日本の製造業が利益率を高めるためには?「熊本市企業誘致説明会」でSCM改善のヒントを紹介

» 2009年10月20日 00時00分 公開
[内野宏信,@IT]

 製造業にとって依然として厳しい状況が続いている。こうした中、利益創出の軸となるサプライチェーンのあり方を見直す動きが高まっているが、より効率的な体制に改善するためには、あらゆる企業に共通する“配慮すべきポイント”が存在する――10月19日、東京・市ケ谷で開催された熊本市主催「熊本市企業誘致説明会」で、サプライチェーン・マネジメント(SCM)に多数のコンサルティング実績を持つ、サステナビリティコンサルティング代表 石川和幸氏が、「利益率だけでは見えてこない日本の製造業がもうからない理由」と題して講演を行った。石川氏は「自社ビジネスの“仕組み”からもう一度見直すべき」として、利益率改善のために目を向けるべき、サプライチェーンのチェックポイントを紹介した。

“もうかる業務の仕組み”から考える

 まず石川氏は、さまざまなデータを引用しながら、米国と日本におけるトップクラスの製造業同士の利益率の違いを比較し、ROA(総資本営業利益率)、ROS(売上高営業利益率)、ROE(株主資本営業利益率)の3つとも米国企業の方が高いことを紹介した。ただ、中でもROEが飛び抜けて高く、ROAとROSが低いことを受けて、「米国は借り入れによるROE重視の経営手法であり、そもそも日本企業とはビジネス構造が異なる。その点で、数値だけを根拠に“日本の製造業の利益率は低い”と断定することはできないのではないか」と解説した。

 加えて、これまでのコンサルティング経験から、「日本企業の場合、品質・サービスのレベルや、(サプライチェーンにかかわる各企業が)付加価値を配分しあう構造などが、利益率を形成するポイントになる」ことを指摘、「サプライチェーンのマネジメント、オペレーションを改善すれば十分にもうけられるはず」と、利益率の低さが構造的な問題ではないことを力説した。

写真 サステナビリティコンサルティング代表 石川和幸氏

 そのうえで、石川氏はサプライチェーンの改善を図るうえで注視すべき複数の着眼点を紹介した。1つ目は「もうけを生むビジネスモデルを大胆に考えられない、思考上のボトルネック」だ。

 そのボトルネックの1つが「サプライチェーンを構成する組織間連携の問題」だ。例えば、多くの企業において、製造部門と販売部門など、サプライチェーンの上流側と下流側に在庫が滞留しているケースが多い。これは、製造部門が販売部門の状況を把握し、それに応じて製造する体制になっていないことが主原因だが、「より根本的な原因は、主体企業がサプライチェーンをとらえるスコープが狭いことにある」という。

 「SCMとは、調達・製造・物流・販売といったサプライチェーンの各プロセスを担う組織が互いに連携・協調する取り組み。自社の工場や営業倉庫といった範囲だけではなく、物流会社、販売拠点といった、自社以外の組織も含めて、サプライチェーン全体を見渡す視点を持つべき。そのうえで、業務の連携体制、情報共有体制を見直したい。そうした体制によって製造部門と販売部門が連携し、無駄な在庫を作らないようになれば、製造費・保管費ともに削減でき、大幅な利益向上が見込める」(石川氏)

現在の現場オペレーションのすべてに、明確な存在理由があるか?

 もう1つのボトルネックは「ビジネスモデルの問題」を見落としがちなこと。石川氏はSCMの成功事例として有名なPCメーカー、デルの事例を紹介、「受注生産方式を取り、流通/小売業者を介さずに直接販売するというビジネスモデル自体が、すでに利益を生み出すべく差別化されている」と指摘し、「まず利益を確保できるようビジネスモデルから見直し、サプライチェーンは、その実現に最適な体制を考案することが重要だ」と解説した。

 また、そうした合理性を、サプライチェーン構成各社・各部門の連携体制だけではなく、「現場のオペレーションにまで徹底させるべきだ」という。例えば、工場内物流において、製品の梱包作業場所と在庫保管場所が離れているなど、非効率的な体制になっているケースが多い。そうした体制に、「ビジネスモデル実現という目的にひも付いた、何らかの理由」がある場合は問題ないが、そのときどきの状況を受けて、明確な理由がないまま定着した自然発生的な業務体制、プロセスとなっているものが少なくないという。

 「サプライチェーンの在り方、それを実現する製造拠点、販売拠点などの配置、拠点間の物流体制・運用の在り方、さらには日々の業務プロセスまで、すべてビジネスモデルを基点に、あらためて見直すべき。そのときどきの状況を受けて、半ば自然発生的に生じてきた“明確な理由がない自然発生的な業務プロセス”が残されている例が多いが、そこに効率化のチャンスが隠されている」(石川氏)

 一方で、「全体のもうけを帳消しにしかねない業績管理指標に振り回されている」問題も多いという。例えば、製品の販売実績が低下した場合、無駄な在庫を作らないよう工場での生産も抑制すべきだが、工場に「製造原価」という管理指標があるため、販売状況が悪いにもかかわらず、製造原価を安く抑えられるよう予定通りの数を製造してしまう例があるという。

 石川氏は、「サプライチェーンの連携体制を築くうえでは、ビジネスモデルの実現という1つの目標に向けて、関連する全組織の動きを収束させる業績評価指標が不可欠。これが真の業務連携のカギとなる」と解説した。

自社で持つものとアウトソースすべきものを分ける

 最後の問題点は、「ITに関するリテラシーが低く、有効な導入・活用ができていない」ことだ。特に「システムの導入によって他社のベストプラクティスを適用できる」といったセールストークをうのみにしたり、業務内容を熟知した情報システム要員の不足などにより、ベンダに導入作業を丸投げしてしまった結果、有効活用できずシステムが“金食い虫”に化している例が少なくないという。

 その反面、自社の戦略・体制に適切なITシステムを構築すれば、システムは競争力を生み出す源にもなり得るのだが、「会計機能など、標準的な付加価値のない業務システムへの投資にとどまり、より有効な活用には至らないケースも多い」。

 「すなわち、ITシステムを適切に導入・活用するうえでも、まず自社はどんなビジネスモデルを採用するのか、その実現のためにサプライチェーンはどんな体制とするのか、誰が意思決定者なのか、そのためにはどんな情報を、どのように収集するのかといった“SCMの在り方”を決めておくことか大前提となる。その中で、ITシステムの位置付けを考慮することが大切だ」(石川氏)

 また、近年は業務のアウトソースが1つの手法として定着しているが、SaaS、クラウド時代に突入しつつあるいま、IT分野でも“自社で持たない”という選択肢が充実しつつある。そうした状況も受けて、「自社の強みや、顧客の信頼を獲得している要素などを見極めることで、ITインフラを含めて、自社で持つ、あるいは実施すべきもの、アウトソースすべきものを見極めることも有効だ」と、効率化のための別の視点もアドバイス、「もう一度、ビジネスモデルから現場のオペレーションまで、丹念に自社のSCM体制を見直せば、もうかる仕組みは必ず構築できるはずだ」と締めくくった。

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