アドビ、全製品のサービス連携に言及パッケージ製品のSaaS化加速か

» 2009年04月03日 00時00分 公開
[垣内郁栄,@IT]

 パッケージソフトウェアで大成功したソフトウェアベンダがサービス化への対応で苦闘している。その代表はマイクロソフト。同社に膨大な利益をもたらすオフィススイートの「Microsoft Office」は、ほとんどの企業で使われているが、無料サービスである「Google ドキュメント」などの追撃を受けている。

 クリエイター向けソフトウェアやPDF文書作成ツールで1つの時代を築いたアドビ システムズも同様だ。米アドビのビジネスプロダクティビティ部門担当 上級副社長 兼 ゼネラルマネージャー ロブ・ターコフ(Rob Tarkoff)氏は、「アドビの製品すべてでサービス連携はとても重要と捉えている。製品周りすべてで、強力なサービスを用意していく」とパッケージソフトウェア依存からの脱却を強調する。

アドビの「Acrobat.com」

 アドビは2008年夏からWebを介してPDF文書の作成やワードプロセッサ、Web会議などができるサービス「Acrobat.com」を提供している。このサービスが狙うのは、電子メールに文書を添付するという多くの企業で行われているコラボレーションを変革することだ。Web上に1つの文書を保存し、複数のメンバーがそのPDF文書を共有するというスタイルを提案する。Google ドキュメントの機能にPDF関連機能を付け加えた形に近い。

 アドビが北米を対象に行った調査によると、電子メールの利用は利用者の属性によって大きな違いがある。その属性とは年齢。いまの35歳が境となる。35歳以下の人の電子メールの利用は、35歳以上と比べて格段に少ないのだ。若年層は電子メールではなく、別のコラボレーション環境を模索している。

米アドビのビジネスプロダクティビティ部門 担当上級副社長 兼 ゼネラルマネージャー ロブ・ターコフ氏

 ターコフ氏によると、Acrobat.comは北米をターゲットにした英語ベースのサービス(日本語メニューも用意している)ながら、実際は世界中からアクセスがある。現在はベータ版で無償提供中。毎週10万人が新規登録していて、登録者数の合計は350万を超えた。

 また、アドビは日本向けのサービスとして、NECビッグローブと組み、PDF文書のアクセス権限管理を提供している(参考記事)。サーバ製品である「Adobe LiveCycle Rights Management」の機能をネットワーク経由で利用できるサービス。ターコフ氏は「コラボレーションの方法としては電子メールやWebなどさまざまあるが、オンライン/オフラインで利用でき、アクセス権限を設定できるPDF文書の有効性はユーザーに広く認識されている」と話した。

 アドビがソフトウェアのサービス展開でどのようなビジネスモデルを築くかはまだ不明だ。同社は「Adobe Reader」や「Flash Player」などのクライアント製品を無償で配布して普及率を高めてきた。一方で、対応するコンテンツ開発ツールやワークフロー、コラボレーションのサーバ製品を販売し、収益をあげてきた。

 Acrobat.comなど同社が展開するWebサービスの大半はベータ版ということもあり無償。無償だからこそ登録者が世界で350万人まで増えたという見方もでき、将来的に有償化を探る場合は難しい判断が求められる。しかし、個人ではなく企業を対象にしたサービスでは、サポートなどを充実させれば有償化は可能だ。

 その意味でアドビが期待しているのが、「Adobe LiveCycle ES Developer Express」。サーバ製品である「Adobe LiveCycle ES」を、Amazon EC2、Amazon S3で構築したクラウドコンピューティング環境でホスティングし、ネットワーク経由でユーザーに機能を届けるサービスだ。アドビは同社パートナーのエンジニアやユーザー企業のエンジニアに対して、LiveCycleの仮説検証環境として利用してほしいと訴えている。ターコフ氏は「今後は拡張して、本番環境のアプリケーションでも使えるようにしていきたい」と話した。

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