ITがどれほど進展しても、経営の基本は変わらない情報マネージャとSEのための「今週の1冊」(81)

ITシステムやインターネットは、ビジネスを大きく支援してくれるが、ときに犯してはならない勘違いを招くこともある。経営の鉄則はどのような時代になっても変わらない。

» 2012年03月06日 12時00分 公開
[情報マネジメント編集部,@IT]

「絶対無理」なんて「絶対」ない!

ALT ・著=南原竜樹
・発行=ATパブリケーション
・2012年2月
・ISBN-10:490678402X
・ISBN-13:978-4906784028
・1500円+税
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 「スマートフォンが普及し、IT化も格段に進みました。ネットを使って、同じように検索をすれば、同じ情報を得ることができます。同様に、企業自ら情報を発信することも当たり前になっています」。しかし、「ITによって成長する企業もあれば、ITによって落ちていく企業もあります。そこで問われるのは、やはり情報の内容ということになります」――。

 本書「『絶対無理』なんて『絶対』ない」は、自動車販売業を営むLCAホールディングスの取締役 南原竜樹氏が、自らの起業経験を基に著した経営指南書である。同氏は1988年、自動車輸入代理店であるオートトレーディングルフトジャパンを設立。順調に発展し、2003年には英MGローバーの輸入権を獲得するも、その後、MGローバー社の破綻によって25億円もの特別損失を背負うことになる。

 さらにリーマンショックも押し寄せ、多くの企業が倒産していく中、同社は奇跡的なV字回復を実現。その他、同氏は医療系人材コンサルタント事業、レンタカー事業、中古車販売事業など、数々の事業を展開し成功させてきた。その経営手腕は、テレビ番組「マネーの虎」など、メディアを通じても広く知られることになったが、本書はそうした同氏が持つ経営のエッセンスをシンプルに紹介しているのである。

 印象的なのは、その実績の華々しさとは裏腹に、タイトルが象徴するような“ひたむきさ”が氏の主張を一貫している点だ。といっても、決して精神論のようなものではない。本書に豊富に収められた“ビジネスのポイント”から、「経営の基本」や「自身ならではの視点」を同氏が非常に重んじていることが分かり、チャンスをつかみ、危機を乗り越える上で王道はないと、あらためて気付かされるのである。

 例えば、同氏のスタンスを象徴するものの一つが、「情報は広告のようなもの。意図を読み解く自分の定規を持て」だ。「情報には、発信する側がその情報をどう受け手に届けたいかという意図が含まれています」。従って、情報の背後には「そういう情報を流したいという考え方があるのだなと踏まえた上で判断するようにしています」。「星の数ほど市場レポートがありますが、それをいかに読み解くかという手法を持たなければなりません」と、同氏はデータをそのまま受け取るのではなく、自分のビジネスに対する見識に基づいて自分自身の頭で考え、解釈することの重要性を説いている。

 情報の取得方法にも警鐘を鳴らす。現在は「スマートフォンを使って、いつでもネットと繋がる環境」がある。だが、これは「誰もが同じ情報をつかむことができるということ」でもある。そこで、人より先に最新の情報をつかむためには、実際に「現場に足を運び」「現場を肌で感じ」「現場の声に耳を傾ける」ことが大切だと説くのである。「現場に行ってこそ、そこの状況が空気感も含めて読めます。従業員の姿勢も、業務内容も確認することができます」「今まさに起こっていることに優る情報はないのです」。「情報に先んじることによって、次の戦略を練ることができます。しかし、情報によって足下をすくわれることもあります」。

 この他、「市場調査の目的は、ビジネスの利益を上げること。目的設定が重要」「企業として継続的に実行できないものはイノベーションにならない」「できない理由を100考えられるなら、1つできる方法を考えろ」など、含蓄ある言葉を豊富に収めている。

 現在はITの進展により、さまざまな情報を手軽かつスピーディに取得できる。分析ツールも多数存在し、情報を活用するための環境は非常に充実していると言えよう。

 だが問題は、手軽かつスピーディに必要な情報を集めたり、分析ツールを使ったりすれば、それだけでビジネスに有効な知見が得られるわけではないということだ。重要なのは、どのように正しい情報を集め、どう正しく解釈し、どう生かすかであり、そのためには自分の目、知見、視点という従来から必要とされてきたものが、やはり不可欠となるのである。

 ITシステムやインターネットは、われわれのビジネスや日常を便利で快適なものにしてくれるが、ときに犯してはならない勘違いを招くこともある。その点、本書は、今企業を取り巻いているIT環境を俯瞰しながら、それらを使いこなす上で不可欠となる経営の鉄則を、シンプルかつ分かりやすく説いている。本書を手に取ることで、自社のビジネスの在り方や情報の使い方、システムの使い方に“勘違い”が生じていないか、あらためてチェックしてみてはいかがだろう。


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