適材適所の人材育成をしよう何かがおかしいIT化の進め方(36)(1/4 ページ)

企業=人だ。企業側も「人材育成が重要だ」というが、実際はどうなのだろうか。今回は人材の問題を考える。

» 2008年03月26日 12時00分 公開
[公江義隆,@IT]

 「人材育成が重要だ」と多くの会社はいう。

 さまざまなアンケート調査結果などによると、各社教育計画は作っている。人材の育成計画を考えているところはかなりある。しかし、これらの計画は着実に実行されているのだろうか?

 「ユーザーから評価される企画が作れないのは、企画力がないからだ。企画力を付けることが急務だ」「プロジェクトがうまく運ばないのは、プロジェクトマネージャの力不足だから、プロジェクトマネジメント能力の育成が必要だ」といった発想で、「A君のいまの仕事がどうもうまくいっていないようだから、“企画力育成セミナー”に参加して勉強してもらおう」、今度のプロジェクト管理を担当してもらうために「SEのB君にプロジェクトマネジメント養成講座を受けさせてみようか」などと、現実は、目先の課題に対する付け焼き刃的発想に終始してしまってはいないだろうか。

 セミナーの案内パンフレットには、良いことずくめのセールストークが書いてある。しかし、世の中にそんなうまい話があるはずがない。ここで得られるのは、能力の一部分である「知識についての、またその一部」にすぎない。それで問題が解決するほど現実は甘くない。

 資格の取得に熱心な人や会社もある。商売上多少有利なのかもしれないが、IT分野での資格と能力の相関性が高いとは筆者には思えない。

 人材育成=教育・訓練=(“必要に応じて”という)セミナー参加や資格取得で解決する問題ではない。数年前、人間力という言葉がはやった。あれはいま、どうなったのだろうか。

 あらゆる面で余裕が失われた現在、効率性からも時間的にも、従来の徒弟制度的人材育成では間尺に合わないことが分かっていても、新しい考え方や方法を確立できないまま、こんなことの繰り返しで今日に至っている現実でないだろうか。

「好きこそものの上手なれ」でみんなが幸せに

 先輩、同僚、部下など周囲を見回してみた場合、比較的短い期間で仕事に能力を発揮できるようになる人とそうでない人がいる。

 仕事や立場を変えることで、水を得た魚のように力を発揮し出す人がいる(その逆もある)。中には最後まで会社では花が開かなかったが、別のところで別人のような大活躍をする人がいたりする。

 人には適性がある。もし、横軸にいろいろな能力項目や分野を取り、縦軸に能力や関心の強さを表したスペクトルを取ってみれば、特定の項目・分野に鋭い興味・能力のピークのある人、それほど高くなくても比較的広い範囲にスペクトルが分布する人など、人によりさまざまなのであろう。

 「好きこそものの上手なれ」ということわざがある。その通りにできれば本人も周囲も幸せである。努力が苦にならず、放っておいても自分で力を付けていく。上司としてすべきことは「邪魔をしない」「機会を与える」「適切なアドバイスができる人を見付けてやる」程度である。

 特に「好き」という意識がなかったものでも、人はできるようになると好きになるのが普通だ。

 もっとも「下手の横好き」ということもある。これは問題の取り組みの方向が間違っているか、そもそもの能力が欠けているかなどの場合である。方向を正すアドバイスをするか、「ライフワークとして末永く楽しくやれば……」などといって、その仕事から離れてもらうかが適切な対応になる。

 好きでないと意識していること、適性に合わないことをやってもなかなか上達しないし、無理な努力はストレスにつながるだけだ。「好きこそものの上手なれ」という皆が幸せなケースを、できるだけ増やしていくためにはどうすればよいのだろうか?

 今回は、コンピテンシー(行動特性)という人の特性のとらえ方から、人材育成を考えてみる。

自分の適性が分からない人が増えた

 ここ数十年、自分の適性はおろか、好きなことさえ分からないまま大人になってしまうという人が増えている。

 経済的・物質的に豊かでなかった時代の子供たちは、自分たちで遊び道具を探し、玩具を作り、工夫し、足らざるところを想像力で補った。

 木の葉は船に、木切れは汽車に早変わりした。多くの仲間といろいろな遊びをしながら、その中で他人と違う点を知り、自分の位置付けや役割を見付けながら育った。それなりに何となく自分を知り、割り切り方も身に付けた。

 一方、ゲームと漫画、テストの点数取りのための塾の勉強といった画一化されたプログラムの中で育ってきた豊かな世代は、わずかな分野でのわずかな種類の経験しかしていないことになる。

 ゆとり教育は塾の繁栄をもたらして、さらに画一化は進み、学校では人と違えば「いじめ」の対象にさえなる。そんな中で、世間では「個性」「自分らしく」といった言葉が喧伝され、人気歌手グループの「世界で一つだけの花」がはやっても、「オンリーワンの花」がどんな花なのか分かりようがない。

 やり始めた仕事が「うまくいかない・面白くない」のは、「そもそも、その仕事はそんなものなのか、もう少し努力や辛抱するべきことなのか、自分のわがままなのか、あるいは本当に自分に合わない種類の仕事なのか」の判断ができない。

 気の短い人は、「青い鳥」を求めて他所に移る。しかし、大抵の場合、そこにも「青い鳥」はいない。こんなことを繰り返して状況をさらに悪化させる人も少なくない。飛び出さなかった人も同じような迷いを抱えながら、前向きの意識がないまま周囲に流され、時間だけはたっていくといえば、これは言い過ぎになるだろうか。

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