早期にサーバサイドJavaがくることを確信挑戦者たちの履歴書(17)

編集部から:本連載では、IT業界にさまざまな形で携わる魅力的な人物を1人ずつ取り上げ、本人の口から直接語られたいままでのターニングポイントを何回かに分けて紹介していく。前回までは、漆原茂氏が入社するまでを取り上げた。今回、初めて読む方は、ぜひ最初から読み直してほしい。

» 2010年06月18日 12時00分 公開
[吉村哲樹,@IT]

 1990年代前半、沖電気工業株式会社(以下、沖電気)でTuxedo(タキシード)をはじめとするオープン系ミドルウェアの世界にどっぷり浸かっていた漆原氏。やがて1990年代後半になると、オープン系の世界に新たな技術が興隆する。Javaだ。

 登場した当初のJavaは、クライアント側での用途が中心だった。しかし漆原氏は、Javaについて独自に調査を進めるうち、サーバ側でのJavaの可能性について大きな確信を持つに至る。

 「これは、本格的に来るぞ」。サーバサイドJavaは、今後の標準となり得る。そう結論付けた同氏は、早速動き出す。「よし、早速使えそうな製品を持ってこよう」

 しかし、当時はまだサーバサイドJavaの黎明期。一時期、Netscape社がJavaScriptをサーバサイドで動作させる製品を提供していたが、結局普及しないまま消えていった。そんな中、漆原氏は当時創業して間もないWebLogic社の製品に目を付ける。

 「当時WebLogicをやっていたのは、かつてIBMでトランザクション製品を開発していたスコット・ディッゼンでした。ずっとTuxedoを担いできたわたしにとっては、彼はずっとライバルだったのですが、WebLogicのことを知ったときは『良いもの作るじゃん!』と思いましたね」

 ちなみにTuxedoは1996年、提供元がノベルからBEAシステムズに変わっている。漆原氏は、BEAシステムズの創業前から本社経営陣と密に連携しながら、日本国内におけるTuxedoのビジネスを展開することになる。

 ところが、何たる奇遇か。同社はやがて、漆原氏がサーバサイドJavaで目を付けていたWebLogicを買収することになるのだ。同氏の好敵手であり、また良き仲間でもあったWebLogicのスコット・ディッゼン氏はその後、BEAシステムズのCTOの座に就くことになる。

 結局、Tuxedoをやっていたころの仲間が、今度は「サーバサイドJava」を合言葉にBEAシステムズに集結することになったのだ。「何とも面白い巡り合せです」と漆原氏は語るが、これは決して偶然の出来事ではない。かつてスタンフォード大学に赴いていたころ、海の向こうで培われた同氏のコミュニケーション能力がフルに発揮された結果、これだけの人脈を築き上げることができた、と見るべきだろう。

 とにかく、これだけの環境とこれだけの面子がそろったのだから、もうサーバサイドJavaをやるしかない。

 「当時はまだ、サーバサイドのJavaなんて言っても、『本当にそんなことできるの?』というのが一般的な見方でした。そうした見方に対して、『いや、できるんだよ!』ということを示して見せようと思ったのです」

 ところで、沖電気以外のほかの国内メーカーの当時の動向はどうだったのだろうか?

 「サーバサイドJavaは、まだどこもやっていませんでした。とにかく、他社に先駆けていち早くやろうと思ったのです。実際のところ、どこよりも速かったはずです」

 漆原氏は、自信たっぷりにこう答える。さすが、生涯を通じて常に最先端の技術を追い求め続けてきた同氏だけのことはある。

 もちろん、単に技術を追い求めるだけではない。こうして開拓し、磨き上げた最先端の技術と製品を、どんどん実際のソリューションに適用していった。沖電気社内に働きかけ、同社が提供するソリューションにWebLogicを導入していく、さらに、ここからが行動力溢れる同氏らしいのだが、社外に対してもWebLogicのソリューションをどんどん提案していった。たとえ沖電気の他部署とかち合い、コンペになろうとも、顧客のところに直接持っていく。

 「『こっちの方が絶対に売れる!』という自信があったので、社内でコンペになろうがどうなろうが関係なく、直接顧客に提案しにいきました。営業からはさすがに怒られましたけどね」

 さらに、パートナー企業経由の再販ビジネスも展開していった。当時はパートナービジネスといっても、現在ほどポピュラーではなかった時代だ。恐らく、同氏の持ち前である行動力とコミュニケーション力をフルに駆使して、新たな商流を果敢に切り拓いていったのだと想像する。

 「実は、その当時に築き上げた人脈が、後にウルシステムズを設立する際に大きく役に立っているのです」

 なるほど。たとえ技術者といえども、技術力だけでは大事は成せないのだ。


 この続きは、6月21日(月)に掲載予定です。お楽しみに!

著者紹介

▼著者名 吉村 哲樹(よしむら てつき)

早稲田大学政治経済学部卒業後、メーカー系システムインテグレーターにてソフトウェア開発に従事。

その後、外資系ソフトウェアベンダでコンサルタント、IT系Webメディアで編集者を務めた後、現在はフリーライターとして活動中。


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