ソフト開発ができるのは米国企業だけではない[Analysis]

» 2009年03月23日 00時00分 公開
[垣内郁栄,@IT]

 金融危機以降、懐疑的な見方が広がったとはいえ、グローバル資本主義の恩恵を各国が受けているのは確実だ。よく言われるのが発展途上国における中流層の拡大。グローバル資本主義によって発展途上国がサプライチェーンの1つとなり、その利益が多くの中流層を生み出した。

 もっともソフトウェア業界に限っていえば、米国企業ほどグローバル展開を実践している存在はない。特にインフラ系のソフトウェアは強く、オペレーティングシステムのマイクロソフト、データベースのオラクル、各種ミドルウェアのIBMなど米国企業が開発したソフトウェアが世界中で使われている。

 だが、当然ながら米国企業だけがソフトウェアを開発するわけではない。米国以外の国にも強いソフトウェア企業はたくさんある。彼らの競争力の源泉を探ることで、ソフトウェア企業がこれから進むべき道が見えてくるかもしれない。

ベストプラクティスに着目したSAP

 米国企業以外のソフトウェア企業、その代表はソフトウェア専業では世界3番目の規模を誇るドイツのSAPだ(1位はマイクロソフト、2位がオラクル)。SAPはERPパッケージのシェアで1位。世界で5万社の企業が使っていて、日本でも2000社以上が利用している。

 SAPの強さはベストプラクティスに着目したことだ。どのような企業でも、そして大企業なら特に、バックオフィス業務に大きな違いはない。財務会計や受発注、在庫管理、販売管理などはある程度の共通点がある。SAPはこの企業における共通点に注目し、ソフトウェアを使って最も効率的に処理できるプロセスを確立した。これが、どの企業が採用しても効率化を達成できるベストプラクティスだ。このベストプラクティスはさらに製造業、金融業、流通業、製薬業など業種別に分けることができる。

 SAPは、製造業や医薬・製薬業が活発なドイツで生まれたこともあり、これらの企業が作り出してきたビジネスプロセスを巧みにERPの中に落とし込んできた。顧客との対話がベストプラクティスを作り上げたといえる。この仕組み自体は日本のソフトウェア企業でも可能だ。日本の自動車メーカーが持つ高いレベルのビジネスプロセスをソフトウェアに落とし込めれば、新興国を中心に高いニーズがあるだろう。

 現在、SAPが直面する課題は、SAP以外の世界との統合。SAPの製品だけで構成された環境では最適な機能を提供するベストプラクティスも、他社製アプリケーションや異なる環境のビジネスプロセスと組み合わせようとすると最適を維持することは難しくなる。そもそもSAPの世界と外の世界を接続しようとするだけで大きな開発が必要になり、コストが膨らむという課題もある。

 SAPはこの問題を解決するためのSOA戦略を推し進めて、システム間の接続性の向上と、ビジネスプロセスの柔軟性の確保を実現しようとしている。SAPがSAPシステムだけでなく、企業のITシステム全体を効率化、最適化できるようになれば、ソフトウェア企業としてさらなる成長が期待できる。

顧客に鍛えられるソフトウェア企業

 顧客企業と密着することで製品の完成度を高め、結果的に多くの企業に受け入れられるという点では、今後はインド企業や中国企業の台頭が予測される。インドはタタ・コンサルタンシー・サービシズなどが、ソフトウェア開発を含む多数のアウトソーシング案件を欧米企業から受託している。アウトソーシングを通じて顧客のビジネスプロセスについてのノウハウを蓄積。現在はITコンサルティング企業の色合いが強いインドのIT企業だが、技術力は高く評価されていて、今後、独自のソフトウェアでも存在感を増す可能性がある。

 ソフトウェア企業、特に法人向けのソフトウェアを開発する企業は顧客企業によって育てられる。それはソフトウェア開発だけでなく、法人向けビジネスで重要になるサービスビジネスでも同様だ。特にグローバル市場への拡大を前提とするなら、グローバルで活躍する顧客企業と密接に付き合うことが重要になるだろう。日本のソフトウェア企業にも当てはまると思うのだが、どうだろうか。

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