IFRS最前線(19)
IFRS導入準備の“中だるみ”にご用心!
小尾拓也
ダイヤモンド・オンライン
2011/6/23
ここにきて、IFRSの導入準備に取り組む企業の姿勢に“中だるみ”の傾向が見られるようになったという。だが、「インパクト調査」の結果を見ると、決してうかうかしてはいられない現状が浮かび上がってくる(ダイヤモンド・オンライン記事を転載、初出2010年10月28日)。
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決算期の統一から文書整備まで
現場レベルでも課題が山積
他にも、IFRS導入に伴う実務面での課題は多い。代表的なものが、親会社と子会社との決算期の統一だ。IFRSでは、原則としてグループの決算期を統一しなければならない。しかし、関連企業の決算期がバラついている企業はかなり多い。
そのため、中国に進出している企業なら、中国の法定会計年度である12月に決算期を合わせることが必要になる。上場企業の大部分が3月決算となっている日本において、新年早々に決算業務が始まることは、関係者にとってかなりの負担になる。
欧米やアジアなどの海外子会社における経理の精度が、思いのほか低いことも明らかになった。IFRSベースで監査した場合、収益認識を出荷ベースで行なっていたり、償却年数が実際のライフタイムを反映していないなどのケースも見られる。
その他、新たな会計方式に対応する多くの機能をシステムに追加したり、外部の専門家に資産査定を依頼したりといった必要に迫られている企業も多い。グループ会計方針の新規作成、マニュアル、ワークシートなど、現場におけるドキュメントの整備に至るまで、思いのほか時間がかかると見られる。
そもそも、経理分門にIFRSに対応できる人材が少ないことは、深刻な問題だ。英語のIFRSに対するアレルギーや、基準の理解が難しいことなどが、大きな壁になりそうだ。本社はもとより、子会社の担当を教育することも必要となる。
今から本格的に取り組んでも
「決して早くない」という現実
このように、インパクト調査によって明らかになった現状を見る限り、企業関係者は悠長に構えている場合ではないと言えそうだ。
折からの不況で業績が振るわない現在、「システムの構築や人材教育など、本業以外のことに割くおカネも人もない」(中堅上場企業の関係者)というのも、無理からぬ話ではある。しかし、景気動向に一喜一憂しながら様子見を続けていても、IFRSの強制適用は待ってくれない。
連載第17回でも紹介した通り、IFRSには、導入時にあたかも過去から継続してIFRSを適用してきたかのように、日本基準で作成された過去の財務諸表を、IFRS対応に作り直さなければならない「初度適用」というルールもある。それを考え併せれば、実は残された時間はかなり少ないのである。
IFRS導入という大仕事は、目先の状況だけを考えて進捗を判断すべきものではない。長期的な視野で計画的に進めないと、そのオペレーションはおぼつかない。企業関係者は、そのことを肝に銘じるべきだ。