だから、仕事や人生がツマらなくなる情報マネージャとSEのための「今週の1冊」(47)

代わり映えのしない日常の中で、徒労感や倦怠感にとらわれたときには生きるスタンスを見直してみたい。もしかしたら、その徒労感は自分自身が作り出しているのかもしれない。

» 2011年06月21日 12時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

憂鬱でなければ、仕事じゃない

ALT ・著=見城徹/藤田晋
・発行=講談社
・2011年6月
・ISBN-10:4062170027
・ISBN-13:978-4062170024
・1300円+税
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 ユーザー部門からの相次ぐ構築・改修要求、利害が対立する部門同士の調整など、われわれは日々、あらゆるストレスにさらされている。日曜の夜や月曜の朝、一週間の予定を見て、思わずため息をついてしまう人も少なくないのではないだろうか。だがその悩みは、本当に“正しい悩み”なのだろうか? 仕事や人生で悩むことは、ずっと以前から「糧」になると言われ続けてきた。にもかかわらず、単なる負担や徒労としか感じられない場合、もしかしたら“悩み方”を間違えているのではないだろうか?――

 本書「憂鬱でなければ、仕事じゃない」は2003年、42歳で角川書店を退社し幻冬舎を立ち上げた見城徹氏と、2005年に氏と知り合い、ビジネスを通じて信頼関係を深めてきたサイバーエージェント代表取締役社長 藤田晋氏がまとめた「人生のバイブル」である。本書の言葉は、冒頭で挙げたような、われわれが日常で陥りがちな“間違ったスタンス”に、あらためて気付かせてくれる。

 というのも、2005年当時、31歳だった藤田氏も、「組織の中で個性を失い、社会からはみ出さないよう保守的になって」おり、代わり映えのない日常、当たり障りのない付き合いといった「凡庸なもの」「表面的なもの」――すなわち「企業社会で生きていれば、自然に発生する負の側面」に疑問を感じながら毎日を過ごしていたという。本書は、それに対して「何が大切で何が無駄か」を教えてくれた見城氏の言葉と、藤田氏がそれをどう受け止めてきたのかを振り返った作品なのである。

 何より印象的なのは、見城氏の言葉が全て「人としての在り方」を基軸としている点だ。特に冒頭に収められた氏の座右の銘、「小さなことにくよくよしろよ」には全ての教訓が凝縮されている。

 「小さなことを守れないやつに、大きな仕事ができるはずがない」「あらゆる人間関係は、細かい情が基礎になっている。それをなおざりにして、何かしようとしても、うまくゆくはずがない」「仕事上の一見合理的な人間関係も、一皮めくればその下にとても大きな情の層がある」「GNO(義理、人情、恩)を知らなければ、何事もうまくいかない」――

 これに対して藤田氏は、人は「小さなことでも、それをないがしろにすると『この人に任せて大丈夫かな』と、不安になってしまう」と付け加える。例えば「取引相手のちょっとした質問に適当な返答を」したり、小さな頼まれごとに対応しなかったり、といったことだ。これは自分が仕事を頼む側の視点に立ってみれば実感できる。特に相手に全幅の信頼を置かねばならない大きな仕事を頼むときほど、些細なことが気になってしまうのではないだろうか。仕事でもプライベートでも、相手の立場や気持ちに対する思いやりや配慮、敬意がなければ、何事もうまく運ばないという当たり前のことに、あらためて気付かされるのである。

 そして続く見城氏の言葉、「本来マナーは人間の意味ある行動が形骸化したものである」によって、相手への配慮、敬意、思いやりといったものを、日常の中で忘れてしまいがちであることにも気付く。

 だが言うまでもなく、「ビジネス社会は、無機的なゲームを行う場ではない、血の通った人間によって成り立っている」(藤田氏)。よって、“形骸化した表面的なこと”だけを惰性的に行い、人への配慮、敬意、思いやりという“真意”を忘れていれば、人を動かすこともできなければ、その行為や苦労も「糧」とはならないのだ。毎日の仕事や付き合いを「凡庸なもの」「表面的なもの」にしているのは果たして誰なのか? それは“真意”を忘れた、他ならぬ自分自身なのではないだろうか。

 一方、ビジネスの方法論についても多数の教訓が紹介されるのだが、こちらでも基本は変わらない。例えば、「無謀を演出して、鮮烈に変えよ―― ビジネスにおいて、すべては効果から逆算すべきである」。「効果から逆算する」とは世のビジネス本に満ち溢れているが、ここで言っているのは単に「数値的なゴールから逆算せよ」という意味ではない。「鮮やかな成功を得たいなら、世間や業界が何を無謀と思うかを考えればいい。そこから逆算して、計画を練ればいい」という意味であり、これもまた“人の心や気持ちを思いやる力”が核となっているのである。

 このほか、「刺激しなければ、相手の心はつかめない」「無償の行為こそが最大の利益を生み出す」など多数の教えが紹介されるのだが、読み込むほどに、ビジネスの鉄則全てが人の心の機微を大切にする「小さなことにくよくよしろよ」に根ざしていると分かる。相手が隣の同僚や上司・部下でも、ユーザー部門でも、顧客でも、仕事に取り組む上で大切なスタンスは何ら変わらない。システム開発やCRMSCMなどの戦略も、人の気持ちをくみ取り、実現するための作業なのだ。そこに相手がいることを忘れ、「無機的なゲーム」にとらわれてしまったときに、人は仕事や人生の諸事を徒労としか感じなくなってしまうのではないだろうか。

 「身体を張って七転八倒しながら、リスクを引き受けて、憂鬱な日々を過ごす。そうやって初めて、後悔のない、清清しい気持ちになれる」「これが仕事をする上で、そして、生きてゆく上で、何より大事なことなのだ」――「憂鬱」とは自分の都合だけを考えて鬱々とすることではない。相手のことを考えて、その思いや期待をどう具現化するか、自分の思いをどう理解してもらうかに心を砕くことが「悩み」であり、その重みを感じている状態が「憂鬱」ということなのだ。そして本書は、そうした正しい「悩み」や「憂鬱」こそが、仕事や人生の“本当のモチベーション”になることを教えてくれるのである。


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