仮想化の見えない効果[Analysis]

» 2008年12月01日 00時00分 公開
[大津心,@IT]

 本コーナーでも何度か触れているが(参考記事1参考記事2)、今年は日本におけるグリーンIT元年ともいえる年となった。洞爺湖サミットが開催されたことで“エコ”が注目を集めたこともあり、産官学連携の「グリーンIT推進協議会」も2月1日に発足している。そのグリーンITに大きく貢献する技術が「仮想化」だ。

 仮想化技術は、1970年代から頻繁に使われてきた古い技術だ。それが最近になってブレークしたのは、やはりヴイエムウェアがWindowsに仮想化技術を持ち込み少しずつ普及させてきた点が大きい。さらに今年には、マイクロソフトやオラクルが無償でハイパーバイザ機能を提供し始め、仮想化市場に参入してきている。

 仮想化技術を導入する最大のメリットは、やはり「物理サーバ統合による運用コスト削減」だろう。CPU使用率の低いサーバ10台を最新の電力効率のよいサーバ1台に集約できれば、電気代や空調コスト、管理コストの削減などが見込める。特に昨今の経済情勢では、来年のITコストの見直しを迫られている企業も多い。特に日本の場合には諸外国と比べてITシステムの運用コストの比率が高いといわれている。そこで日本の経営陣たちは、システム部門に対して運用コストの削減を求め、その手段として仮想化技術の導入を検討している企業も多いだろう。

 では、実際に物理サーバを統合することでどのようなメリットがあるのだろうか。実際は業務内容やサーバ機種の構成などで効果にばらつきがあるので一概にはいえないが、例えば、いままで10台のサーバで行っていた処理を1台に集約した場合、「CPU数が減ることによるアプリケーションライセンスの減少」「サーバの電気代の減少」「サーバ台数減少による空調費用の減少」「台数減少によるハードウェア故障件数の減少」などなど、ざっと挙げただけでもさまざまな効果が見込める。

 一方、デメリットも当然ある。まず、初期コストが通常よりも掛かる。また、「仮想化」というレイヤが増えるためにサーバの構造が複雑になり、管理工数が増すケースも多い。初期コストは、比較的大型のサーバを購入することや、仮想化アプリケーションのライセンス料もバカにならない。そのため、仮想化技術を導入しようとしている企業のIT部門は、「仮想化を導入すると削減できる管理コストが○○円、初期費用が△△円掛かるので、2年で回収できるはずだ」ときちんと試算し、経営陣を説得する必要があるだろう。

 ただし、仮想化技術を導入するメリットはこれだけではない。左記のような比較的分かりやすく目に見えるようなメリット以外にも、“目に見えない仮想化導入のメリット”があるのだ。

 では、比較的見えにくい仮想化のメリットはどのようなものだろうか。例えば、「開発環境がすぐに手に入るようになった」「ディザスタリカバリ(DR)が簡単になり、コストも削減できた」「部署サーバを容易に立てられるようになった」「資産管理が楽になった」といったケースが挙げられる。

 やはり、物理サーバを用意せずに仮想サーバを立てられるために、時間やコストが短縮・圧縮できるケースが多い。例えば、従来であれば開発環境を構築する場合、物理サーバを用意し、さらに本番環境に影響を与えないネットワーク上に構築しなければならず、予算的に気軽にできなかったり、数日間かかったりしていた。しかし、仮想的に開発用サーバを立ちあげるだけであれば、数時間で構築することも可能だ。同様に、部署別のサーバも簡単に立ち上げることができる。

 DRやバックアップも容易になる。開発環境と同様に、バックアップやDRでも物理サーバを用意せずとも仮想環境でバックアップイメージを構築することができるので、時間やコスト的に容易に構築が可能だ。

 また、「サーバ数が減るために、資産管理的に事務作業が楽になる」「物理サーバの故障回数が減ることでデータセンターに行って修理・交換する回数が減った」「社内サービスのシェアードサービス化が進んだ」など、意外な効果もあるようだ。逆に、ユーザーが物理サーバを気にせずに仮想サーバを構築できるようになったことで、部署サーバなどが増加し、仮想サーバの管理が大変になるというデメリットもある。

 この部分を効率化するためには、社内サーバやサーバ運用業務などの標準化が必須だ。また、標準化を行ったうえで運用の自動化も効率化するためには必要になる。これを実現できれば、“社内クラウドコンピューティング”も夢ではない。

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