情報は、人間関係があって初めて有効に活用できる情報マネージャとSEのための「今週の1冊」(79)

ソーシャルメディアは企業内においても情報活用を活性化させるが、その最大の効用は、人的ネットワークの醸成にあるのかもしれない。

» 2012年02月14日 12時00分 公開
[情報マネジメント編集部,@IT]

「ソーシャルラーニング」入門

ALT ・著=トニー・ビンガム 他
・発行=日経BP社
・2012年1月
・ISBN-10:4822248755
・ISBN-13:978-4822248758
・1800円+税
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 「ソーシャルラーニングは」「伝統的な方法では実現できなかったことを可能にしてくれる。例えば、コラボレーション(共同作業)やコクリエーション(共同創造)のプロセスによって指導というものが変わってくる」「社内の会議や研修もそうだ」「その場で生まれた議論や意見を、時間と場所を超えて再び活性化することができる。さらに遠く離れた従業員同士が互いに学んだり、新しいコミュニティに招待したりといった行動から生まれるアイデアは、顧客への新たな提案につながることさえあるだろう」――。

 本書「『ソーシャルラーニング』入門」は、ソーシャルメディアを「自然な対話による知識流通や人々のつながりを作る」ものと捉え、ビジネスシーンにおける活用の可能性を追求した作品である。ソーシャルメディアの企業活用というと、マーケティング戦略の一手段と捉えられることが多いが、本書では「あらゆる立場の人々が自然に備えている『学び続ける能力』を呼び起こす」ものと捉え、従来のEラーニングとは異なる、より柔軟かつ能動的な知識流通の在り方を提案している。

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 具体的には、「小さな情報をお互いにアップデートできる」マイクロシェアリング・ツール――その代表例はTwitterだが、その他にも「ソーシャルキャスト」「ソーシャルテキスト・シグナルズ」「キューブツリー」「ヤマー」などがあることを紹介。「ファイアウォール内で動くため機密情報が外に漏れるのを防ぎ、他の企業システムともリンクできる」として、事例を通じてその導入を強く勧めている。

 例えば、米ミネソタ州のメイヨー・クリニックでは、従業員が日常的に社内マイクロシェアリング・サービスに質問を投稿。それに対するアイデアが自然と寄せられ、それがさらなるアイデアを誘発するといった「アイデアが結晶化」する理想的なサイクルが醸成されているという。組織内のマイクロシェアリングだけではなく、別のソーシャルメディアツールも使って「健康を心配する人」「患者になりそうな人」「医療および研究機関」の3つのテーマについて、外部にも情報提供を行っているそうだ。

 また2009年、メイヨー・クリニックはP&Gの商品開発者や、IBM、MITメディアラボなどの要人を集めたリアルイベントを開催したが、その際もマイクロシェアリングは有効に機能。「イベントに参加せずにオンラインで見ていた人たちは、新しいアイデアに気付かされたりアイデアを共有したりと、まるで会議場にいるかのように振る舞った」。いわば「マイクロシェアリングは5万人参加のセミナーを余計なコストと物理的労力なしに開催し、創造的思考を組織内に行き渡らせた」と説いている。

 さて、いかがだろう。こうしたケーススタディを読むと、ソーシャルメディアが情報共有やアイデア創出に効果的なことが強くうかがえる。だが実は、この事例のポイントは、ソーシャルメディアの効用が、単なる意見交換や知識の共有だけにとどまっていないことにあるのだという。具体的には、マイクロシェアリング上のコミュニケーションがそのまま「人間関係」に発展し、「ランチを一緒にし始めたり、電話をしたり、自分たちの仕事を紹介し合ったり」といった具合に、リアルの場にも良い形でコミュニケーションが波及していったそうだ。

 世界のトップブロガーの一人であり、「ソーシャルメディア101」の著者であるクリス・ブローガンは、「人とつながることを目的にしよう。そうすればツールのことをよく理解できる」と指摘している。

 本書でも、この言葉を基に「いかに皆がパワフルに一緒に働けるか」を目的とすることがソーシャルメディア活用のポイントだと主張するのだが、確かに情報をビジネスの価値につなげる上では、情報を通じて人間関係も同時に構築してくことが大きな鍵になるのかもしれない。

 企業間競争が激化している近年、市場のスピードに追従する上で、組織内の情報共有というテーマがあらためて見直されている。本書が指摘するようにソーシャルメディアの企業導入にはまだまだ抵抗を感じる向きも多いと思うが、自社で導入した場合、どのようなメリットが得られるのか、本書を通じてイメージしてみるだけでも新しい情報共有、意思決定の在り方のヒントがつかめるのではないだろうか。


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