製造現場のERP、「MES」を生かしきる条件「もう二度と失敗しない」SCM完全ガイド(5)(1/2 ページ)

「製造現場のERP」というべきMESと、MRP、スケジューラ、WMSなどを連携させれば、SCM実現の土台を築くことができる。しかし、それらを不用意に導入し、つなげるだけでは、自社の生産管理体系を崩壊させかねない事態に陥ることもある

» 2009年01月29日 12時00分 公開
[石川 和幸@IT]

多くのシステムと連携し、SCMの土台を支えるMES

 前回は実行系業務を支えるERP(注1)について解説しましたが、今回は製造業において製造業務をサポートし、SCM構築の土台となる「製造現場のERP」というべきMESと、隣接するシステムとの関係をひもときます。

 MESはManufacturing Execution Systemの略で、製造実行システムのことです。ただ、MESといってもその概念は幅広くとらえどころがありませんし、最近では隣接するシステムとの境界が不明確になってきているため、業務的にもシステム的にも分かりにくいものとなっています。そこで、ここではMESのことを、単純に「製造指示と実績収集を行う仕組み」と考えます。

 MESに隣接するシステムとしては、MRPやERP()、スケジューラ、製造機器を制御して実績を収集するPLC(Programmable Logic Controller)、品質検査を管理するLIMS(Laboratory Information Management System)、倉庫管理システムのWMS(Warehouse Management System)、秤(ひょう)量システム、搬送システムなどがあります。MESはこうした製造に関係する各システムの中心に位置し、作業指示と実績収集をつかさどる存在です。冒頭でも述べましたが、まさしく“製造現場のERP”ともいうべき重要な役割を持っています。

 しかし、上記のような隣接するシステムとの機能の切り分けが意外と難しく、その切り分けがシステム構築の肝になるときがあります。以下では、切り分けのパターンを1つ1つ解説していきます。

注: 管理手法としてのMRPは、1960年代から概念が提唱され、1970年代にはソフトウェア製品が登場。1980年代には、生産計画や需要予測の機能を持つシステムも登場し、これをさらに全社レベルに拡張する形でERPという概念が生まれた。生産管理機能を持つERPパッケージには、MRPに由来するものが多い。ここではそうした背景もくみ取り、以下の段落から「MRP/ERP」と併記する。

MESは隣接するシステムとの切り分けが難しい

■切り分けが難しいシステム その1──MRP/ERP

 MESは製造業務の作業指示を行うために、「所要量展開」や「工程展開・作業展開」機能を持っている場合があります。この場合、上位システムであるMRP/ERPとの間で、どちらが所要量展開を受け持つべきか、混乱が生じます。基本的には「正解」はなく、使うシステムの製品特性に合わせて組み合わせ方を判断することもありますが、本来的には導入企業各社がきちんとしたシステム配置方針を持って検討すべきです。

 例えば、「原価計算に直結する所要量展開はMRP/ERPで受け持ち、MRP/ERPのデータを受けて、MES側で作業指示用の所要量展開、工程展開をする」という切り分けです。このような考え方は製薬業などに有効で、製造すべき所要量をMRP/ERPからMESが受け継ぎ、工程展開して作業指図を作り、MESで作業実績を収集し、製造ロットナンバーを振り、作業実績をMRP/ERPに渡し、在庫計上と原価計上を行う、という流れが考えられます。

 これは製薬業の一例ですが、こうした“機能の切り分け”と“業務分担”をきちんと行わないとあちこちで同じような機能が混在してしまい、その結果、データがダブってどれが「正解」か分からなくなり、導入後に混乱を来してしまいます。

■切り分けが難しいシステム その2──スケジューラ

 スケジューラは、作業を効率化するための計画立案システムです。納期や稼働率などを指標として、効率的な作業の順序計画を立案します。作業展開、工程展開をした後の、各作業の着手順序を効率化する機能であれば、MESとは明確に切り分けて配置することができます。

 しかし、スケジューラの中には多工程を連結して計画立案を行うものもあります。こうなると所要量展開や工程展開・作業展開の機能を持つことになり、MESとの切り分けが難しくなります。このことは同時に、MRP/ERP、MES、スケジューラの3者で所要量展開と工程展開・作業展開をどのように分担すべきかという複雑な問題を生み出します。

 MESとMRP/ERPの切り分けで述べたように、ここに普遍的な「正解」はありません。私なりの指針は、「原価計算にかかわる所要量計算をMRP/ERPで行い、各工程の所要量をスケジューラに渡し、スケジューラでボトルネック工程にかかわる計画(スケジューリング)を行い、その所要量をMESに渡し、細かい作業工程別の計画をMESで立案する」というものです。実績収集はこの逆で、MES→スケジューラ→MRP/ERPという流れとします。

■切り分けが難しいシステム その3──PLC、LIMSなど

 MESはPLC、LIMS、WMS、秤量システム、搬送システムなどとも連携します。上記のMES、MRP/ERP、スケジューラの組み合わせに比べれば、それぞれの機能が明確に分かれているため、比較的切り分けやすくなってはいます。ただし、作業指示と実績収集については、MESと各システムが連携する形となるため、データ受け渡しのタイミングやインターフェイスの仕様をしっかりと考える必要があります。


 以上、ざっと解説してみましたが、連携に当たっては各システムとも、非常に慎重な検討が必要となることがあらためて理解できたのではないでしょうか。しかし、検討すべき問題はほかにもあります。例えば、採用したパッケージシステムの機能にも影響されますし、組み立て加工、製薬、化学といった製造業の種別・特性によっても、工程の組み立て方、作業の位置付け方、ロットの定義などが相違するため、それぞれ個別に考えていかなければなりません。切り分けは、かなり高度な問題となるのです。

マスタデータとの連携も課題

 一方、MESはマスタデータとの連携も大きな問題をはらんでいます。工場で持っている製品コードが販売会社側で持っている製品コードと相違することもありますし、同じ工場内でも、MRP/ERP、MES、スケジューラがそれぞれ独自のマスタデータを持っていることで、相互の連携に相当な負荷がかかる場合があります。

 コード統一、工程認識の統一または切り分け、インターフェイスプログラムによるマスタデータ変換、マスタデータの同期を取るために必要な業務ルール、各システム間におけるマスタデータの受け渡しスケジュールなど、煩雑な問題が多数横たわっています。これらは常に業務ルールとの整合性を取りながら解いていかねばならない難しい問題です。

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