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@IT > SPSS事例探求 第12回 インタースコープ編 |
企画・制作:アットマーク・アイティ
営業企画局 掲載内容有効期限:2003年12月12日 |
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結構なコストをかけて調査を実施すると、立派な調査報告書が出来上がる。「なるほど、消費者の意識や行動の実態はよく分かった。しかし、自社は何をどうすれば、自社にとってプラスの効果を得られるのか、いまひとつよく分からない」と、さまざまな調査結果を眺めながらこのような気持ちを感じられた方は少なくないだろう。 一般に、調査における分析の目的の多くは、「実態」を正確に把握することに費やされ、なぜそうなるのかという「因果関係」を明らかにしようとする試みはそれほど多くない。しかし、物事の「原因」と「結果」を明らかにすることができれば、現状把握にとどまらず、どのような施策が有効か、という今後の取るべき方向性を示すことができる。そうなれば、調査結果は戦略策定や意思決定のための重要な素材になるはずだ。 今回は、こうした物事の因果関係や仕組み(構造)を分析するには有効な手法である「共分散構造分析」に取り組む、株式会社インタースコープにて話を伺った。取材にご協力いただいたのは、同社執行役員 開発統括本部長 久恒整氏、および、開発統括本部 研究開発部 主任研究員 天辰次郎氏である。
インタースコープは、2000年3月に設立されたベンチャー企業である。設立当初より、インターネット調査を手がけており、現在は約12万人のインターネット調査モニターを抱えている。同社は、調査事業において、短時間・低コストをインターネット調査の必要条件と位置づけ、シンプルな調査案件を数多く手がけると同時に、高付加価値なサービスも提供している。具体的には、Webテクノロジーを駆使した独自の調査手法と複雑な解析サービスを展開しており、ハイエンドなクライアントから高い顧客満足を獲得している。 信頼性の高い調査インフラの構築やインタラクティブな調査設計手法、高精度なWebプログラミング力により最適なWeb画面を作成するなど、調査案件に応じた調査手法を開発するとともに、マーケティング分野で活躍していた経験のあるスタッフによる優れた分析力、コンサルティング力を、同社はクライアントに提供している。
同社には、さまざまな企業から調査案件が持ち込まれるが、最近では、従来の分析に飽き足らず、より高度な分析を求めるケースが多くなってきたという。天辰氏によれば、そうしたニーズは、調査を依頼するクライアント側にだけあるわけではなく、調査を受託する調査会社側、つまり自分たちから仕掛けているという側面もあるそうだ。天辰氏はこう語る。
「調査案件についてクライアントと話を進めていく中で、単に実態を把握するというだけではなく、ものごとの構造(仕組み)や因果関係の把握まで踏み込んだ分析をされてはいかがでしょうか、と提案することが多くなりました」 また、久恒氏によれば、
「リサーチャーにとっていちばん苦しいところは、調査結果を報告したあとに『それで?いったい我々は何をすればいいの?』とクライアントに聞き返されたとき、その先を語ることができない、というところじゃないでしょうか。もし、物事の仕組み(構造)や因果関係をしっかり分析できていれば、それらを踏まえて、『次のアクションはどうすべきか』という問いかけに、満足いくような答えを用意できると思います」 とのことで、同社の手がける調査分析が高まる顧客ニーズに対応していることが分かる。
こうした調査ニーズの高度化に対して、「共分散構造分析」と呼ばれる分析手法が有効になりつつあるという。共分散構造分析は、比較的新しい分析手法であり、まだ手法としての認知度は高くないが、天辰氏は、かなり高い評価を下しているようだ。
「共分散構造分析は、物事の複雑な構造・仕組みを『パス図』という形で分かりやすく図式化し、その図に描かれた各要素(因子)間の因果関係やその因果関係の強さを示すことができます。ですので、分析結果が非常に理解しやすいという点で、優れた分析手法だといえます」(天辰氏)。 同社では、以前から共分散構造分析についての研究を進めていたが、本格的に取り組むことになったのは、ある調査案件がきっかけだったという。その調査案件の分析手法として最適だったのが、共分散構造分析であった。そこで、急遽、共分散構造分析を実行できるSPSSの“Amos”の導入が決まった。今から1年ほど前のことである。導入にあたって、ひと通り他社ツールやフリーソフトの検討もしたそうだが、すべてクリック&ドラッグ&ドロップで操作が可能な“Amos”にかなうGUIをもつものはなかったという。しかも“Amos”は、分析する過程において、複雑なプログラムを組む必要がないため、頭の中にあるモデルをすぐに図式化できる。
「“Amos”を選定するにあたって迷うことはありませんでした。また、参考文献が豊富なことも決め手になりました。というのも、初めて導入される“Amos”について、 そのほとんどを独学でマスターしなければならなかったからです」(天辰氏)。 “Amos”を使った感想を聞いたところ、次のような言葉が返ってきた。
「すばらしいの一言です。GUIのレベルがぜんぜん違います。よくここまで高度な機能を使いやすいインターフェイスに仕上げられたものだと思います。モデルの方程式がパス図と連動していて、絵を描くような感覚でパス図を作成すれば、複雑な方程式が自動的に作成されます。それに、痒いところに手が届くというのか、細かな機能が随所にサポートされていて、このちょっとした配慮が分析に追われる者にとってはとてもありがたいです」 (天辰氏)。
同社において、共分散構造分析手法を用いて、実際に行われた事例をご紹介しよう。この内容は2003年11月13日から開催される「SPSS Open House 2003」で詳しく発表される。 この調査は、ダイエット関連の機能性飲料の評価モデルを作成することを目的として、インタースコープの独自調査として実施された。この調査で明らかにされたのは、「ダイエット関連の機能性飲料はどんな要因に基づいて購入されているか」という因果関係である。
早速、ドリンク評価の基本モデルを見ていただこう。
これがパス図である。この図の中で、楕円形で示されているのが「因子」と呼ばれる要素である。「魅力」という因子に対し、「味の好み」因子と「ダイエット(というイメージ)」因子から矢印が伸びているが、これは、ドリンクの「魅力」は、「味の好み」と「ダイエット」という2つの要素の影響を強く受けて決定されているということを示している。また、「味の好み」因子と「ダイエット」因子は両方向の矢印でつながっているが、これは相互に影響し合う関係にあるということを示している。 一方、各因子から矢印でつながっている長方形の要素は、アンケートの各設問として、実際に調査モニターに聞いた項目(観測変数と呼ばれる)である。例えば、「魅力」因子は、「買いたい」「好き」「飲みたい」というの3つの観測変数に対して矢印が伸びているが、これは、消費者が魅力を感じた結果、「買いたい」「好き」「飲みたい」という意識・行動につながるととらえることができる。 この基本モデルに基づき、Amosで分析した結果が次の図である。
この図では、各因子間、観測変数間の矢印に数値(パス係数)が入っている。この数値が大きいほどその関係が強いことを意味する。例えば、「魅力」因子と「味の好み」因子間は 0.68であり、「魅力」因子と「ダイエット」因子間の係数 0.18と比較すると、魅力を決定する要因としては、「味の好み」が与える影響は3倍以上強いということが分かる。 では次に、これまでのモデルに、CM効果を加えたパス図を見てみよう。
図3では、「CMイメージ」因子が、「味の好み」因子、および「ダイエット」因子に与える影響を示すモデルとなっている。「CMイメージ」因子は、2つの観測変数、すなわち「CMのイメージが良い」「CMをよく見る」と結びつけられている。図4は、図3にパス係数を加えた結果である。これをグラフ化し、各ブランドの「CMイメージ」因子と、「味の好み」因子、「ダイエット」因子間のパス係数を比較してみよう(図5)。
このグラフから、例えばC社の「CMイメージ」は「味の好み」に大きな影響を与えているものの、「ダイエット」に対してはそれほど大きな影響を与えていないことが分かる。一方、D社では、「CMイメージ」は「味の好み」だけでなく、「ダイエット」にも同等の影響を与えていることが分かる。
いうまでもなく、「CMイメージ」は、CMにおけるメッセージやイメージの訴求内容の違いから生まれるものである。ドリンクのマーケティング担当者は、こうした分析結果を踏まえ、「味の好み」や「ダイエット」というドリンクの「魅力」に影響を与える因子をコントロールするには、今後のCMでどのような点を訴求すればよいかを検討することができる。つまり、現状把握にとどまらず、直接購買行動につながる「魅力」の因果関係を把握することで、今後のマーケティング施策についての方向性を判断することが可能になるのである。
「調査結果をマーケティングの具体的な施策に結びつけることができる点が、『共分散構造分析』の特徴の1つです。また、分析プロセスにおいて、仮説を立て、検証し、そこからまた新たな仮説を生み出していくというスパイラルなアクションを積み重ねることができるので、結果的にマーケターとしての思考力を高めることにつながっています」(久恒氏)。 また、実際にこのダイエット関連の機能性飲料の分析を担当した天辰氏は次のように語った。
SPSS 藤川氏の言葉を借りて言い換えると、“Amos”の魅力は次のとおりである。
「従来の統計手法とは異なり、“Amos”を使えば、分析者自身がデータによりふさわしいモデルを試行錯誤しながら模索することができます。因果関係を四角や楕円、矢印で表現できる“Amos”のグラフィカルなインターフェイスは、複雑になりがちな分析者のイメージモデルをよりシンプルにビジュアル化することで、繰り返し行われる分析モデルの試行錯誤をサポートしています」(藤川氏)。
天辰氏は、共分散構造分析が適用できる分野は、事例として紹介したドリンクなどの製品評価分析だけでなく、ブランド評価分析や、価格とシェアの関係性分析など多岐にわたると見込んでいる。 というのも、現状把握のための分析に加え、“Amos”を用いて仮想モデルによる分析予測を行えば、マーケティングアクションの結果をシミュレーションすることができ、さまざまなマーケティング戦略の立案が可能になるからだという。そのためにも、同社では、今後、共分散構造分析による分析精度を向上させるため、消費者行動をよりリアルに反映した、精度の高い生データをどう収集するか、そのためにインターネットをどう活用するか、ということが大きな課題になっているとのことだ。 さまざまな機能と優れたインターフェイスを持つ“Amos”が、データ分析〜戦略立案までをサポートする同社の高付加価値なインターネット・リサーチ・ビジネスに大きく貢献するのは間違いない。
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