NTTデータ、BABOKで業務改革を支援開発関係者の多くは、開発の目的を知らない!?

» 2008年12月17日 00時00分 公開
[内野宏信,@IT]

 NTTデータは12月17日、「システム開発の上流工程に関する動向と、NTTデータの取り組み」をテーマとするプレスセミナーを開催した。

 近年、複数社が連携して1つのビジネスモデルを運用するなど、ビジネスがますます複雑化している。こうした中、システムに求められる要件も多様化、複雑化し、上流工程で要件を取りこぼしてしまうことによる、開発の遅れやコスト上昇が問題視されている。これを受けてNTTデータでは今年度中に上流工程の方法論を整備、「単に開発を請け負うのではなく、ビジネスの在り方に踏み込んでコンサルティングを行うことで、より確実な要件定義書の作成と、成果につながるシステム開発を行っていく」という。

ますます難しくなる要件定義

 NTTデータ システム科学研究所では、今年9月にソフトウェア関連のセミナーを実施した。その参加者86名に要件定義に関するアンケート調査を行ったところ、「要件定義書において記述が少なく問題発生が多い項目」として、参加者の多くが「システムの目的」「システムの特性」を挙げたという。また、「要求を扱う際の問題点」として、約半数が「要求の獲得や抽出」「要求の検証や分析」を課題と感じていることが分かった。

写真 NTTデータ システム科学研究所 所長の山本修一郎氏

 同研究所 所長の山本修一郎氏は、「現在はビジネスが複雑化し、要件を正しく抽出することが難しいほか、システムを開発する目的も分からなくなりがちだ」という。例えば流通業の場合、卸売り業者、小売業者など複数の企業が連携してメーカーのサプライチェーンの一端を担っている。この場合、卸売り業者が受発注システムの発注者だとしても、ユーザーは発注者だけとは限らない。連携する小売業者も含まれる。eコマースも同様だ。システムの発注者はeコマースの運営者でも、実際にシステムを使うのはその顧客だ。

 「従来のように、人手で行っていた作業を機械化、自動化するといったアプローチであれば、システム開発において“何を作るか”を明確化しやすかった。しかし現在はビジネスが複雑化し、1つのシステムでもあらゆる立場のユーザーが幅広く利用する状況となっており、その分、要求も複雑化、多様化している。よって、真に役立つシステムを開発するためには、上流工程においてビジネスプロセスまで含めて検討し、“どう作るか”ではなく“何のために作るのか”というアプローチで、しっかりと要件を検討する必要がある」(山本氏)

 また、米NIST(国立標準技術研究所)が2002年に行った調査によると、「上流工程における欠陥のうち、サービス開始後に検出されるものが実に21%にも及んだ」という調査結果もあるという。山本氏は「開発のコスト効率を高めるためには、可能な限り上流工程で欠陥を検出し、解決しなければならない。この点で、最終的な受け入れテスト時まで要求モデルの欠陥を検出できないV字開発モデルも、あらためて見直す必要があるだろう」と解説した。

 さらに、「航空機に搭載するシステムのソフトウェアのコード行数は10の9乗にも及ぶ」など、現在使われているシステムのプログラムコードがますます大規模化していることを挙げ、「あとで要件を追加・修正することの難しさ」も指摘した。

単なるシステム開発ではなく“ビジネスの変革”を請け負う

 こうした状況を受けて、NTTデータでは上流工程の方法論を今年度中に整備し、来年度からは顧客企業のビジネスモデルの領域にまで踏み込んでコンサルティングを行い、あらゆる要件を確実にシステムに落とし込んでいくという。具体的には、これまでのコンサルティング業務などで実績のある、上流工程のための同社独自の手順や方法論を整理し、より有効な組み合わせ方を検討していく。

 同社の方法論には、EA(エンタープライズ・アーキテクチャ)の視点に基づいて、業務オペレーションとそれを支える情報システムを検討し、システムのあるべき姿を導出する「ITグランドデザイン」をはじめ、開発関係者の課題認識などを手がかりにビジネスの目的・手段を明確化する「MOYA(Model-Oriented Methodology for Your Awareness)」、導入システムの導入効果試算などに役立つデータ分析方法論「BICLAVIS」、オープン系システム開発の手順書である「TERASOLUNA」などがある。このうち「ITグランドデザインをベースに、必要に応じて、MOYAとBICLAVISを組み合わせていく予定だ」(NTTデータ 技術開発本部ソフトウェア工学推進センタ 部長の小橋哲郎氏)という。

写真 上流工程において、機能要件、非機能要件、システム化の目的を明確化する

 社外のベストプラクティスも取り入れる。1つは、NTTデータと協業関係にあるシステムインテグレータ、アトリス社が提供するシステム開発体系「PEXA」だ。これは業務分析プロセスの“分析手法”と、それによって導出される成果物の“作成支援ツール”、成果物を読み込んで実際に実行することで、要件定義の内容を確認できる“エンジン”をワンセットとしたもので、当初はこれらのうち“分析手法”を要件抽出に活用していくという。

 このほか、ユーザーにとって分かりやすいシステム仕様書を作るための記述方法・合意方法をまとめた「発注者ビューガイドライン」や、“ビジネスニーズを特定し、ビジネスソリューションを決定するための知識体系”として、現在米国で注目を集めつつある「BABOK(Business Analysis Body of Knowledge)」も導入する予定だ。

 特に、BABOKは各ステークホルダーの業務上のニーズを定義し、その実現に必要な機能をソリューションに落とし込んでいくための体系。これによって導出する“ソリューション”も「必ずしもITを使ったものとは限らない」など、あくまで“ビジネスの視点”を基軸としていることが特徴だ。この点からは、「ビジネスのレベルに踏み込んでコンサルティングしていく」という同社の狙いが感じ取れる。

写真 単なるシステム開発ではなく、ビジネスの変革から請け負う

 前出の小橋氏は、「ここ数年、顧客企業からの相談は、『取引先との業務連携の在り方をどうすべきか』といった、より踏み込んだ内容のものが確実に増えていた。こうしたニーズに応えるために、弊社では今年9月から、“システムインテグレータから変革パートナーへ”という目標を標榜している。その点、上流工程の体系整備によって、ビジネスの変革コンサル、それに基づくシステム開発、その後のシステム活用サポートという一連のサービスをいっそう強化することができる。今回の体系整備によって、変革や利益に結びつく、真に役立つシステムを提供していきたい」と話している。

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