その油断と慢心が“炎上”を招く情報マネージャとSEのための「今週の1冊」(96)

炎上の怖さは燃え盛っているときよりも、むしろその“焼け跡”にある。ソーシャルメディア活用のガイドラインを策定することもなく、企業が「社員個人のトラブルは自己責任」と突き放せば、それはブランド価値の低下となって返ってくる。

» 2012年07月03日 12時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

ソーシャルリスク

ALT ・著=小林直樹
・発行=日経BP社
・2012年6月
・ISBN-10:4822227243
・ISBN-13:978-4822227241
・1400円+税
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 「すでにガイドライン(ルール)を策定済みで、対外的にも公開している企業も一部ある。が、企業公式アカウント解説に合わせて策定したケースが大半のため、企業アカウント担当者向けの指針や心構えにとどまっているケースが多い。社員の個人的なソーシャルメディア活用までを想定してカバーしたルールはまだ少ないのが現状だ。会社としてのアカウント未開設の企業ともなればなおさらだ」。「ソーシャルメディアは一般消費者とつながる貴重な窓口。だからこそ、オンライン上でもしっかりとした立ち居振る舞いが欠かせない」――。

 本書「ソーシャルリスク」はTwitter、Facebookなどのソーシャルメディアにおける実際の炎上事例を実名で紹介し、そうした事態を回避する教訓を抽出した作品である。数々の事例の中にはショッキングなもの、信じられないようなものもあるが、「起こったトラブルを正確に見つめなおせばこそ、そうした事態を回避する手立てが鮮明に見えてくる」として、「ビジネスで失敗しない31のルール」を、数々の事例のポイントを説きながら分かりやすくまとめている。

 印象的なのは、本書はまず第一章でガイドラインの策定を勧めているのだが、仮にそうしたルールを設けず、「公式アカウント担当者が」「個人的に思想信条を連投してしまうような“暴走”を犯してしまうとどのようなことが起きるのか?」を考察している点だ。著者はこれを知るための事例として「北海道・長万部町の“ゆるキャラ”『まんべくん』」の例を挙げている。

 まんべくんは「フレンドリーさが特長のいわゆる“軟式”アカウント」であり、当初はその発言も“ゆるキャラ”としての範囲にとどまるものだった。だが、「まんべくんがお気に入りの商品をツイートすれば売り上げが伸びる」として、その影響力が企業からも一目置かれるほどになると、「感覚が麻痺」したのか「まんべくんは変節」してしまう。「(人気女優を名指しで)ストーカーするか」「精神的に追い詰めるか」と発言するなど、「過激な毒舌へとエスカレート」し、ついには「どうみても日本の侵略戦争が全てのはじまりです」などと戦争についてのツイートも始めてしまった。長万部町役場には「この歴史観に異議を唱える人たち」からの抗議が殺到し、アカウント停止に追い込まれていくのである。

 他にも「共同通信とその加盟地方紙のニュースを配信する『47NEWS』のツイッター」が、「『日本で無期懲役とは事実上の無罪放免なのですにゃ』など、明らかに事実と異なるツイートをしたことで批判を」招くなど、同様の事例は多数あるという。

 ただ、注意すべきは、「炎上に至る原因は、アカウント担当者の暴走だけではない」ことだろう。例えば「居酒屋チェーン『ワタミ』従業員の自殺が労災認定された件について」、「労務管理できていなかったとの認識は、ありません」という同社 渡邊美樹会長のツイートが炎上を招くなど、たとえ役員であっても配慮を欠いた発言をしてしまう例が少なくないのである。

 著者は以上のような数々の事例を挙げて、ソーシャルメディアリスクの火元は「企業公式アカウント発の不適切な言動」「アルバイトを含む社員や取引先など関係者発の不適切な言動」「ネットユーザー発の企業・製品などへの批判」の3つに分類できるとまとめ、これらを防止するための具体的な方策を紹介している。

 ただ、著者が最も強く指摘するのは、「炎上の怖さは燃え盛っているときよりも、むしろその“焼け跡”」にあるということだ。「炎上騒ぎは1〜2日で終わるが」、問題となった発言は「まとめサイトやWebニュースメディアのネタとして取り上げられ、ずっと残り続ける」。従って、ガイドラインを策定することもなく、「企業側が『社員個人のトラブルは自己責任だ』と突き放せば、それはブーメランのように自社ブランドの価値毀損となって返ってくる」として、ガイドラインの策定や教育は「社員を守るルールであり研修であることを訴求することが、結果として自社ブランドを守ることにつながる」と訴えている。

 昨今、多くの企業がソーシャルメディアの活用に乗り出している。クチコミを収集して次のアクションに役立てるソーシャルメディアマーケティングに関心を寄せる企業も少なくない。だが、その気軽さ、手軽さゆえに、「ソーシャルメディアは一般消費者とつながる貴重な窓口」という意識が薄れがちな他、仮に「窓口」と認識できていても、日ごろBtoBの対応しかしていない従業員が、世間の“空気”を読んで一般消費者に適切な対応をすること自体、非常に難しいと言える。その点、本書は指摘だけで終わらせず、ガイドラインの例をはじめ、対応のポイントを極めて具体的に紹介している。事故が起きてからでは遅い。ぜひ一読しておいてはいかがだろうか。


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