【Top10】good enough computingへようこそ先週の人気記事ランキング

» 2009年02月02日 00時00分 公開
[垣内郁栄,@IT]

 先週の@IT NewsInsightのアクセスランキングの第1位は、iPhone向けアプリケーション開発の現在と開発環境の変化を伝える記事「iPhoneでC#アプリが審査に通るワケ」だった。2009年もiPhoneをはじめ、Androidなどモバイルデバイスについての話題が多くなりそうで、技術革新の重心がモバイルに移動しつつあることを感じる。

NewsInsight Weekly Top 10
(2008年1月25日〜1月31日)
1位 iPhoneでC#アプリが審査に通るワケ
2位 PC1500台をOpenOffice.orgに そのコスト削減額は……
3位 「即金提供」のバイトのはずがマネーロンダリングの片棒に
4位 Gmail、オフライン機能提供へ
5位 グーグルはフェーズ2へ、日本法人新社長が会見
6位 ブート時間を半分以下に短縮した「KNOPPIX 6.0」リリース
7位 職位高いほど勤務中にプライベートメール、HDEが調査
8位 アドビが考えるFlash/AIRの未来とiPhone対応
9位 Azure開発の概要、マイクロソフトが国内で初デモ
10位 IE8のリリース候補版がダウンロード開始

 最近、うまいこというなと思ったのは英Economist誌の記事「Less is Moore」だ。Mooreといえば「ムーアの法則」で有名。「半導体の集積密度は18〜24カ月で2倍増する」という法則で、IT業界では広く受け入れられてきたし、マーケティングのメッセージとして機能してきた。

 しかし、IT業界の成熟と不況によって「いま、物事は変わりつつある」(Economist誌)。IT業界はより高性能なマシンを提供するのではなく、その代わりに、ほどほどでちょうどいいレベルのパフォーマンスを、より低価格で提供することに力を注いでいるというのだ。これがEconomist誌が名付けるところの「good enough computing」だ。

 多くの人が感じるようにgood enough computingの象徴は2008年に世界的にブレークしたネットブックだ。性能的には2〜3世代前のPCながら、低価格で、持ち歩きが楽。電子メールやWebブラウジング中心のユーザーにとって、ちょうどいいのだ。日本でも売れに売れ、2008年12月のPC出荷実績では、出荷数のうち7割以上をノートPCが占めるようになった。

 good enough computingの波はコンシューマだけでなく企業にも及んでいる。その1つはサーバ仮想化だ。アプリケーションごとにサーバを用意するのではなく、仮想化技術によって1台のサーバを仮想的に分割して、アプリケーションを複数稼働させる仕組みは一般的になりつつある。低価格なx86サーバを複数台用意し、仮想的なリソースプールを作るという考えもある。また、一般的にクライアントアプリケーションと比較すると機能は劣るが、低価格もしくは無料ということでSaaSによるアプリケーション配信も普及した。ユーザーは「これで十分」と使っているのだ。

 興味深いのは、古き良き時代のソフトウェアベンダといえるマイクロソフトもgood enough computingを指向している点だ。それはWindows 7の開発。Windows 7は、多機能でPCに高い性能を要求するWindows Vistaの反省を踏まえ、軽快な動作を目指して開発されているようだ。「Windows 7は以前のバージョンよりも高速に動く初めてのWindowsになるかもしれない」(Economist誌)。

 good enough computingが技術革新の低下につながると考えるのは早計だろう。要はベクトルが変わったということだ。プロセッサの開発であればより低消費電力、より低コストの開発が盛り上がり、サーバ仮想化技術であれば従来の高信頼で(高価格な)サーバ環境を、いかに仮想化環境で低コストに実現するかが課題になる。SaaSについてもインターネットのメリットを最大限生かしながら、ソフトウェアの使い勝手を高めていく開発は、開発者にとってやりがいのある仕事だろう。パフォーマンスこそがすべてという時代はもう帰ってこないかもしれない。だが、ユーザーや開発者にとっては、より多様な世界が広がりつつあるように思う。

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