本連載では、あるコンサルタント企業を舞台にして、企業活動とは切っても切れない“コンプライアンス”に関するトピックを、小説の随所にちりばめて解説していく。
稲森 「神崎さん、悪いけど、このデータをあさってまでに分析しておいてくれない? 絶対評価と相対評価の関連性のデータなんだけど、絶対評価に対する相対評価の変化の具合いを分析してもらいたいのよ」
神崎 「稲森さんにお願いされたら、断れるわけがないじゃないですか! やらせてもらいますよ。変化の具合いの分析って、前回のように絶対評価を100とした場合の相対評価のA評価とB評価とC評価の割合ですよね」
そうにこやかに会話しているのは、グランドブレーカーの神崎と三洋メディカルサービスの人事課長を務める稲森美由紀だ。グランドブレーカーの神崎は、三洋メディカルサービスに人事評価制度改革コンサルティング業務を行うため、同社へ常駐しているのだ。
稲森 「そう。基本的には同じロジックだけど今回はD評価も含めるから、それぞれの項目の指標を少し変えているわ。詳しくはその指示書の中に書いてあるけど、分からないことがあったら具体的なやり方を教えるから、いつでも聞きにきてね」
神崎 「はい、はい。分からないことがあったらすぐに聞きに行きます! 稲森さんとお話しできるんなら、分かっていても聞きに行きますよ!」
稲森 「ふふふ。うれしいこといってくれるわね。でもほんと、この仕事はグランドブレーカーさんにお願いしてよかったわ。神崎さんみたいな、頼りになるコンサルタントさんをよこしてくれたんですものね」
神崎 「いやぁ?、照れるなぁ。ははははぁ?」
稲森 「この仕事ももう少しで一区切りつくから、そうしたら、山本さんも誘って飲みに行きましょうね」
神崎 「そりゃもう喜んで! なんなら、山本には遠慮してもらいますから」
稲森 「それじゃかわいそうよ。とにかくデータ分析は、あさってまでにお願いね」
神崎 「はい。大船に乗ったつもりで任せてください!」
神崎は稲森のデスクから自分の席に戻り、隣の席の山本浩介にデータと指示書を渡した。
神崎 「山本くん、話は聞こえただろ? この前の分析と同じ要領で頼むわ」
山本 「稲森さんとの飲み会を遠慮させられるんだったら、この仕事も遠慮させてもらいますからね」
そういうと、山本はそっぽを向く。その山本の肩をつかんでこっちに向かせながら、神崎は話し掛ける。
神崎 「や、ま、も、と、く〜ん? そんなことでひがんじゃ大人げないなぁ。あれは言葉のアヤでしょうがぁ」
山本 「何がアヤですか、まったく都合がいいんだから。……それにしても神崎さん、この三洋メディカルサービスに常駐してから、もう1カ月たつんですね」
神崎 「そうか、もう1カ月かぁ。早いもんだな」
山本 「最初は本社を離れてクライアントに常駐するのが、なんだか心細かったんですけどね」
神崎 「クライアントに常駐するのは、コンサルタントとしては当たり前のことなんだから、心細がられては困るねぇ」
山本 「だから、最初のうちは、ってことですよ! いまはもう慣れました。慣れたから1カ月もたっていることにびっくりしたんですよ!」
神崎 「おれもいろんなクライアントに常駐してきたけど、ここはいいね。自分専用のデスクももらえてるし、オフィス環境もきれいだし。それに、稲森さんがいいよ。稲森美由紀さ?ん。きれいで頭が良くってスタイル抜群。1カ月前、大塚マネージャに三洋メディカルサービスに常駐っていわれたときはめんどくせぇなぁ、と思ったもんだけど、稲森さんと働けるんだから、いまじゃ大塚マネージャに感謝感謝!! ってところだよ」
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