“ライフスライス”によりふさわしいテクノロジを提供する〜シトリックスCEO「Citrix Synergy 2012」が開幕

» 2012年05月10日 00時00分 公開
[大津心,@IT]

 「皆さんのWindowsデスクトップやアプリの提供の仕方を劇的に変える。それが『Project Avalon』だ。これこそが真のクラウドサービスを提供するということ」――。5月9日(米国時間)に開幕した米シトリックス・システムズの年次イベント「Citrix Synergy 2012」の基調講演でこう語ったのは、同社社長兼CEOであるマーク・テンプルトン(Mark Templeton)氏。同氏は、クラウドの登場によって、あらゆるものが大きく変化すると強調し、講演でも多くの時間を割いてクラウドサービスへの取り組みを語った。

矢継ぎ早に新サービス・アップデートを発表

 講演の冒頭では、次々と新サービスや新機能を発表。1つ目は、遠隔サポートを支援する「GoToAssist」のAndroid版、iPad版を無償で提供するというもの。2つ目は、ゼロクライアントの新機種「Wyse Xenith 2」。Wyse Xenith 2はよりセキュアになったほか、40%高速化し、720P HDの解像度にも対応した。3つ目は、同社が昨年買収したアプリケーションの移行/管理ソフト「App DNA」の新バージョン「App DNA 6.1」。Windows XPのサポートが2014年に切れることから、今後ニーズが高まるとテンプルトン氏は期待している。

テンプルトン氏写真 米シトリックス 社長兼CEO マーク・テンプルトン氏

 続いては、XenClientに関するもの。XenClientでは管理機能をより強化し、ユーザー当たり175ドルのEnterprise Editionを第2四半期に発表する予定。さらに、XenClientに関連して「もっともっと管理したい、管理が必要だという声が挙がっていた。この声に応えるために管理機能に優れたVirtual Computer社を買収した」(テンプルトン氏)と発表した。

“ライフスライス”に対応するためのソリューションが重要に

 続いて、シトリックス製品をよりイノベーティブに使っている企業を表彰するイノベーションアワードでは、日本の「IDCフロンティア」、オーストラリアの銀行「サンコープ」、米国で教育事業を手掛ける「ESA」の3社が最終候補に残った。ユーザー投票の結果、ESAがグランプリに選出された。

 テンプルトン氏は、「PCからクラウドへの変革は、いままでのすべての常識を覆す。過去の常識を振り払い、新しい前提を考えなければならない。従来は例外だったモバイルやワイヤレス、パーソナルが重要になってきている」と強調。さらに「例えばワークスタイルにしても、10年前は仕事とプライベートがきっちり分かれていて、オフィスにいる間は仕事、家に帰ればプライベートだった。しかし、いまは仕事とオフィスが細かくスライスされて相互に混じり合っている。わたしはこの状態を“ライフスライス”と呼んでいる」(同氏)。

ライフスライス 通常の状態(左)、プライベートと仕事が入り混じったライフスライスの状態(右)

 こういった状況では、仕事とプライベートの切り替えが頻繁に発生するため、その切り替え部分の“継ぎ目”がシームレスであればあるほど、切り替えが楽になる。その切り替えを早く、楽にするためのツールをシトリックスは提供しているのだという。「例えば、仕事では会議をして、タスクをこなして、議論して、それに対して行動して、データをとって……といったさまざまな仕事をこなしていかなければならない。それらをシームレスに連携できることが、ライフスライス状態を円滑に過ごすために非常に重要なのだ」。

 仕事とプライベートのシームレスな連携を実現するためのツールとしては、GoToMeetingの新iPad対応版や、新たに買収したソーシャルコラボレーションプラットフォーム「PODIO」が紹介された。GoToMeetingでは、新iPadに向けてHD画質の動画に対応。よりスムーズなビデオ会議が可能になったという。

 PODIOは、ワークスペースやワークフローを管理できるプラットフォーム。買収したことで、ShareFileと連携できるようになったほか、GoToMeetingへの参加なども可能になったという。デモでは、実際にGoToMeetingとの連携を行ったほか、アプリケーションの追加/連携などを紹介した。PODIOは現在5人まで無料で利用できる。

フォルダ単位で保存先を選べる企業向けオンラインストレージ

 テンプルトン氏は講演内で何度も「クラウドですべてが変化する。いままでの常識が変わる。新しい基準が必要」と訴え、クラウドの重要性を説いてきた。一方で、クラウドで便利になる半面、リスクも高まるのがクラウド上のデータだ。そのリスクに対応するために同社が提供するのが、新たに発表された「ShareFile with StorageZones」だ。

 ShareFile with StorageZonesは、企業向けオンラインストレージサービス「ShareFile」のセキュリティリスクをさらに低減するために、フォルダ単位で保存先を選べる「StorageZones」を組み合わせたものだ。データの保存先は、パブリッククラウド/プライベートクラウドというレベルの選択肢だけでなく、データセンターの場所なども選択できる。「例えば、コンプライアンスの問題で必ず国内で保管しなければならないデータもあるだろう。そのような場合に、フォルダ単位で国内のデータセンターを選択できる点は大きい。Outlookの添付ファイルだけをクラウド上に置く、といった使い分けもできる。これらは企業から出てきたニーズに応えるものだ」(テンプルトン氏)。

 続いてデータ関連で発表されたのが「Citrix Receiver with Follow-Me Data」だ。これは、Citrix Receiverを立ち上げれば、その上でデータやアプリケーションを使えるようになったというもの。従来のReceiverでは、別々に立ち上げて利用する必要があった。「これにより、どこからでもデータにアクセスできるようになった。しかもマルチデバイス対応なので、さらに柔軟性は高い」(同氏)と説明した。

Windowsのデスクトップ/アプリを真のクラウドサービスとして提供

 そして、講演の大きな柱の1つがテンプルトン氏が何度も強調する「クラウドサービス」だ。シトリックスは、4月に同社のクラウド運用開発プロジェクト「CloudStack」をApache Software Foundationへ移行すると発表している

 テンプルトン氏は、この移行について「オープンソース化することで、ベンダロックインを防ぐことができる。また、シトリックス1社が開発するのに対して、オープンソース化によって、3万人以上のコミュニティが参加するほか、60以上のベンダによるエコシステムができたため、開発速度が飛躍的に向上するだろう。当社は『CloudPlatform powered by Apache CloudStack』として、CloudStack上の商業サービスを提供する。商業サービスでは有償でサポートを行っていく」とコメントした。また、WAN高速化やL2ブリッジ機能を持つクラウドゲートウェイの新版「CloudBridge 2」も発表した。

Avalon Project Avalonのサービスイメージ

 クラウド関連サービスにおいて、今回のイベントの目玉と言えるのが、冒頭で紹介した「Project Avalon」だ。Project Avalonは、同社が2年以上取り組んできたプロジェクト。このプロジェクトによって、CloudStackを用いたクラウドプラットフォーム上だけでなく、どんなクラウド上でもXenDesktop/XenAppを稼働させることができるようになるという。テンプルトン氏は、「Project Avalonによって、Windowsのデスクトップ/アプリを真のクラウドサービスとして提供できるようになる。これは劇的な進化だ。カスタマーベータを下期に提供する予定だ」と多くを語らなかったものの、今後の展開に自信を見せた。

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