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[特別寄稿]
ブロードバンドが企業にいい理由

インターネット戦略研究所主幹研究員
元INTEROP MAGAZINE編集長
三木 泉


 今年もNetWorld + Interop、通称“N+I”の季節がやってきた。縁があって日米のN+Iをここ10年近くにわたって取材しつづけてきた私は、この展示会を舞台に、銅線を使ったFDDIで100Mbpsを実現しようとしたCDDIという技術の相互接続実験や、ファーストイーサネットと100VG-AnyLANの対決が展開されてきたことをふと思い出した。100Mbpsイーサネットなどとっくの昔に陳腐化し、今では数千円単位で製品が買える今では、隔世の感がある。

 米国でTCP/IPプロトコル群を使ったコンピュータ間の通信を推進すべく、製品間で相互接続ができるかどうかを確認するために集まったのがInteropの発祥だ(このInteropという、日本人には発音しにくい名前は、Interoperability、つまり相互接続性を略したもの)。これはインターネットの発展を後押ししてきたイベントである。そしてInteropでは相互接続検証を焦点に、新しいデータ伝送技術がデビューし、その実力や現実性を試される場として機能してきた。

 自動車と同じように、伝送技術でもスピードは力だ。Interopにも、これまで高速性を売り物にして数々の技術が登場し、その多くは消えていった。LANに関しては、トークンリング、CDDI、100VG-AnyLAN、ATMを次々に蹴散らして、イーサネットからファーストイーサネット、そしてギガビットイーサネットと、イーサネットをベースにした技術が勝利を収めることで一段落した。そして現在は通信事業者に向けた、アクセスサービスやバックボーンの高速化のための技術に焦点が移っている。

 ここ数年で光伝送技術が大きく脚光を浴びるようになったが、そのきっかけとも言えるのがDWDM(高密度波長分割多重装置)だ。その基本的な役割は、データを光ファイバーケーブル上に光信号として流す際に、複数の波長を利用することで、一度に流すデータの量を複数倍に広げることにある。

 WDMは従来、ボトルネックが発生しやすい通信事業者のトラフィック集中ポイントで、いわば応急処置として導入されてきた。最近では、波長バインディング(複数の波長を論理的に結合し、1つのパイプとして提供する機能)をはじめとして、新サービスの創出につながるインテリジェント機能を実現する製品が注目されてきている。

 通信事業者はアクセス部分で、SONET/SDHをベースとしたネットワークを運用してきた。これは、耐障害性などの点で優れた仕組みではあるものの、設定変更が複雑で時間がかかる、単一の機器では1つの波長しか扱えないため、いくらDWDM装置で100チャンネルなどの多数の波長を多重化できても、その両端におびただしい数のSONET/SDH機器を設置する必要があり、現実的な運用が困難という問題があった。また、時分割多重をベースとしたこれまでの使い方では、ユーザー企業のニーズに応じて、帯域の細かい分割や、帯域の柔軟な追加ができない、といった欠点を抱えていた。

 現在では、こうした欠点を補うような製品が次々に発売されている。

 さらにアクセスネットワークでは、LANを席巻したギガビットイーサネット機器を利用し、さらに低コストな広帯域サービスを実現しようという動きもある。

通信サービスの時代がくる

 上に述べたような通信事業者のための高速伝送技術は、企業における日常業務とは無関係のように思われるかもしれない。しかし、新技術のおかげで広帯域かつ廉価なIP通信サービスが続々と登場してこようとしている。そしてそのこと自体が、ビジネスコンピューティングを大きく変革させる可能性を秘めている。

 これまでの、国内におけるビジネスコンピューティングの進展を妨げてきた非常に大きな要因は、広域通信サービスの貧弱さだった。一般の企業は、NTTの設定する料金モデルに右往左往させられながら、結局のところ数百Kbpsで拠点間を接続するような手段しか利用できてこなかった。こうした状況が自由なデータネットワーキングをどれだけ阻害してきたことだろうか。

ブロードバンドに対応したバックボーンネットワークの進化

 128Kbpsや256Kbpsという狭いWAN接続帯域にLANトラフィックを収容することに苦慮してきた企業は多い。たとえば複数拠点を持っている企業がメールサーバを1拠点でしか運営していない場合、他の拠点のユーザはすべてこの狭いWAN接続を経由してアクセスすることになるため、特に始業時間をはじめとした利用の集中時間には、レスポンスが極度に悪化している。

 インターネット接続を1拠点でしかやっていない場合も同様だ。他拠点でインターネットを利用しようとするユーザがすべていったん狭いWAN回線を通ってこのインターネット接続拠点に乗り入れてから、共通のインターネット接続を経由することになるため、二重のボトルネックが発生する可能性すらある。

 そうでなくとも、社内の業務データベース等の利用の進展によって、データトラフィックは増加の一途をたどっており、WAN帯域が飽和してしまっているところが多い。ノーツのようなデータベースの自動複製機能を備えたアプリケーションでは、データベースの分散によってユーザの体感レスポンスを見かけ上改善することはできる。しかしデータベースコンテンツの複製作業自体が帯域を大幅に消費するため、業務時間外に複製をまとめて実行するなどの工夫で逃げるしかない企業も多かったのだ。

 ブロードバンド時代の到来は、たしかにコンシューマーへのインターネットの普及のおかげではあるが、そのインパクトはどんな新サービスが利用できるようになるかとか、キラーコンテンツはどうあるべきかといった消費者向けの話題にとどまるものではない。企業にとって、これまでには比べものにならないほど広帯域なWAN接続が、わずかなコストで手に入るようになることも意味している。やや大げさに言えば、WANをLANのように使える時代にやっとたどりついたと言える。これは革命的なことだ。

 もうメールサーバを分散配置する必要はなくなる。ノーツサーバ間の複製も、これからは1日に1回ではなく、10分ごとに1回という頻度で行えるようになるかもしれない。もちろん場合によっては、各拠点のノーツサーバを引き揚げ、本社に統合するという判断も可能になるだろう。

 広大なWAN帯域と、これによって可能となるアプリケーションの集中化は、距離や部署を超えたリアルタイムの情報共有という、近年におけるビジネスコンピューティングにおける大きなテーマを、大きな前進に導くものになるに違いない。

 確かに言えることの1つは、今後企業が通信サービスの利用を考える際に、ATMスイッチやFRADではなく、ルータを使っていくことを出発点とすべきだということだ。

 ATMやFRADは、ATM専用線やメガリンク、フレームリレーといった特定のサービスに依存する機器だ。これでは機動的に通信サービスを選んで乗り換えていくことができない。

 現在から今後にかけて、企業向け通信サービスをめぐる事業者間の闘いは、こうした下位レイヤとは関係なく、すべてIP通信サービス間の競争として進められていく。これからのブロードバンド時代の進展にしたがって広がっていく圧倒的な帯域幅と低コストの恩恵を最大限に享受するには、ホスト接続や音声通信を含むすべてのアプリケーションをIPに統合することから始めなければならない。

 IPルータを基本とすれば、その時々で利用したいサービスに合わせ、ルータに装着するWAN接続インタフェースを入れ替えていけばいい。機器をまるごと買い換えることなく、時代の変化を機敏に取り入れ、自社のネットワークを進化させていくことができるようになるのだ。

 これからの通信サービスが、全国均一に展開されていくことは、まず期待できない。安くて速いサービスは、必ず大都市からスタートし、次に段階的に県庁所在地へ展開されていく。その他の地域での提供は遅れることになるだろう。それでも、IPをベースに社内ネットワーキングを考えていれば、各拠点でもっとも有利なサービスを選択し、組み合わせて利用することができる。こうしたことからも、普遍性を最大の武器とするIPの便利さが、今後さらにクローズアップされてくるはずだ。複数の通信事業者を並行して利用し、バックアップ体制をとることも可能だ。通信料金の低下に伴って、こうした使い方は広がってくるだろう。

アウトソーシングの進展

 そうはいっても、公衆サービスであるインターネット接続サービスを、企業が自社の拠点間通信のために利用するために避けられない課題として残るのは、安定した帯域とセキュリティの確保だ。

 安定した帯域を確保するには、主要な通信経路を単一の通信事業者に一括して任せるのが有利なことは間違いない。それだけではなく、通信事業者のバックボーンネットワーク内に、ボトルネックとなる個所が存在しないこと、あるいは伝送遅延やアップタイムに関する何らかの保証が与えられることが強く望まれるところだ。

 セキュリティについては、大きな変化が起こりそうだ。インターネット接続サービスのようなオープンなネットワークのコストメリットを十分に活用しながら、拠点間で業務上のやり取りをするのなら、そのデータを他人に見せないための仕組みが当然ながら必要だ。そこで、やっとVPN(仮想閉域網)構築製品が日の目を見るようになる可能性も高い。

 IPSecという標準に基づいてデータの暗号化機能を提供するVPNの関連製品は、今まで製品開発ベンダーが熱心に語るほどには現実の導入が進んでいなかった。その大きな原因の1つは、こうした製品を使うメリットが十分に感じられるほど明らかに有利な公衆IP通信サービスがなかったことにある。インターネット接続サービスがたいして安くないため、わさわざ暗号化装置を入れてまで使う必然性がなかったのだ。

 しかし、これだけ高速な接続が低料金で手に入るようになってくれば、VPN技術の利用によってセキュリティを確保する犠牲を払ってでも、こうしたインターネット接続サービスの利用を検討するのは、もはや自然な成り行きと言える。

 WANがLANのように使えるようになってしまえば、理屈としてはアプリケーションはどこにあってもいいということになる。社内業務向けのアプリケーションサービスプロバイダ(ASP)やデータセンターも、今後ブロードバンド化の進展に後押しされ、総体的には利用者が大きく増えていくはずだ。

 メールサーバひとつとっても、信頼できる外部業者に運用管理をまかせてしまったほうが効率的だ。もちろん現在でも、社内に置かれたメールサーバの運用を外部の業者にまかせているユーザ企業はすでに存在する。この考え方をさらに推し進めれば、どこかのデータセンターに自社用のメールサーバを置き、場合によっては管理も任せるということは十分に考えられる。複数拠点を持っている企業で、従来のようなポイント・ツー・ポイントの拠点間接続からインターネット接続サービス主体のWANサービスに移行したユーザ企業にとっては、どの拠点からでも快適にアクセスが可能なインターネット上のデータセンターにメールサーバを置くことは、とても理にかなっている。同じようにして、他の社内アプリケーションの一部についても、ホスティング/コロケーション/運用代行サービスの採用が進んでいくはずだ。

 さらにこうした動きは、そのうちに従来ほとんど手がつけられていなかった別の分野に広がっていくはずだ。それはPBXのホスティングである。

 PBXは、一般の企業では新たな価値を生みにくい後ろ向き投資の代表選手のようなものだ。オープンさに対する配慮が不十分なこの世界では、PBXと電話機を自由に組み合わせることすらできない。

ブロードバンド化によってIP PBXのホスティングサービスも登場するだろう。VoIPで結ばれることによって、場所を意識する必要がなくなる

 しかし、米国ではIP PBXを統合した機能を備えたソフトスイッチというジャンルの製品が大きな進展を遂げており、一部の地域通信事業者やネットワークサービスプロバイダ(NSC)と呼ばれる一部の業者の間で導入が進み始めている。これは、専用機器で行われてきたPBXの機能を、オープンなコンピュータで実現してしまう製品だ。Voice over IP(VoIP)を前提としているが、機能としてはこれまでのPBXと同等か、これを上回ることができる。

 ソフトスイッチを備えた通信事業者は、VoIPで企業との間を結び、電話交換サービスを提供することができる。VoIPを使うということは、企業にとってみれば音声通信専用網を構築することなく、データ通信のための外部との接続に相乗りする形でこうしたサービスを使うことができる。エンドユーザの使う電話端末は、IP電話機と呼ばれるイーサネットインタフェースを備えた次世代電話機でもいいし、パソコンを使ってもいい。適切なゲートウェイを使えば、従来のPBXや電話機も利用可能になる。

 ソフトスイッチでは、これまで中堅以下の企業では夢物語だった各エンドユーザのためのボイスメールボックスや、画面に表示される社内電話帳からのマウスクリックで通話できる機能、さらにはエンドユーザ自身が着信コールのスクリーニングや自動転送を実現できるような機能を持っているのが普通だ。

 通信事業者のデータセンターでホスティングされているPBXに、VoIPで接続できるのなら、理論上はインターネット上のどこに電話機やパソコンがあっても、このPBXを使って音声通話ができるようになる。これはすなわち、地球上のどこにでもコールセンターを構築できることを意味する。子育てなどの理由で家庭に入った社員を、在宅のままコールセンターのオペレータとして雇用できるなど、業務体制の機動化を大きく進められる可能性が生まれる。
 「ブロードバンド時代、ここから始まる」をテーマに掲げた今年のN+Iは、IPのさらなる浸透による新たな業務変革への息吹を、おそらく実感できるようなイベントになるだろう。

 

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