメディアが世の中にあふれているが、そのどれもが定義に当てはまるという。

 一方で、数多くのメディアがある中で、きちんと読まれ、読み手の心を動かし、世の中に対する影響力を継続的に発揮できているものが、果たしてどれくらいあるのだろうかと、著者は疑問を投げ掛ける。実感としてかなり少ないというのが現状ではないかという。例えば、総務省がメディア上を行き交う情報流通量の時系列での推移について調べた情報流通インデックス調査(2009年)によると、インターネット上を流れる情報流通量は、2001年から2009年までの8年間で71倍に激増した。しかし、実際にユーザーに受け入れられ、受容され、消費される情報量は、8年間でたった2.5倍程度にしか拡大していない。今や情報を発信すること自体はまったく価値がなく、読み手に届くメディアを作り、運営を継続できるかどうかこそが生命線なのだという。

 では、しかるべきメディアが成立するために必要なものとは何か。「発信者」「受信者」「コンテンツ」の3つが不可欠で、この3要素間の関係性を取り持つものとして、広義のメディアは成立すると著者はいう。さらに、コンテンツの内容に関して、ストックとフロー、参加性と権威性、リニアとノンリニアという3軸が基本フレームになるという。メディアを運営する上では、この3次元の軸に基づき、しっかりした方向感覚を持ち、デバイス環境やユーザーの可処分時間の動向までを含め、現在のメディア潮流がどのように変化しているのかを、自分自身の立ち位置とともに正しく把握することが重要だとしている。

 本書は、メディアに直接かかわる仕事をしている人だけのためのものではない。冒頭で述べたように、今やメディアが作り出す力がビジネス世界に大きな影響を与えている。スマートフォンが普及し、いつでもどこでもインターネット接続ができ、コンテンツとハードウェアの融合が進む現在では、メディアについて知ることが、あらゆるビジネスをしていく上で重要な基礎リテラシーになりつつある。

 また、一般の企業や個人であってもメディアの立ち上げや運営にかかわる機会が増えている。企業であれば自社のマーケティング戦略を推進するためのオウンドメディアが代表的で、個人であれば、メールマガジン(最近は有料メルマガによるマネタイズも盛んになっている)、あるいは、ブログやFacebook、Twitterといったソーシャルメディアも個人型メディアと呼べるだろう。

 どのようなビジネスに携わるにせよ、メディアの価値を理解し、いかにうまく活用していくかがこれからの社会で求められている。本書はその基本動作を学ぶことができる1冊だといえよう。

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