研究開発費は不景気でも何としても維持する〜ジュニパー新CEOジュニパー新CEOのケビン・ジョンソン氏に聞く

» 2009年03月05日 00時00分 公開
[大津心,@IT]

 ジュニパーネットワークスは、米国サンマテオでアナリストやメディア向けのイベント「Analyst Day」を2月23日〜24日に開催。基調講演では、2008年9月8日付けで同社の新しいCEOに就任したケビン・ジョンソン(Kevin Johnson)氏が同社の方針などを説明した。ここでは同氏の基調講演の内容に加え、個別インタビューの内容も交えて紹介する。

就任3週間後にリーマンショックが起こり、軌道修正を余儀なくされた

ジョンソン氏写真 米ジュニパーネットワークスの新CEOに就任したケビン・ジョンソン氏

 ジョンソン氏はジュニパーCEO就任前、米マイクロソフトで16年間勤務し、同社での最後の肩書きは米マイクロソフトのプラットフォーム・アンド・サービス事業部門プレジデントだった。2008年に話題となったマイクロソフトによる米ヤフー買収提案案件をリードした人物でもある。

 ジュニパーネットワークスは1996年の創業以来スコット・クレンズ氏がCEOを務め、主力製品であるキャリア向けコアルータを中心に業績を伸ばしてきた。業績は2008年も好調だったが、同社の大きな転機でもあるエンタープライズ向けスイッチ市場への参入を実現したことや、12年間という就任期間などを考慮し、後任へCEO職を譲ったと考えられる。比較的物静かな印象のクレンズ氏とは対照的に、新CEOのジョンソン氏は日本語でいう“声の大きな人物”という印象だ。物事をかなりはっきりいうタイプでもある。

 同氏はまず2008年の実績を振り返り、売り上げは前年比26%増、営業利益率は24.2%、一株当たり利益(EPS:earnings per share)も前年比36%増を実現し、非常に好調だったことを強調した。2008年は、「EXシリーズ」でエンタープライズ向けスイッチ市場に参入したほか、マルチサービスエッジ向けルータ「MXシリーズ」のビジネスが非常に順調に伸びた年だったと評価した。特にEXシリーズは新規顧客獲得効果が高く、EXシリーズを購入したユーザーの30〜40%は新規顧客だったとし、「ルータだけでなく、スイッチやセキュリティ製品でも市場シェアを拡大している」と新規ビジネスが順調に推移していることをアピールした。

 このように順調な業績下でCEO職を引き継いだジョンソン氏だが、CEO就任後たった3週間後に予想外の事件が襲った。いわゆるリーマンショックとその後の景気低迷だ。同氏はリーマンショックについて、「予想していたよりもはるかに影響が大きい。当社も早急な方針修正が必要だった」とコメントした。

 ジョンソン氏がリーマンショック後の景気低迷期において、ジュニパーの最重要方針として挙げるのが「研究開発費の維持」だ。基本的に四半期ごとの業績を見て、それから判断するとしているが、研究開発費以外のコストは随時カットしていく方針だという。すでにCEOの給料は10%カット、バイスプレジデント以上は5%のカットを実施しているとした。

 投資を維持する研究開発分野でも、特に基幹OSである「JUNOS」の開発は重視する。従来と同じように四半期ごとに新版のリリースを継続し、新機能を提供していく予定だという。また、同社の新しいラインナップであるMX/EX/SRXシリーズを用いた新規市場獲得のための投資も引き続き行うとした。「当社は研究開発を続けることで、シリコン、システム、JUNOSのすべての面でイノベーションを提供できるベンダだ。特にJUNOSへの投資は、新機能をすべての製品で展開できるし、テストや運用を簡略化できるため非常に効率的で有効だ」とコメントし、JUNOSへ投資することの重要性を強調した。

 また、同社が主戦場とするコアルーティングへの需要は引き続き増加するという。調査結果からは、2012年にはインターネット人口が12億人にまで増加するほか、モバイルインターネットやゲーム、ビデオへの需要が拡大することから、ネットワークトラフィックは急増。ジュニパーが得意とする「ハイパフォーマンスネットワーキング」へのニーズは増加すると同氏は予測する。米IDCなどの調査結果によると、「2011〜2012年にはサービスプロバイダ向け市場240億ドル、エンタープライズ向け市場は290億ドル」にまで拡大するとした。

 これらの状況を踏まえ、ジョンソン氏は「経済状況は悪化しているが、ネットワークトラフィックは増大し、ハイパフォーマンスネットワーキングへのニーズも堅調に増加していくはずだ。当社はそのニーズに応えるため、JUNOSを中心とした技術へしっかりと投資を継続し、“ハイパフォーマンスネットワーキングを達成する”という当初の目標をしっかりと達成すれば、今後も成長を維持できるはずだ」と、今後の展望を示した。

エンタープライズ市場は長期的に成長できる市場

 その後、ジョンソン氏にインタビューする機会を得たので、同社の今後の方向性や今後の注力分野などを聞いた。

ジョンソン氏写真 インタビューに答えるジョンソン氏

 まず、今後改善していきたい点については、エンタープライズ向けのマーケティングを挙げた。ただし、マーケティング方法に関しては、「ジュニパーの価値をエンタープライズに伝えるという点で、かなり改善されてきていると思っている」とした。

 また、エンタープライズ市場の将来性については、「エンタープライズ市場向けにスイッチのEXシリーズを投入したことで、これまでのルータやセキュリティ製品と組み合わせることでよいソリューションが提供できるようになった。このように、ジュニパーが提供できる価値を市場へ訴求していくことが重要であり、エンタープライズ市場は長期的な成長機会だと考えている。例えば不況下では、TCOを下げるというメッセージにはこの市場でも大きな価値があるので、その価値を理解してもらえれば、ジュニパーを評価してもらえるはずだ」と評価した。

 基調講演でも期待を表していたサービスエッジ向けビジネスについては、「現在の製品ラインの中で一番成長率の高い部分で期待している。また、今後も成長し続けるはずだ」との認識を示した。

 日本市場に関しては、「この10年間、日本と真剣にかかわっていて定期的に訪問している。最近では2008年11月に訪問した。その際に、日本の顧客やパートナーと話す機会があったが、日本は技術に関して進んだ市場であり、技術を広く受け入れているという印象を持った。従ってテクノロジ市場として非常に重要だと感じている」と語った。

 そして、日本市場においてパートナー戦略が非常に重要であることを認識しているとし、「日本は特にパートナーが重要であることは認識している。ジュニパーは世界的にパートナー戦略を強化していくが、日本では特にパートナーとの関係を綿密にして協力体制を維持していきたい」と語り、方向性を示した。

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