製造業の財務会計、管理会計を強力に支援日本インフォア、KCCSとERP分野で協業

» 2009年11月19日 00時00分 公開
[内野宏信,@IT]

 日本インフォアと京セラコミュニケーションシステム(以下、KCCS)は11月19日、製造業の連結経営を支援するERPソリューション分野で協業すると発表した。製造業に特化した日本インフォアのERP「Infor LN」と、京セラグループ独自の管理会計手法「アメーバ経営」のノウハウを実装したERPパッケージ「The Amoeba」を組み合わせることで、財務情報の一元管理と、きめ細かな業績管理を支援、製造業のROI最大化を大きく後押しするという。

グループ全体における業績データの一元管理が不可欠

 厳しい経済状況が続き、市場もめまぐるしく変化している昨今、企業が継続的に収益向上を図るためには、経営トップが“ビジネスの現場”の状況をつぶさに把握し、全社目標の実現に向けて、全組織の動きを無駄なく管理・統制していく体制が求められる。この実現のためには、世界に点在するグループ拠点の連結財務データを一元管理したり、製品別、地域別の売り上げなど、経営改善の手掛かりとなるきめ細かな業績データを収集・蓄積する体制が必要だ。さらに、そうしたデータを適切に評価して改善策につなげられる、全社目標にひも付いたKPI(重要業績評価指標)の策定も重要なポイントとなる。

写真 KCCS 専務取締役 ICT事業統括本部長の佐々木節夫氏

 しかし多くの場合、各拠点で使っているシステムが異なるといった事情から、こうした体制が実現できていない例が多い。KCCS 専務取締役 ICT事業統括本部長の佐々木節夫氏は、今回の協業の背景として、こうした状況を指摘し、次のように解説する。

 「全世界が不況に陥り、製造業をはじめ、多くの企業が度重なる業績見通しの修正を余儀なくされている。そうした中で無駄を抑えながらROI最大化を目指すことを考えれば、グループ全体における財務データの一元管理、きめ細かな経営情報の把握、そして全組織の動きを1つに束ねるためのKPI――これら3点がおのずと重要な鍵となってくる。むろん、好況のときからこれらの要素に着目していた企業は少なくないが、リーマンショック以降、多くの企業が自らの経験を通じて、その重要性をあらためて認識するようになっている」(佐々木氏)

 特にグローバル展開する製造業の場合、“常にROI最大化を狙う無駄のない経営”が求められるのは日本国内だけではなくなっている。中国や東南アジア各国が世界の“工場”から“マーケット”に変わっている現在、海外拠点についても、きめ細かな経営のコントロールが求められている。すなわち「国内・海外を問わず、グローバルなマーケットを意識した、グループ全体としての経営最適化が求められている」(佐々木氏)というわけだ。

財務会計、管理会計に強みを持つ、両社のERPを融合 

 しかし現実には、先に挙げた「拠点ごとに会計システムが異なる」といった事情から、財務データの一元管理が難しいうえ、きめ細かな業績データを収集する体制が整っていない例が多い。加えて、多くの企業において、グループ全体でのKPIを策定できていない状況にある。日本インフォア 代表取締役社長の村上智氏は、「今回の協業は、まさしくそうした課題を解決するために立案したものだ」と力説する。

 具体的には、日本の製造業の業務プロセスに特化した日本インフォアのERP「Infor LN」と、一般に“アメーバ経営”の名で認知されている管理会計手法を実装したKCCSのERP「The Amoeba」を、日本インフォアの提供するSOAの仕組み「Infor Open SOA」を使って連携させる。これにより、「財務会計、管理会計、双方で求められるデータをスピーディに収集、一元管理する体制を実現する」(村上氏)という。

写真 日本インフォア 代表取締役社長の村上智氏

 これには3つのポイントがある。1つは、管理会計手法に強みを持つKCCSが、製品と併せてコンサルティングサービスも提供すること。管理会計は、製品別、地域別といった細かなセグメントによるきめ細かなデータを集めるだけではなく、データを正しく評価し、全組織の動きを全社目標に向けて管理・統制できるKPIの設定が不可欠となる。

 具体的には、「部門」「課」あるいは「関係企業」といった各管理単位の「全社目標に対する役割」を明確に定義し、それに応じたKPIを設定する。すなわち、“全社目標にひも付いたKPI”を各管理単位に定義し、各管理単位の業績を短いスパンで測ることで、着実に組織全体を目標に向けてリードしていく格好だ。

 しかし、このためには組織間の利害関係調整をはじめ、さまざまなハードルが存在する。特に“あいまいさ”を重んじる業務慣習になじんだ日本企業にとって、これはなかなか難しい作業となる。そこで今回、KCCSはツールの提供とともとに、こうした体制構築から支援するという。

 「管理会計のポイントは、きめ細かなメッシュでデータを管理し、吸い上げるだけではなく、評価して次の改善につなげるPDCAサイクルを回すことにある。それも市場変化が激しい現在、ITの力を生かして短いスパンでサイクルを運用し、市場の動きに機敏に反応、改善していくことが大切だ。弊社では、各部門の納得を大切にしたKPIの策定から、PDCAサイクルを確実に回せる体制作りまで確実に支援することで、ユーザー企業の業績向上をともに考えていきたい」(佐々木氏)

ロールベースのUIで、各職級が目標に対する役割を認識

 2つ目は、日本インフォアの提供するSOAの仕組み「Infor Open SOA」を使うことだ。世界に点在する各拠点がそれぞれ異なる会計システムを使っていても、SOAの仕組みによって必要なデータを収集できる体制が整うという。

 「これまで、各拠点のデータを一元管理するうえでは、1種類のアプリケーション、1つのデータベースに統一する“シングル・インスタンス”のアプローチが一般的だった。しかし、そのためには既存システムの入れ替えが必要になるなど、現実的な選択肢にはなりにくかった。しかし、Infor Open SOAの仕組みを使えば、既存システムを生かしながらデータ連携できる。今回のターゲットに年商数百億円規模の中堅企業を含めているのも、こうしたコストメリットが望めるためだ」(村上氏)という。

 システムの使い勝手にも配慮した。具体的には、Infor Open SOAの1コンポーネントであり、ユーザーの役割・権限に応じて必要な情報のみを視覚的に提供する「Infor My Day」をシステムのインターフェイスとして使用する。これにより、「世界に点在する各拠点の財務データ、管理会計で求められる実績データを、経営層から現場層まで、各職級の権限に応じて1つの画面で確認できるようになる、すなわち経営の透明化、見える化が図れる」という。

Infor LN+The Amoebaの機能をSaaSでも提供

 そして3つ目が、Infor LN+The Amoeba+Infor My Dayの組み合わせによりもたらされる機能を、KCCSが提供するデータセンター「D@TA Center」を利用してSaaSでも提供することだ。これにより、グローバル展開によるITコスト削減に大きく寄与するという。

写真 「両社製品の強みを融合して、日本の製造業を元気にしたい」と語る両氏

 今回の協業について、村上氏は「両社の強みを組み合わせることで、まさしくいま企業が求めているものを提供できると思う。特に財務データの一元管理は、グループ全体の連結データが求められるIFRS対応にも大きく寄与する」と力説。

 佐々木氏も「各管理単位が全社目標に対する自分の役割を明確に認識し、アクションの結果を随時確認できることは、経営層から現場層まで、一丸となって継続的改善を狙うための大きなモチベーションとなるはずだ。日本を活性化させるカギは製造業が握っている。われわれのノウハウと技術力で日本の活性化を支援したい」と話している。

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