当然のことを当然にこなすための指南書情報マネージャとSEのための「今週の1冊」(68)

「ビジネス分析の知識体系」と言われると腰が引けてしまいがちだが、BABOKはシステム開発における基本を確実に実践するための格好の指南書と言える。まずは「難しそう」という先入観から取り除いてみてはいかがだろう。

» 2011年11月15日 12時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

BABOK超入門

ALT ・著=広川智理
・発行=日経BP社
・2011年3月
・ISBN-10:4822262545
・ISBN-13:978-4822262549
・1800円+税
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 「あなたは『あんパン』が欲しいことを、第三者に正しく伝えられるだろうか」。あんパンにもいろいろな種類があるが、「あなたが考えているあんパンはどんなものなのか」。 それをしっかりとイメージしたり、伝えたりすることができていないのに、「欲しいものを買ってこない」と嘆くのは間違っている。あんパンを食べたいのはあなた自身なのだから「嘆く前にやることがあるはずだ」――。

 本書、「BABOK超入門」は、要件を確実にITシステムに落とし込むためのビジネス分析の知識体系「BABOK」のエッセンスをまとめた作品である。冒頭の「あんパン」とは言うまでもなくITシステムのたとえだ。自社の状況に応じて、必要なシステムを考え、明確に開発陣に伝えることができなければ、それを棚に上げて「経営に役立たない」と一方的に切り捨てることは間違っている。だがともすると、日々の仕事の中でこうした当たり前のことを忘れてしまいがちなものだが、あなたはいかがだろうか。

 実際、ビジネスにこれほどITが浸透した現在になっても、「経営や事業にITが貢献していると言い切れる会社は少ない」。システム構築プロジェクトにおいても「開発遅延、予算超過、品質不足といった話題がつきない」。著者は、多くの企業においてこうした「過ち」が繰り返されている原因として、「ビジネスの要求をシステムに反映するまでの意思決定プロセスが、体系化されていないことに尽きる」と指摘。そこで2009年以降、日本に浸透し始めたBABOKをあらためて解説するのである。

 ただ、BABOKの有用性についてはある程度認識されているが、そのハードルの高さゆえか、実際に取り組んでいる向きは少ない。その点を見据えたのが本書最大の特徴であり、「超入門」というタイトルが示す通り、内容に深くは切り込まず、アウトラインとポイントを紹介するにとどめている。実際、中立的な立場でビジネスアナリシスの啓蒙を行っている非営利団体、IIBA(International Institute of Business Analysis)日本支部が発行している「BABOKガイド」は、「上級者向け」であり、「ビジネスアナリシスの基本を知っていないと、そのエッセンスを読み取ることは難しい」。そこで著者は、本格的にBABOKに取り組む前の「準備運動」として本書をまとめたのだという。

 特にありがたいのは基礎中の基礎、BABOKの意義から説いている点だろう。

 システムを設計・開発するためには、まず現状業務についての情報を収集・整理し、自社が進むべき方向を明確化しなければならない。例えば、「アジアに進出するにはどこから攻略すべきか、どれくらいの事業規模に拡大するか」といったことを決めた上で、それに基づいて「システムは自前で構築すべきか、それともクラウドコンピューティングを活用すべきか」「通信事情は問題ないか」「セキュリティは担保できているか」といったIT戦略を考える。

 ただ、そのように情報を収集・整理して分析し、IT戦略立案に落とし込む「ビジネスアナリスシス」という仕事の進め方が、これまでは「会社や業界、個人によってバラバラだった」。すなわち「ビジネスアナリシスという仕事の品質が標準化できていない」状態であり、一定の“基準”がないために、たとえビジネスアナリシスに取り組んでいても改善が難しい状況だった。

 そこにBABOKが登場し、「ビジネスアナリシスのために必要な知識・スキルを体系的に学べる環境が整った」と説くのだ。ストレートに「知識体系」とだけ言われると手を出しにくいが、われわれが普段取り組んでいる設計・開発作業を改善・高度化するために、「ビジネスアナリストとしての技力を高める上で有効なツール」と説明されると、敷居が下がったように感じる向きも多いのではないだろうか。

 さらに本書では、BABOKの全体像として「BABOKの七つの知識エリア」を著者が噛み砕いた「システム開発の七カ条」も紹介している。そのいくつかを紹介すると「計画無くして成功無し」「真の要求は深層にあり」「管理無きところに災いあり」「要求はクリアであれ」などだが、こうして“意訳”されると、システム開発のごく“基本的なこと”を確実に実践するためのものであると実感できる。そして著者も「決して身構える必要はない」として、BABOKの積極的な活用を勧めるのである。

 ただし、BABOKは汎用性を高めるために一般的なガイドブックやマニュアルと異なり、どこから習得すべきかは書かれていない。筆者はこれが「最初の壁になる」として、自分が今、携わっているプロジェクトのフェイズに合わせて、参考にできる部分から読む方法を勧めている。また、例えば「プロジェクトのステークホルダーは事前に十分に洗い出されているか?」といった具合に、記載内容を質問形式に読み変えて、自分の行動や判断が正しいか、漏れはないかを調べるチェックリストとして使うと、活用しやすく理解も進みやすいとアドバイスしている。

 あなたの会社における開発プロジェクトの在り方に疑問を感じ、改善したいと思っていても、日々の多忙な業務の中、新しいことに取り組むためには、それなりの時間と意気込みが必要だ。とりわけBABOKを学ぼうとなれば、そのハードルの高さゆえ、有用性を認識していながらなかなか手を出せなかった向きは多いのではないだろうか。その点、要点のみを非常にシンプルに説いた本作品なら、ちょっとした空き時間に読むことができる。それだけでも日々の業務に生かせる知見を数多く得られるはずだし、準備運動をしておけば本番に対するハードルは大きく下がる。まずは「身構えることなく」気軽に取り組むことから始めてみてはいかがだろうか。


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