
IFRS最前線(21)
NY上場にIFRSを採用した三井住友FG、その理由は
原 英次郎
ダイヤモンド・オンライン客員論説委員
2011/8/22
2010年11月に、ニューヨーク証券取引所に上場を果たした三井住友フィナンシャルグループ。予想に反してIFRSの方が資本、純利益とも日本基準を上回った。その理由は何かを読み解いてみる。(ダイヤモンド・オンライン記事を転載、初出2010年12月28日)。
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経済情勢と市場変動の
影響をより大きく受ける
三井住友FGの中核企業は、もちろん三井住友銀行だ。ごく簡単に言えば、銀行は預金で資金を調達し、貸出を行ったり、債券・株式などの有価証券に投資して利益をあげている。当然、総資産に占める貸出と有価証券のウエイトが高い。ちなみに、2010年3月では、貸出金および債権が総資産の58%、投資有価証券が19%を占めている。
だからこそ、両基準によって、貸出および投資有価証券が、どのような影響を受けるかが注目されたわけだ。まず、投資有価証券(表の3)を見ると、資本、当期純利益ともIFRSの方が、1000億円以上も多くなっている。
投資有価証券は2つのルートで、資本の増減に影響を与える。IFRSとの違いで最も問題になったのは、非上場株式の評価である。日本基準では適正な評価が難しいため、原則として取得原価で計上するが、IFRSでは時価評価を行った。
非上場株式については、その期間における評価損益の変動は、その他包括利益に反映され、損益計算書の当期利益には影響を与えない。つまり、包括利益に影響を与えることを通じて、資本を増減させることになる。2010年3月期では、非上場株株式は、日本基準と比べて、資本を押し上げる効果を持った。
一方、俗に仕組み債などと呼ばれるハイブリッド証券などは、IFRSでは、PL(当期純損益)を通じて公正価値で測定する金融資産に分類されるため、2010年3月期では評価益がPLに計上されて、当期純利益を押し上げた。
結局、非上場株式および上場株式の評価益の変動がプラスに働き、2010年3月期では資本を1600億円余り押し上げる、主な要因となったのである。
もう1つの注目点である貸出金および債権(表の4)に関連するものは、貸倒引当金である。貸倒引当金については、個々の重要な貸出先(企業など)について個別に評価するものと、それ以外の貸出金で、日本基準でいう一般貸倒引当金(IFRSでは集団的評価という)として評価するものの2種類がある。
個々の重要な貸出先については、貸出金の現在の価値を計算するための手法であるDCF法(ディスカウント・キャッシュ・フロー法)については、それほど大きな差はないが、IFRSの方が「重要な先」の対象範囲が広い。
貸出金額を現在価値が下回っていれば、その差額を貸倒引当金繰入額として、費用処理しなくてはならない。この貸し出しについては、貸出先の経営内容によるので、日本基準よりも貸倒引当金繰入額(貸倒費用)が、大きくなるか小さくなるかは、一概には言えない。
一方、一般貸倒引当金については、日本基準が過去1〜3年の平均の貸倒率を基準にして、貸倒引当金繰入を行うのに対して、IFRSの方は貸倒率の見積もり期間が短いうえ、直近の経済状況を反映させなくてはいけないため、日本基準より期間ごとに大きくぶれる。
2010年3月期では、リーマンショックから1年半がたち、景気は回復基調にあったため、日本基準よりIFRSの貸倒引当金繰入額(費用)が小さく、 当期純利益、資本ともに、日本基準よりIFRS基準を押し上げる要因となった。逆に言えば、景気が急速に悪化すれば、IFRSの方が、貸倒引当金繰入額が 大きくなることもありえる。

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