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 @IT > SPSS事例探求 第13回 ジャックス編
 
@IT[FYI] 企画・制作:アットマーク・アイティ 営業企画局
掲載内容有効期限:2004年6月21日

 
◆ SPSS製品 導入事例探求シリーズ 第13回 ◆
信販会社の領域を超える、ジャックス50年目の挑戦!

データマイニングを武器にした
“JACCS-CRMソリューション”とは?

 2004年6月に創立50周年を迎える株式会社 ジャックスが、CRM(Customer Relationship Management)導入プロジェクトを立ち上げたのは2002年1月。その目的は、データ分析を通じ顧客ニーズを的確に把握することだった。これは、「経験や勘に依存した企業本位の分析ではなく、顧客の立場に立ったデータ分析こそが、顧客満足を向上させる」という考え方に基づいている。

 2002年4月にSPSSの“Clementine”を導入し、稼動を始めたCRMシステムは、それから2年余ジャックス社内で活用され、いよいよ2004年4月、加盟店向けビジネス・コンサルティング・サービス(正式名称:JACCS-CRMソリューション)の中核を担うシステムとして新たなフェイズに突入した。これは、加盟店のCRMを支援するためのツールとして、同システムが同社の業務プロセスに一体化されたことを意味する。

 同社のこうした取り組みは、SPSSが提唱している「Predictive Analytics」の基本コンセプトである「売上を伸ばす仕組み」を実現している先進的な事例の1つといえるだろう。今回は、同社戦略事業部 ネット事業課 推進役 虻川鎌一郎(あぶかわ けんいちろう)氏、および同 西野泰教(にしの やすのり)氏の両氏に、“JACCS-CRMソリューション”の全貌とそれを支えるCRMシステムの開発秘話をお聞きした。

 


左から、株式会社 ジャックス 虻川氏、同 西野氏、SPSS 伊藤氏

 
ジャックスのCRMシステム「MaRIA」
 
   

 同社は、これまで信販会社が主に果たしてきた「与信」という役割を大きく超え、加盟店に対する包括的なビジネス・コンサルティング・サービスの展開に取り組んできた。その先導役を務める虻川氏、西野氏が属する「戦略事業部」は、新規ビジネスの開拓を担う部署である。同社のCRMシステムは、当初より同事業部が開発主体となっており、社内業務向けの仕組みとしての完成が最終目的ではなかった。

 
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DWH:MaRIAのロゴ
CRMシステムの核である分析用データが蓄積されるデータウェアハウスには、最近、社内公募を通じて「MaRIA」(マリア)という愛称がつけられた。これは、“Management Resources for Information Analysis(情報分析のための経営資源)”という語句を略して考案されたとのこと

 「MaRIA」は、2003年4月までの試行段階を経て、11月にリリースされた。「MaRIA」が構築される以前は、基幹系システム「JANET」のデータを変換し、データマイニングツール「Clementine」に直接取り込んでいた。しかし、処理スピードが優先される基幹システムからデータを抽出するには制約が多かったことから、分析系システムとして独立させるために、データウェアハウスの「MaRIA」を別途構築したという。その結果、基幹系システム「JANET」に取り込まれたデータを分析系システムのエンジン「MaRIA」に蓄積した上で、「Clementine」「SPSS」「Answer Tree」などを利用してデータマイニングを実行する仕組みが完成した。

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図1 システム構成図
(資料提供:JACCS)

 
CRMシステム「MaRIA」のうれしい誤算
 
   

 


株式会社 ジャックス
戦略事業部
ネット事業課 推進役 
虻川鎌一郎氏

  「MaRIA」が無事に構築されると、今度は「このシステムをどう使いこなすか」という課題が持ち上がった。しかし、そこにはうれしい誤算があったという。虻川氏は、当時を振り返って次のように語った。

「SPSSの伊藤さんから、『データマイニングとは、データ加工8割、分析2割』と聞かされていましたので、ある意味覚悟はしていました。分析そのものより、分析の前処理としてのデータ加工に多くの時間を取られるだろうと。ところが、当社で640億円を投じて構築した業界最先端の「JANET」は、データ統合や体系化という点でもとても出来がよかったのです。したがって、基幹系システムから分析系システムに移行する際のデータ加工にかかる工数は予想に反して少なく、すぐに分析作業や分析結果に基づくテストプロモーションのフェイズに入ることができました。これはある意味うれしい誤算でした」(虻川氏)

 それに続けて、西野氏もコメントしてくれた。

「当初は5年計画でCRMソリューションのサービスを開発していく予定でした。しかし、実際には2年ほどで、外部の加盟店に対するさまざまなコンサルティング・サービスを提供できるレベルにまで「MaRIA」を使いこなせるようになりました。これもまたうれしい誤算です」(西野氏)

 
労力を要した分析プロセスの体系化や運用体制の構築
 
   

 同社のCRMシステム導入は順調に進められたが、実際の運用段階では、虻川氏、西野氏にはもう1つ越えなければならない課題があった。もともと情報システム部門の出身である両氏の情報リテラシーは相当高く、操作性に優れた「Clementine」を使いこなすにはそれほどの苦労はなく、ツールの操作自体は3カ月ほどで習得できたという。

 ところが、いざ多種多様な提携カードやローンから発生するデータを分析してみると、ジャックスが保有する全データを分析した結果にはあまり意味がないことに気付いたという。つまり、多種多様なデータが揃いすぎているがゆえに、得られる結果がかえって特徴のないものになってしまうからだった。有意な分析結果を導き出すためには、業種・業態、あるいは加盟店ごとにデータをまとめ、それぞれの特性に応じて分析の切り口を変えるというきめ細かな分析が必要となったそうだ。また、分析自体はすぐに実行できたとしても、その分析結果の妥当性・有効性を検証するためには十分な時間が必要だったともいう。

 社内業務の一環として加盟店向けのビジネス・コンサルティング・サービスの域まで到達するには、分析プロセスの体系化や運用体制、運用ルールなどを構築するのに、結局のところ、1年余りの時間が経過した。その一方で、データマイニング業務に携わる同社スタッフに対しては、SPSSからのスキルトランスファーが継続的に行われていた。その結果、現在、同社には商品企画部門や与信管理部門などに属する20名以上のスタッフが「Clementine」や「Answer Tree」を十二分に使いこなすレベルになっているそうだ。

 
“JACCS-CRMソリューション”とは?
 
   

 2004年4月には、新規事業としてビジネス・コンサルティング・サービス“JACCS-CRMソリューション”が旗挙げされた。同サービスは次の3つを柱に展開されている。図2では、同ソリューションの概念を図式化しているので参考にしてほしい。

  • クレジットカードを媒体としたデータの収集・蓄積
  • データの分析結果に基づく、効果的な販促施策の提案
  • 販促施策の実施・効果検証

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図2 JACCS-CRMソリューションの概念図
(資料提供:JACCS)

 加盟店では、提携クレジットカード(各加盟店のブランドで発行されるクレジットカード)や各種割賦販売(ローン)の導入によって、より詳細な顧客属性や販売データを収集することが可能になる。こうして収集された顧客データが同社の「MaRIA」に蓄積され、同社内で分析される。分析結果は加盟店の業種特性に応じた分析レポートとして提供され、また、販売促進施策の提案に利用される。

 同社の分析サービスの優位性はどこにあるのだろうか? それは、同社が持つデータそのものの規模と多様性にある。提携カードを通じて収集・蓄積されるデータには、顧客属性のみならず、顧客のライフスタイルそのものを如実に表すデータ(例えば、フィットネスクラブやエステティックサロン、英会話、車など、さまざまな業種・業態のデータ)が含まれる。顧客の属性以外のデータを一業種一店舗が収集するには限界があることを考えると、同社のような信販会社ならではの優位性はおいそれとは真似のできないものであることが分かる。

 2004年4月現在、同社が発行している提携カードは3000社、総加盟店舗数は30万店舗、そして会員数800万人分のデータを保有しているという。同社では、これら膨大なデータを独自のノウハウによって分析し、販売トレンドや成功事例を紹介することで、より説得力のある販売促進プランを提案する。いうまでもなく、同社の個人情報保護に関する取り組みは、他の金融機関に勝るとも劣らない高レベルな状態で実施されている。

 虻川氏は、同社が保有するデータから浮き彫りにされる顧客のライフスタイルの一例を挙げ、“JACCS-CRMソリューション”の優位性を強調する。

「例えば、弊社の顧客データを分析すると、『高級ブティックで洋服を購入し、高級外車に乗り、会員制フィットネスクラブに通う』というライフスタイルを持つ顧客を抽出することができます。このようにライフスタイルが明瞭にセグメントされていれば、販促企画のターゲットとして抽出する場合には、相当有効であるといえるのではないでしょうか」(虻川氏)

 同社では、販売促進施策に基づいて実施されるテレアポ(電話によるセールス)や電子メールあるいは郵送によるダイレクトメールなどの販促支援業務も請け負っている。作業が煩雑で、一定のスキルやノウハウを必要とする販促業務に関わる人的負荷が軽減されるため、こうしたJACCS-CRMソリューションの包括的なサービスを歓迎する加盟店が多いという。また、虻川氏によれば、最近特に注目されているメリットがあるという。

「顧客データの漏えいが、企業の屋台骨を大きく揺るがすような事態にまで発展してしまう今日、自社でコストを投じて顧客データの管理を行うよりも、より強固なセキュリティ体制の整っている弊社に任せた方が安心と考える加盟店が増えています」(虻川氏)

 
ジャックスが「Clementine」を選んだ理由
 
   

 


株式会社 ジャックス
戦略事業部
ネット事業課 推進役
西野泰教氏

 同社が分析ツールとして「Clementine」を選択した最大の理由は、前述したように「操作性の高さ」だったそうだ。商品企画部門など、ほかの社内ユーザーへのスキルトランスファーを考えると、操作が容易であるということは、当然はずせないポイントである。しかも、実際に操作してみると操作性の高さだけでなく、ビジュアル・プログラミング機能である「ストリーム」の作成によって、分析プロセスが可視化されるメリットも実感できたという。実際、作成したストリームを虻川氏、西野氏の間でやり取りすることもあるそうだ。虻川氏は「Clementine」のストリームについて次のように感想を語ってくれた。

「個人の頭の中にあった『暗黙知(属人的な閉じた知識)』が、ストリームによって、他人にも容易に渡せる『形式知(誰でも活用できる知識)』に変換されるような感じでしょうか」(虻川氏)

 また、西野氏はもう1つ違うメリットを感じているそうだ。

「ストリームを作成しているうちに、新たな分析の切り口やサービス内容が浮かんでくることがあります。“クレメン(*)”は新たなアイデアを生み出すためのツールにもなっています」(西野氏)

(*)西野氏は“Clementine”を「クレメン」と略して呼んでいるそうだ。SPSS社内でも、親しみを込めて「クレメン」とか「クレム」と呼ぶ人がいるという。



SPSS
ソリューショングループ
伊藤祐介氏

 同社を担当するSPSS ソリューショングループ 主任セールスコンサルタントの伊藤祐介氏は同社への支援体制について次のように考えていると語る。

「日々の分析業務に対しては継続的にサポートさせていただきたいと思います。また、より高度な分析技術の取り組みに関わる部分では、ジャックス様の分析ニーズを実現できるよう、さらに支援させていただきたいと考えています」(伊藤氏)

 伊藤氏のコメントに対し、虻川氏の期待を込めた応答があった。

「分析のコアの部分は、アウトソースしてもいいのではないかとも考えています。業務知識を持っている私たちが直接分析をやることも必要ですが、SPSSさんのような第三者に別の視点から高度な分析技術を提供してもらえば、さらに新たな発見があるかもしれません」 (虻川氏)

 というのも、同社は現状に満足することなく、さらに大きなビジョンを抱いているからである。

「現在、さまざまな業種・業態の加盟店に対し、個別にソリューションを提供しているわけですが、今後は横に広げたいと考えています。具体的には、顧客側に軸足を置き、顧客の目線で加盟店のさまざまな商品・サービスを適切に組み合わせて提案していく。顧客1人1人のライフスタイルのさまざまな局面に対して、適切な商品・サービスを紹介することで、顧客満足が高まる。そして、それによって加盟店の収益も増加するというわけです。顧客と加盟店の仲立ちとなるエージェント的なサービスというのは、顧客の多様なデータを保有し、かつ高度なデータマイニング機能を備えたCRMソリューションを持つ弊社だからこそ実現可能であると考えています」(虻川氏)

 “JACCS-CRMソリューション”が今後どう発展し、どのような結果を生み出すのか、また、その中核を担う「Clementine」によるデータマイニングがどのような機能や役割を果たしていくのか、たいへん興味深い。今後、こうしたCRMソリューションを補完する形で「Clementine」が活用される事例も増えていくことだろう。

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