スマートフォンの業務利用で“大ケガ”をしないために情報マネージャとSEのための「今週の1冊」(39)

ビジネスシーンでの利用も拡大しつつあるスマートフォン。上手に使えばこれほど便利なツールもないが、その運用をしっかりと管理できなければ、企業も個人も大ダメージを被る。

» 2011年04月19日 12時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

スマートフォン術 情報漏えいから身を守れ

ALT ・著=田淵義朗
・発行=朝日新聞出版
・2011年3月
・ISBN-10:4022733853
・ISBN-13:978-4022733856
・740円+税
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 近年、スマートフォンはビジネス面でも大きな武器となりつつある。「メール機能を社内のパソコンと完全同期すればスマートフォン側ですべて読むことができ、取引先の情報や進行中のプロジェクト内容、ワード、エクセル、パワーポイントなどで作成した資料なども、外出先で簡単に見ることができる」。だが、「紛失や盗難にあえば、大量の機密情報や個人情報が流出する可能性が非常に高い」。にもかかわらず、最低限のセキュリティ対策であるパスワードロックすら掛けていない人が多い――。

 本書、「スマートフォン術 情報漏えいから身を守れ」は、そうした現状に警鐘を鳴らした作品である。インターネットがつながる場所なら、どこにいても必要な情報にアクセスできるのは確かに便利だ。だが、その分、「ちょっとした不注意、油断から取り返しがつかない結果を招く危険がある」。そこで本書は、スマートフォンを取り巻くリスクと対策をあらゆる角度から紹介し、慎重な活用を促すのである。

 一つの特徴は「スマートフォンがソーシャルメディア端末である」ことから、TwitterやSNSなどのソーシャルメディア利用上の注意点も幅広く紹介していることだ。特に強く指摘するのは、情報発信の手軽さゆえに、ユーザーの情報リテラシーやITリテラシーが、パソコン以上にリスクに直結していることである。例えば「高級ホテル従業員がツイッターで来客者情報を漏らした事件」などは記憶に新しい。

 また、「メディア端末には所有者の個人情報が詰まっており、そこからインターネットにつながった先のブログやツイッター、SNSのなかにも個人情報が散在している」。よって、「攻撃されれば芋づる式に本人から友人、家族、仕事先関係者、会社などの情報もネットに流出してしまう」。著者は、こうしたリスクの怖さを、実際に起こった数々の事件を紹介しながら詳細に解説し、スマートフォン利用のメリットと恐ろしさをバランス良く諭すのである。

 一方、スマートフォンのビジネスユーザーにとっては、「クラウド時代の情報漏えい対策」も読みどころとなるはずだ。ここでは先日の「尖閣ビデオ流出事件」を取り上げ、この事件のポイントは、組織内における「機密情報」の定義と周知にあったと説いている。今回処分された保安官らは、事情聴取に対し、「全員が『これを見てはいけないものだと思わなかった』と答えた」ほか、尖閣ビデオは「情報共有ファイルに入っており、海上保安官がどこからでも見ることができた」ためだ。

 著者はこの事件から、「クラウド上に置く情報を選別」した上で、「クラウド環境下でモバイル端末を利用するリスク」を洗い出し、それに対応したセキュリティポリシーをしっかりと見直すべきだと主張している。特に重要なのが「情報の選別」だ。社内で勝手に「秘密だから」と決めても「言葉だけでは秘密にならない」。何が秘密情報なのか、明示する必要があるし、社内でしっかり管理できていなければ、法律の保護対象にもならないためだ。

 そこで著者は、「法的に保護される秘密情報とはそもそも何か」を規定した「不正競争防止法」を紹介している。これは「風評を流して競争相手を貶めたり」「従業員などによる営業秘密(ノウハウや顧客情報など)の不正な取得、使用を取り締まる法律」だ。具体的には、顧客情報や取引情報、製造・管理・保守に関する技術的手法、図面、パース類などが「秘密情報」に当たる。これを基準に社内の情報を選別し、全従業員に周知徹底して確実に管理すべきだと説くのである。

 確かに、風評を流す、営業秘密を漏らすなどは、Twitterでは“つい”やってしまいがちなものと言えよう。実際、ブログやTwitterに以上のような企業秘密を書いて刑事事件に発展した例は少なくない。しかし、スマートフォンはソーシャルメディアと親和性が高いにもかかわらず、ノートPCなどとは異なり、「利用の仕方は個人に任されている」例がほとんどだ。だが、デバイスとしての特性を考えれば、本来的にはパソコン以上にユーザーのセキュリティ教育が必要なのである。

 本書は「情報漏えいによる企業の損失」「不用意な書き込みによるブログ炎上」「左遷などの懲戒処分」といった“具体的なリスクと結果”を通じて、社内での利用規定、管理体制構築が喫緊の課題であることをあらためて諭してくれる。巻末にはパソコン対策用とスマートフォン対策用、両方の「情報セキュリティ対策チェックリスト」も掲載されているので、まずはこちらで現状をチェックしてみてはどうだろうか。


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