日本のSCMの課題は顧客協力と組織の壁IBCSが世界のSCM責任者を対象に調査

» 2009年04月24日 00時00分 公開
[大津心,@IT]

 IBMビジネスコンサルティングサービス(以下、IBCS)は24日、世界主要企業のサプライチェーン責任者を対象に行った調査結果「IBM Global Chief Supply Chain Officer Study 2009」(以下、IBM CSCO調査)を発表。同社のサプライチェーンマネジメント 日本リーダー 前平克人氏が詳細を説明した。

前平氏写真 IBCS サプライチェーンマネジメント 日本リーダー 前平克人氏

 この調査は、世界のサプライチェーンマネジメントの責任者が直面している課題について知ることで、サプライチェーンマネジメント責任者が戦略や取り組みを理解することを目的に実施。調査は25カ国の29業種393社におよび、日本は電気機器や消費財、食品などを中心に27社が対象となった。企業規模は、1001〜5000億円規模が一番多く30%程度、続いて2兆円強が25%程度だった。調査方法は、各社のサプライチェーンに関する統括者と、1〜1時間半程度直接面談して行った。前平氏は「このように世界有数のグローバル企業のサプライチェーン責任者へのアンケート自体は以前もあったが、今回のように直接面談形式のものは世界初だと思う」とコメントした。

 まず、IBCSは調査対象であるサプライチェーン責任者をCSCO(Chief Supply Chain Officer)と定義。おおむね、企業でこのような地位にいる担当者は、流通/ロジスティクスや計画(需要/供給)、ソーシング/購買、製造を統括していることが分かった。

 日本とグローバルで特に異なったのは製造の部分で、グローバルが28%しかCSCOの監督下にないのに対して、日本では48%と非常に多い点が異なった。今後、CSCOに求められる機能としては、パフォーマンス指標&分析が一番多く日本の場合は40%だった。第2位にはITが24%、経営戦略企画が20%と続いた。なお、CSCOは、複数の事業部門をまたがって職務を行う必要があることから、CEO直下に所属しているケースが約50%を占めた。

 調査結果からは、主に5つの主要課題が明らかになった。「顧客との親密性」「リスクマネジメント」「サプライチェーンの可視化」「コストの抑制」「グローバル化」の5点だ。この中でも、グローバルと日本で意識の差が出たのがリスクマネジメントと顧客との親密性。例えば、リスクマネジメントを課題と回答したのはグローバルが60%なのに対し、日本は73%。顧客との親密性を課題と回答したのはグローバルが56%に対して日本は74%と、どちらも10%以上の違いが現れていた。

可視化の効果
顧客向けの連続補充プログラム
86%
グローバルリーダー
58%
日本
顧客在庫計画・配置プログラム
72%
グローバルリーダー
28%
日本
顧客との協働による需要計画、予測補充プログラム
66%
グローバルリーダー
46%
日本

 また、今回の調査では、AMR Researchで選ばれた世界のTOPサプライチェーンマネジメント実施企業25社のうち、今回の調査で回答した17社の数値をベンチマーク指標として公開・比較した。その結果、顧客との親密性では、全体的にグローバルリーダーと比較して劣っていないものの、「社外顧客との協働需要計画」ではグローバルリーダーが63%だったのに対して、日本はわずか23%で非常に低かった。この点について前平氏は、「日本は社外顧客との連携がまだまだできていない。顧客との需要計画はSCMの起点となる部分なので、この部分を積極的に改善する必要があるだろう」と解説した。

 リスクマネジメントでは、「リスク管理の仕組みがある」と7割近くの日本企業が答えている。しかし、回答の中身を見てみると、標準プロセスがないといった「プロセス」が障害になっていると答えている企業が63%あったり、品質の低さなど「データ」が障害になっていると答えた企業が33%いるなど、十分にリスクを把握できていないことが分かる。特に、ガバナンス上の問題など「組織」が障害になっていると回答した企業は46%に達し、グローバルリーダーの19%と比較して倍以上の数値になっている点が問題だ。

リスクマネジメントの障害原因
組織インフラの問題やビジネス上の利害衝突など“組織”が障害となる
19%
グローバルリーダー
46%
日本
標準化プロセスがないなど、プロセス上の問題
48%
グローバルリーダー
63%
日本
品質が低い、標準がないなど、データの問題
48%
グローバルリーダー
33%
日本

 可視化の問題では、顧客の在庫や需要が可視化できていないことが明らかになった。例えば、「顧客向けの連続補充プログラム」の効果があったと答えた企業は、グローバルリーダーの72%に対して日本は33%、顧客在庫計画の効果でも、グローバルリーダーの72%に対して、日本は28%と非常に低い数値となった。「この結果を見ると、可視化して情報は見えるようにしているけれども、実際のアクションを起こしていないことが分かる。今後は、可視化したデータに基づいてきちんとアクションを起こすような仕組みが必要だろう」(前平氏)とコメントした。

 グローバル化では、「グローバル化によって全体的なパフォーマンスが改善した」と答えた割合がグローバルリーダーの59%に対して、日本はわずか22%。一方、「売上高が増加した」との回答では、同63%に対して日本は52%と差が小さい。このことから、前平氏は「日本企業は、製造の海外展開や海外販売などによって、売上高は拡大したものの、グローバルなサプライチェーン統合が十分にできていないことを示唆している」と分析した。

 これらの調査結果から、IBCSでは5つの主要課題に対して、今後取り組むべき施策には「販促や案件情報をより強くサプライチェーン全体に行き渡らせること」「グローバルレベルでの社内外のサプライチェーン情報を可視化・統合すること」「サプライチェーンマネジメントのKPIを全社のビジネスパフォーマンス情報と連結させること」の3つを挙げた。前平氏は「この3つは、その後調査会社へフィードバックしている過程で各社に確認したところ、ほぼどの企業でも同じことを課題として挙げていた。一方、日本企業の場合、これらに加えて、顧客との連携や組織の問題などにも対処が必要だろう。また、今後のサプライチェーンマネジメントでは、現在の『感知して即座に対応する型のSCM』から『予知して事前に行動する型のSCM』へ進化していくだろう」と語り、今後のSCMの方向性を予測した。

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