@IT|@IT自分戦略研究所|QA@IT|イベントカレンダー+ログ | ||
Loading
|
@IT > N+I特別企画:ブロードバンドで変わるASP |
|
|
|
吉田育代
日本でもブロードバンド時代が視界に入ってきた。都心に拠点を構える企業なら、今や1.5Mbpsの専用線をISPまで敷設して、接続料金と回線料金を含めて30万円前後。1990年代中ごろまでは同じ容量のネットワーク環境を得ようとすれば、接続料金で30万円、回線料金で30万円かかっていたから、価格は1/2に下がっている。 SOHOや個人ユーザーを対象にしたインターネット接続サービスも変化している。少し前ならインターネットに現実的な範囲で常時接続したいと思えば、サービスは128Kbps、月額3万8000円のOCNエコノミーしかなかったが、現在はさまざまなブローバンドサービスが利用可能だ。 ケーブルテレビ事業者が提供するインターネット回線は、500Kbps〜1Mbpsで月額5000〜6000円。電話回線の銅線を使い、上りと下りが非対称ながら高速のデジタル通信を実現するADSLは、上りが200Kbps〜512Kbps、下りが512〜1.5Mbpsで月額4000〜8000円だ。 地域やプロバイダがまだまだ限定されているが、無線を使ったインターネット常時接続を提供する「インターネットマンション」が登場し、100Mbpsクラスの帯域を提供する光ファイバーを使った光・IP通信網サービスもある。 ユーザーの動きも思ったより機敏だ。DSLは今年に入って急激に加入者が増えており、総務庁 総合通信基盤局 電子通信事業部 電気通信技術システム課の調査によると、昨年までは1万人に満たなかったのが、2001年3月にはなんと6万8746人にまで達している。 こうしてユーザーのネットワーク環境が向上してくると、インターネットを使った各種のサービスビジネスにも新たな展開が見えてくるだろう。そして、ASPなどはその恩恵を受ける筆頭のビジネスだ。回線が速くなれば、複雑なトランザクション処理も行いやすくなり、動画や音声など容量の大きなデータも流しやすい。今回は、ブロードバンド化の流れの中で、ASPがどういう方向へ向かっていくのかを探ってみた。
動画や音声というと、誰しもまず思い浮かべるのは、映画や音楽などエンターテインメントコンテンツだろう。そのためつい個人向けと考えてしまうところがあるが、最近では、企業でもこうした大容量データを日常的に利用したいというニーズが高まっている。それはインターネットを利用した教育研修だ。これまでは教育といえば、集合教育が主な手段だった。一つの空間に講師と受講者が集い、インタラクティブにやりとりができるという点では、この手段は王道だ。しかしながら、集合教育は、人が集わなければならないため時間と場所に制限がある、レベルの異なる受講者を一度に教えなければならないなどといった欠点もある。それを補完するものとして期待されているのが、インターネットによる教育だ。ネットワーク環境さえあれば、いつでもどこでも受講することができ、受講者は自分のレベルに合わせて内容や進行速度を選ぶことができる。これは現在、e-Learning、Web-Based
Training(WBT)などと呼ばれ、さまざまなスタイルで展開が始まっている。 東京・西池袋に拠点を要する株式会社レイル(http://www.reile.co.jp/)は、このe-LearningをASP形式で提供している企業だ。同社の本業は専修・専門学校向けの教科書販売だが、近年の企業や教育機関でのIT投資の高まりから、PCの利用スキルを評価するパソコン検定試験を提供するとともに、前述のサービスを開始した。
同社のe-Learning事業の柱となるのは、教育コンテンツ制作オーサリングツール「Live Creator」の販売と、コンテンツの高速配信を行うASPサービスだ。Live
Creatorは、HTMLの知識がなくても、図版やビデオやアニメーションなどいった動画、文字コンテンツを自由に配置して教育コンテンツを作ることができる(画面1)。 たとえば、講師の講義風景をビデオコンテンツとして流し、その話が進むに連れて、同時に表示されている文字コンテンツに下線を引いたり、丸で囲んだり、グラフやチャートを変化させるといったことが可能だ。プラットフォームはWindows95/98/Me/2000で、WebブラウザはIE5.01以上で稼動する。 「e-Learningで高い学習効果を得るためには、動画や音声といったマルチメディアコンテンツの利用が不可欠です。ネイティブの先生に発音してもらったり、アニメーションでわかりやすく解説することによって、習得度や理解度が大きく高まるのです」 株式会社レイル e-Learning事業部 事業部長 松浦行展氏は、ネット教育における動画や音声データの重要性をこのように語る。
しかしながら、今のところ、こうしたマルチメディアを駆使したリッチなコンテンツをインターネット上でストレスなく流すのは難しいため、実際は企業のイントラネット環境かCD-ROMでの利用にとどまっている。 Live Creatorにはエクセサイズという機能があって試験問題を作成することができるが、この部分に関しては、ASP形式でのサービスがスタートした。具体的にコンテンツは、同社が事務局となっているパソコン検定の模擬試験問題だ。レイルと契約しているユーザー企業の社員は、試験問題を提供するサーバに好きなときにアクセスして自分の理解度を確認することができる。このサーバのネットワーク環境には、NTT-MEの光ファイバーIPネットワークの「XePheon」が利用されており、運用管理については株式会社コア・フュージョンが行っている。 ADSLを始めとするブローバンドネットワークの浸透は、同社にとって“追い風だが、気をひきしめてかかる必要がある”と、松浦氏は冷静だ。 「こうしたe-Learningは、本来、都市部と地方の環境格差を埋めるために利用されるものですが、現状のブロードバンド対応はまだまだ都市部中心。事業者は“人口30万以上の地域にどんどん敷設していく”といっているが、それより小さい市町村はたくさんあります。日本全体がブロードバンドを享受できるようになるには、まだまだ時間がかかるでしょう」
とはいえ、大容量データを使ったコンテンツ配信実験はすでに始まっている。これもパソコン検定に関するものだが、あるユーザー企業に協力を依頼し、ストリーミングビデオデータを文字コンテンツとともに配信している。回線のサイズは今のところ56Kbps1本。 「この実証実験で、当社内ではこれでいけるなという感触は得られました。受注さえあれば、いつでも本格展開することができます」 同社e-Learning事業部 八木橋晃氏はこう語る。昨今、企業では人材こそ戦力という考え方から、研修により各種資格を取得させるなど教育熱は高まっている。どのような形であってもブロードバンドが広がれば、それをもとに新たなビジネスモデルが構築される可能性はある。この分野、意外に動き出したら早いかもしれない。
大容量データといえば、CADデータもまたその代表例だ。3次元CADのデータともなれば、数十Mバイト、ときには数Gバイトにもなる。ブロードバンド時代になれば、こうしたコンテンツもまたインターネット上を走るのだろうか? 株式会社クレディスト(http://www.credist.co.jp/)では、「キャドスクエア」という名称で、CADアプリケーションのASPサービスを展開する。同社は、今年1月に株式会社SRAと三井情報開発株式会社が共同出資で設立した新会社だ。 ただし、このASPサービスは通常のサーバベースのテクノロジーモデルと違って、CADアプリケーション一式をユーザー企業の環境に置く。CADデータのような大容量データをやりとりするには、現行の通信回線では不十分で、セキュリティ面からも問題があると判断したからだ。これでなぜASPかというと、IDとパスワードを発行することによりライセンス管理のみをASP事業者が行うのである。このランセンス管理に、米国マクロビジョン・グローブトロッター社の「FLEXlm」というアプリケーションを用いる。サーバ管理については、CADアプリケーションベンダーが行う(図2)。
収益モデルとしては、エンドユーザーはASPライセンスによる使用料をクレディスト経由でCADアプリケーションベンダーに支払い、CADアプリケーションベンダーは、クレディストのライセンス管理に対して手数料を支払う。現在、クレディストは複数のCADアプリケーションベンダーと最終的な契約交渉を行っており、それが完了しだいサービスを開始するという。
三井情報開発株式会社 カスタマーサービス副本部長 中原満氏は、こうしたスタイルでのASPサービス提供のメリットを以下のように語る。 これまで、中小のCAD設計会社は、仕事を発注してくれる製造業が利用する高いCADアプリケーションを、無理して導入していたのだという。しかし、クレディスクエアを利用すれば、時間単位の使用料で済むため、コスト負担は大幅に削減可能になる。
また、製造業大手の中にも、設計開発のピーク時だけライセンス数を増やしたいというニーズは以前からあり、このASPサービスによって問題を解決できるという。 将来的にこのASPサービスがサーバベースに移行するかどうかについては、株式会社クレディスト マーケティング部長 山崎孝志氏は否定的だった。
「わたしたちはまだブロードバンドを体験していないので、その威力がよくわかっていないところがあります。現行のASPビジネスが今すぐブロードバンドに向けて動き出す、というのは少し無理があるかもしれませんね」
と語るのはインターナップ・ジャパン株式会社の代表取締役社長 矢野厚氏だ。同社は米国インターナップ・ネットワーク・サービシズ・コーポレーション(以下、米国インターナップ社)、株式会社NTT-ME、日本電信電話株式会社が出資して設立されたインターネット接続サービス事業者だ。 同社では、アクセス回線のブロードバンド化で真っ先に変化を迫られるのはバックボーンだとし、P-NAP(Private-Network Access Point)サービスを開始した。 P-NAPでは、主要な複数のバックボーンプロバイダに直結した独自のネットワークを提供することによって、混雑しがちなピアリングポイントや公衆IXを通ることなく、ユーザーはデータをやりとりすることができる。ISPやWebサイト運営者にとっては、P-NAP1本に接続すれば、複数のバックボーンとのパイプを持ったことになり、それらのバックボーンの間で接続時間が最短になるようルート検索が行われるため、高速で信頼性の高いデータアクセスを実現することができる(図3)。
米国本社ではすでに600社を越える顧客企業を持ち、その中にはASP/iDC事業者の顧客企業も多いという。名前が明かされている範囲では、ASP業界の第一人者コリオが同社の顧客である。しかしながら、日本法人は見込み顧客アプローチの優先順位が少し異なる。現在は、NTT-MEの光IPネットワークサービス「XePheon」利用企業、米国インターナップ社のサービスを導入している外資系企業の日本法人、マルチメディアコンテンツの提供企業という3つの分野に焦点を絞って営業活動を展開している。ASP/iDC事業者への導入に関しては、まずNTT-MEのOracle
Applicationsを中核としたASPサービスなどからスタートするのではないかというのが同社の予測だ。 「ブロードバンド化で持たらされる変化というのは、白黒テレビがカラーテレビになるようなもの。あの感激は白黒時代にはとても想像できませんでした。今後は、帯域が広くなればどういうことが可能になるのか、私どもが具体的にお見せしていくことで、その威力をお伝えしていきたいと考えています。そうなれば、ブロードバンドに対応したASPビジネスもどんどん登場することになるでしょう。ニーズがほんとうにあるのなら、技術的課題は越えられます」(矢野氏) 確かに、携帯電話がなかった頃にはiモードサービスなんて考えはまったくなかったし、インターネットが台頭する以前は、オークションで欲しいものを手に入れるなんて発想はなかった。普及して初めて見えてくる世界があるということなのだろう。 ブロードバンド時代はやってくる。問題は、それがどこでピークを迎えるかだ。読みが早すぎれば空振りし、遅すぎれば手痛い機会損失だ。ASP事業者にとっては、ここしばらくブロードバンドの普及動向をにらみつつ、動きを模索するという日々が続きそうだ。
|
|